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結論から言うと東堂先輩は化け物だった。
一級呪霊に手こずることもなくゴリラパワー、ゴリ押しで呪霊を祓えちゃうとんでも術師。
でもせっかくの一級呪霊、東堂先輩に祓われたら私が取り込めない。

「先輩、それ以上はおあずけ」

その呪霊自体は、2メートルくらいの大きさだろうか。東堂先輩とあまり変わらないように見える。
東堂先輩のゴリ押し攻撃が止まないので仕方なくボコボコにされている呪霊によじ登り、先輩の次の攻撃が来る前に

『ッ!!』

食らう。
人型の呪霊だとついついその肉に噛み付いてしまう。硬いやつは夏油みたいに丸めてごっくんだけど、この呪霊は、

「人の肉みたいだあ」

顔が綻びるのが分かる。食感だけでも舌と食道と胃が震えそうだ。
だけどこの味、汚物の味が、私を決して快楽には突き落とさない。これ以上はこの物量食えない。速やかに小さくして丸呑みする。うん、呪霊は丸呑みに限る。

「いやー、東堂先輩に祓われると思った。あぶねー」
「…呪霊操術か」
「そ、最悪の呪詛師に教えてもらったの」

まだ全然取り込めてないけどね。と笑うと東堂先輩は興味無さそうにそっぽを向いた。

「行方不明者いないね。人の匂いもしないし」
「食っただろ」
「へ?」
「あの一級、恐らく人を食っている。一緒にお前の胃袋の中に消えたんじゃねえか?」
「…へ?」

そういえば、なんか腹がえらく膨れている。しかもやけに動悸がする。息もなんかし辛いし、胃が痙攣を起こしているような感覚がする。
あ、あ、あ、これ、やばい

「あひ、ひ、だめ、わ、わらし、ひ、ひと、たべちゃ、」

呂律も回らない。視界がぐるぐるするし、チカチカする。
足に力が入らなくて、ふらふらしてるとドン、と壁のようなものにぶつかった。やたらといい匂いの壁だと思ったら東堂先輩だったらしく、思いっきり頭を殴られて、いや、潰されて?私は意識を失った。

「すまないね、寧々子をとめてくれて助かったよ」
「なんでこの女が秘匿死刑になってないんだ?」
「色々な事情があるんだよ」

話声が聞こえる。ひとりは悟の声だってすぐわかった。もうひとりは、ああ、そうだ、東堂先輩。

「あ、起きた。大丈夫?」
「悟。おはよー」
「おはよう」

すっかり気分も元通り。なんか喉が痛い、と思ったら、人の肉を食べたかもしれないということで無理やり吐かせたらしい。そして起きる前に血液をこれも無理やり飲ませ、元通り。
結論
私の取り込んだ呪霊は人を食っていた。今まであまり高位の呪霊を取り込んだことがなかったため、人を食うような呪霊は私の手持ちにはいない。そうか、こうなるのか

「もう使えないね。呪霊操術」
「ま、あんま気にしないで」

ぽんぽんと、頭をなでられ、少しだけ目頭が熱くなってすんごい気合いで涙をとめた。

「東堂先輩いてくれてまじでよかった!ありがとう!」
「俺はお前を殺すつもりだった」
「えっ」

東堂パイセン怖すぎん?
悟に視線をやると、外国人がよくやりそうな肩ををあげて少し首を傾げるようなあの素振りを見せた。うざい。

「反転術式発動させてるから殺せないよ」
「どうやらそのようだな」

私は反転術式を自動的に作動させることができる。硝子と悟の特訓のおかげだ。
飢餓状態の時はわざと治らないようにしてる。治ったら正気保つの辛いし。でもその時以外は、基本常時運転。スイッチかかるみたいに、術式をいじって自分が怪我をしたら自動で作動させる、という風にしてる。
悟は常に脳のショートを防ぐために反転術式を使ってる。それを自分なりにアレンジしたのだ。使いやすいように、より、強くなるように。
自分の術式より強いやつに致命的なダメージを与えられたら分からないが、基本的には攻撃を食えれば瞬時に治す。それが内臓や脳を傷つけようとも、皮膚が少し裂けるだけでもこれは発動するのだから。
即死の場合は知らん。

「東堂先輩!これからもよろしくね!」

あなたは私が暴走した時、瞬時に解決してくれるマン京都支店長に任命されました!と手を握ると意外と受け入れてくれて手を握り返してくれた。

「また一緒に任務できるといいね!」
「時間でーす」

なんの時間かどうかは知らないけど悟が私の肩をものすごい勢いで押してきたので自然にその手は離れてしまった。
じゃあ京都観光行こうか!て言われたもんだから、私の脳みそはもうそのことでいっぱいになってしまった。

「わーい!歌姫どこいく!?」
「だめだめ、歌姫はまだ仕事中だ」
「いや別にそ」
「仕事中だよね、歌姫」
「…。」

なんか歌姫が私のことを可哀想〜て感じの目で見てくるので首を傾げる。
歌姫、お仕事忙しいんだねって労いの言葉を掛けると、なんか憐れむような感じの瞳を向けられるから、また首をかしげて「仕事頑張ってね」と言った。歌姫は嬉しそうに私の頭を撫でてくれた。

「狼にはくれぐれも気をつけなさいね」
「狼?悟のこと?もう襲われてるから大丈夫だよ」

歌姫の言わんとしていることは分かるので、わざとそう言うと歌姫は手に持っていたボールペンをダーツのようにぶっ刺さる勢いで悟へ飛ばした。が勿論、無限のパワーでボールペンは悟には当たらず、地面へ落ちた。

「おお怖。誤解だし」
「誤解されるようなことをしてる時点で駄目なんだよ!!!」

早く観光行きたいな。