ほしくず


マクギリスの妹_02:小話[20161222]

::二人がイズナリオに引き取られる前の話。
::売春とか出てきます。胸糞悪いです。母上様ごめんなさい。
::そういうの駄目な方は回れ右でお願いします。


くしゃくしゃになった紙幣と薄汚れた硬貨を渡せば、母さんはとびっきりの笑顔を見せてくれた。

初めては母さんに手を引かれて。雪の降る中を歩いて歩いて、寂れた街の外れで大きな黒い車に兄さんと一緒に乗せられた。
母さんは車に乗らなかった。
やがて大きなお屋敷につれていかれ、今までに見たことがない豪華な食事と、大きな暖炉のある暖かな部屋に入った。
私も兄さんも目の前に出された食事に手をつけていいのか分からず、警戒し怯えていた。きっと、周りの人には爪を出して強がる子猫にでも見えていたと思う。
屋敷の主人とおぼしき人が遠慮なく食べてくれと言う。
私と兄さんは目を合わせてから、おずおずと湯気が立つスープに手を伸ばす。一口飲んだだけで冷えた身体が温まるようで。私と兄さんは最初の警戒なんて忘れたようにご飯を食べることに夢中になった。
テーブルの上の皿が空になった後、お風呂を勧められた。―――ううん、強制された。
大きな猫脚のバスタブにミルク色のお湯がなみなみと張られている。身体をごしごしと洗った後、二人で入ればお湯がざばりとバスタブから溢れた。
お風呂から出ると、母さんより年上の女の人(女中さんというらしい)にちゃんと隅々まで綺麗にしたか確認される。彼女は一つ頷いて、綺麗な寝巻きを私と兄さんに着せた。
私の寝巻きは、街では誰も着たことがないフリルのレースがついたひらひらとした真っ白な服で、着心地もとってもいい。兄さんは私と同じような寝巻きだけど、私とは違いフリルはついていなかった。ただ二人とも、丈が脹脛まである長いワンピースみたいな寝巻きだった。変なの。兄さんは男の子なのに。
女の人に手を引かれ、静まった長い廊下を歩く。赤い絨毯がふかふかとしていて気持ちがよさそうだったけど、私も兄さんも寝巻きと一緒に用意されていた室内用の靴を履いていたから、その感触は分からなかった。
大きな扉の前で女の人が止まる。扉についた丸い輪っかを持ち、女の人が4回こつこつと扉に当てた。
ギイィ、とあまり好きじゃない音を(すごく小さな音だったけど周りが静かだったから良く聞こえた)立てて扉が開く。
開いた隙間に背中を押され、私と兄さんが部屋の中に入る。
部屋の中は薄暗く、オレンジ色のランプだけがてらてらと光っていた。
大きなベッドに座る、さっきの女の人よりも歳をとった人が私と兄さんを呼ぶ。こちらへ来なさいと。
隣に立つ兄さんが私の手をぎゅうと握る。心配するなとでもいうように。そんな兄さんの手も少し震えていた。
伸ばされたしわくちゃな指を覚えている。それが初めての記憶だ。





「母さん、これ今日のお金」
「まあ!二人とも今日もありがとう」

これで明日のご飯も大丈夫ねと、双子の兄妹と同じ色の髪と瞳を持つ女性は嬉しそうに笑った。
るんるんと鼻歌を歌いながら夕食の準備を続ける。豆やジャガイモなどの野菜を入れて煮込んだスープに、彼女特製のライ麦パン。普段は大体パンとスープだけの食事だが、今日は大きなソーセージもある。それも一人2本は食べることができる。一昨日、いつもより多めにお金を得ることができたからだ。
素直に喜ぶ母親を、兄と妹は人形のような目でただただ見ていた。分かるのは、二人が固く繋いだ手のひらの熱だけ。

彼女の心は壊れてしまったのだ。夫を亡くしたあの日に。
故に、彼女は気付かない。二人の子供が心臓から血の涙を流し、彼女へと助けを求めていることを。

二人がイズナリオに引き取られたのは、母親が死んでから半年後のことだった。


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