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あんなことがあっても私の性欲はびんびんだ。
朝、目が覚めた時から眠りにつくまでむしろ夢の中まで私の脳みそはセックスのことばかり。

「真希ちゃんて処女ぉ?」
「ああ!?」

問答無用で殴られる。

「そりゃお前が悪いだろ」
「しゃけ」

メンズ二人はこいつまた馬鹿なこと言ってるぜって顔してる。
転入生の憂太は「え?え?」とオドオドしていて、まるで伊地知みたいだ。

「憂太は童貞?」
「え!えぇ!?」
『ぐぐぐぐぐごろずううう』
「うわやばっ」

やばい。里香ちゃん出てきた。
憂太はフィアンセの里香ちゃんに呪われているので、憂太にちょっかい出すと普通に殺しにかかってくるのだ。

「里香ちゃんあそぼっかー」
『ごろっっずずず!!』
「だ、だめだよ里香ちゃん!!」

ものすごい勢いで里香ちゃんが襲ってきたので私もものすごい勢いで逃げる。
憂太がだめ!て言ったら里香ちゃんは割と言うことを聞く。こんな特級扱えるとか憂太まじ凄い。まじパネェ〜。

「なーにやってんのぉー。席に着いてー」

悟が教室に入ってきたら里香ちゃんは大人しくなって、つまんないなと思いながらも私も席について、頬杖をつく。
隣の席の真希ちゃんがこっそり私の頭を小突く。さっきの発言まだ怒っているようだ。

「先生、性教育はやらないんですか?」
「誰かこの馬鹿黙らせてくれる?」

殺さないと無理でしょ。と真希ちゃんが言う。
それはそうだ、多分あと30年は悶々してる自信がある。まだ15年しか生きてないけど。

「じゃあ今日の実習を説明するよー」

いつものように日常が過ぎていく。
いつものように雑魚狩って
いつものように血飲んであへあへして
いつものようにムラムラ悶々

「寧々子、任務だよ」

いつの間にか授業が終わってて、自分の部屋に戻ろうとした時、悟に声かけられた。
またあれかな、悟と一緒にかな

「京都行くよ」
「きょうと」
「遠征さ」
「…旅行!!?」
「遠征!!」

まさかの初遠征。しかも京都。
あからさまに頬を緩めた私を見て悟が笑う。

「京都!?」
「ああ、京都だ!」

わーい!思わず悟に抱きつくと悟も私の脇抱えてクルクル回り始めた。
わーい!なんかよくわかんないけど悟も楽しそうで嬉しいぞ!
なんてったって私、初めての旅行です!

「なんでやねん?」

手放しで喜んでいたのもつかの間。
たどり着いた先は呪術高専の京都校。
雅な景色は?可愛い舞妓さんは?
学校の景色は、東京校も何も変わらない。

「寧々子、久しぶり!」
「っ!うたひめ!!」

門の前で突っ立っていると駆け寄ってきてくれたのは小さい頃お世話になっていた歌姫だった。悟の先輩だ。
卒業してからは京都校で教鞭を執っていて、そこから数年会っていなかった。
わーい!て両手を広げて抱きつくと、歌姫もぎゅ、と私を抱きしめてくれる。
歌姫は優しいお姉さん。いつも私のことをかまってくれて、私の大好きな人。

「じゃあお前は帰れ、五条悟」
「なんでキレてんの?」

歌姫は悟が大嫌いなので、悟のことをゴミみたいに見るよ。でも悟は歌姫めっちゃ好きだからいつもちょっかい出してる。
この2人は恋人同士なんじゃないかと思った時もあったけど、別に離れても頻繁に連絡取り合ってる感じもないし、多分、勘違い。多分だけど。

「歌姫!私金閣寺みたい!清水寺の舞台から飛び降りたい!!」
「ふふ、寧々子、これは観光じゃないの、お仕事よ。あとで一緒に行こうね」

あと飛び降りちゃあ駄目よ。
額を指でつん、とおして、歌姫はにっこり笑う。

「今日は京都校からも一人参加してもらうの。会ったことはないわね。東堂葵。あなたと同じ一級よ」

と紹介されたのは、ゴリラみたいに大柄の男だった。

「…でかいね!」
「東堂葵2年だ。身長と尻がデカい女が好みだ」
「寧々子です。どっちも中途半端ですんません」

ぎゅ、と握手。すごいセクハラを受けた気がするけど、握られた手がすごく逞しくて、ちょっとだけキュンとした。あとなんかちょっといい匂いする。
この人、食べたらどんな味するんだろーなー。
めっちゃ鍛えてるっぽいし固い肉質だろーなー。
血はどんな味かなー。
なんてニコニコしながら考えていたら、「はいはい、行くよー」と悟に握手した手を手刀で放されてしまった。

「今日は廃病院での任務だ。心霊スポットとして大学生とかが面白半分で忍び込んで、そのまま帰ってこない。怪談話の典型パターンだね」
「何人?」
「5人。恐らく1級案件だよ」
「一級?私取り込めるかなあ」
「そのくらい取り込めるようになってもらわなくちゃね」

悟は私の頭を撫でて、少し寂しそうな顔をした。
きっと傑のことを考えてるんだ。すぐにわかる。

「血、飲んで」
「…うん」

輸血パックを渡され、管をストロー代わりにちゅーと飲む。
東堂先輩がギョッとしてたが、ある程度事情は聞かされているのだろうか、案外冷静だった。
そりゃあそうだ。基本的に私は一級だし単独行動がほぼ。せいぜいパンダと任務に行くくらいだ。もし飢餓状態になって仲間を襲っても困るし。
でも東堂先輩と組ませるってことは、この人は私が万が一の時にも対応できるってことだ。恐ろしく強い人に違いない。むしろその見た目で強くなきゃ詐欺だ。

「東堂先輩、よろしく!」

営業スマイルで笑顔を向けると仏頂面の東堂先輩はポリ、と頬をかいた。
どんなことを考えているのかは私にはわからない。血飲むなんて気持ち悪い女だななんて思われないことを願う。