ほしくず


夢:二期:ラスタル[20161225]

先日の産業コロニー群付近での掃討作戦より、シエルはしばし夢を見る。
登場人物の顔は分からない。黒く塗りつぶされているからだ。
顔といわず頭部を含む首から上、全てがクレヨンでぐちゃぐちゃに塗りつぶされた世界で、シエルだけが唯一鮮明だった。

彼女は夢の中の自分を、まるで第三者のように冷静に見ていた。
夢の中の世界で見る自分は幼かったり今と変わらない外見だったり。見る順番はバラバラだ。幼少時代の夢を見たかと思えば、一足飛びに今とほとんど変わらない自分が登場する。その次は十代半ばくらいの頃だろうか。
今の自分と同じく無表情・無感情であったり、かと思えば無邪気に笑う自分も。これはいったい誰だろうか。まるで別人だ。
同じ年の頃の少年二人が、それぞれヴァイオリンとフルートを奏でる場面にいたこともあった。その時の自分の表情は大層穏やかだ。きっと、この二人の少年に心を許しているのだろう。
首から上すべてが分からないため、もっぱら体格や服装、声でシエルは登場人物を見分けていた。これらは鮮明に見え、聞こえるのに、なぜか顔だけは執拗に塗りつぶされていた。異常なまでに。

今日の夢は今の自分と変わらない外見の、自分に瓜二つの人間が出てくる夢だった。きっと、夢の中の自分はシエルが忘れた過去なのだろう。けれどあまりにも今の自分との表情が違い過ぎて、その人物が自分であるなどとは到底思えない。
夜明け前に見た夢は、見たことのないモビルスーツに乗り、眉間にしわを刻み、苦しそうな顔で戦う自分だった。





「少し顔色が悪いようだがどうした?」

艦の中にあるラスタルの執務室にて、シエルはタブレットを操作していた。
内容は秘匿事項。ラスタルの腹心の部下でしか扱うことの出来ない、非常に重要な内容だ。ジュリエッタやイオクにも取り扱わせない、といえばどれほど重要なのか分かるだろうか。もちろん、下準備が出来てから彼女達に知らせることもある。
シエルはタブレットを操作する指を止め、目線は上げないまま口を開く。

「…最近、頻繁に夢を見ます。ですが、戦闘には支障はありません」

淡々と告げ、指の動きを再開する。画面に映る情報が滑るように流れる中、カツカツと床を歩く音が近づく。
数歩の距離でシエルの座るソファへとたどり着いたラスタルは、不意を突くように彼女の顎に手を伸ばし、指で軽く持ち上げた。

「普段顔色を全く変えないお前が、俺にも分かるような様相でか?」
「あなただから分かるのでは?」

私はあなたの猫ですから、と真顔で伝えれば、哄笑が部屋に響いた。その勢いのまま頭を掻き回すように撫でられたシエルは、無表情のまま乱れた髪を手櫛でぞんざいに直した。それを見た飼い主が、笑いながら整えてやるまであと数秒。


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