ラスタルの密命により、シエルは地球に下りていた。
ガラン・モッサがアーブラウ側の工作を担当するならば、SAU側はシエルの担当だ。主に、情報の操作、撹乱を行う。正規軍に混じっての戦闘は行わない。
あくまで黒子に徹する。それがラスタルより、シエルに与えられた任務だ。
正体を隠すため、背中まである白銀の髪は頭部でまとめ、上から茶髪のショートウィッグを装着している。
目元は色つきのゴーグルによって隠れている。
加えて性別を偽るために、首まである専用のインナースーツで胸を潰し、その上からハイネックの服を着ている。またインナースーツの首元には変声機も付いている。
最後に首にスカーフをゆるく巻き、首の太さと、男ならある喉仏を誤魔化している。手袋も当然着用済みだ。
少年よりは大人びており、青年よりは幼い。そんな、どこか危うい色香を纏う、線の細い少年。それが今のシエルの姿だ。
危険を伴う任務だが、彼女にとっては、その実力、出自ともに適材適所な任務だ。
そもそも戸籍の無い身。外見さえ誤魔化せばどうとでもなる。
ただし、引き際を間違えてはいけない。
潮時を見てシエルはSAU陣営から離脱した。
マクギリス・ファリド准将が介入する前の、数日前のことである。
どうやらアーブラウ側にも動きがあったようだ。
ガランが仮のねぐらとしている拠点へと向かえば、けたたましい音を立ててアラートが鳴った。
「敵!?どこの部隊だ!?」
アーブラウか、それともSAUかと、基地内が騒がしくなる。
一度散開し、再び合流地点で合おうと指示を出すガランに、シエルは問いかけた。
「手伝う」
「いや、いい。お前は行け。ここは俺たちでなんとかする」
「分かった。何か伝えておくことは?」
「次の仕事を始めるにはしばらく時間がかかると、あいつに言っておいてくれ」
「了解」
バイクに跨り、エンジンを起動する。シエルは全速でこの場を後にした。
しばらく走ったのち、遠くの空に光が見えた。
「よくも、のこのこと戻ってこれましたね」
アリアンロッドの旗艦に戻ったシエルを出迎えたのは、仁王立ちで腕を組むジュリエッタだ。
「なぜですか!あなたがいたというのに!なぜ、おじさまは…!」
「彼は何とかすると言った。私はそれを聞き入れた。負けたのは彼の実力がそれまでだったということだ」
「おじさまは…っ!」
「彼は弱いから死んだ。それだけだ」
「っ、この…!」
殴りかかられるも、シエルはジュリエッタの拳を最小限の動きでかわした。
理由はわからないが、身体が自然と動いた。こうすればよいと。
「報告があるから私は行く」
怒りで拳を震わせるジュリエッタを背に、シエルはラスタルの元へと足を進めた。