数ヶ月ぶりに会った傑はエロい女を連れていた。
「夏油様、この少女があの?」
「そ、寧々子。久しぶりだね」
「ひ、ひさし、ぶり…」
「はは、警戒されてるよ」
あんまりにもエロい女だったから思わず後ずさり。今日双子姉妹はいないのか。こいつ絶対傑の女だぞ。
「寧々子。ムラムラは収まった?」
「え…いや、もう悟の血飲んでない…けど…」
ムラムラしてるかどうかでいえばしてるよ?首を傾げると傑は本当におかしそうに笑う。
傑とはあの直飲み禁止を言い渡された時ぶりの再会だった。
「今日はどうしたの?」
「いや、近々高専に挨拶に行こうと思っていてね」
「え?仲直りするの?もう無理だよ思うよ。殺されるんじゃん?」
「違うさ、迎えに行くんだ。寧々子と、乙骨くんをね」
迎えに?なんのために。
考えれば直ぐにわかった。ついにやるんだと思った。
きっと傑は、ついに世界を壊そうとしている。
「憂太じゃなくて里香がほしいんでしょ?」
「さすが、寧々子はかしこいね」
よしよしと頭を撫でられ、悪い気はしないが憂太は一応友達だ。つまり殺そうとしているんだろう憂太のことを。んで里香を取り込んで自分のものにする。
傑はほんとに猿が嫌いだねえ。と言うと、よく分かってるね。とまた頭を撫でる。
「でも憂太殺して欲しくないよ。友達だもん」
「大丈夫。すぐに新しい友達ができるさ」
だから私と家族になろう。と言われて、思わず瞼をまたたかせた。
「家族?」
「そう、私の家族だ」
「えっ、あいつ嫁!?」
「いやそういうわけじゃ」
エロい女を指すと「あら、可愛いお嬢さんだこと」とエロい女は微笑む。傑はそうじゃないと言ってるが、エロい女は満更でもなさそうだ。
いや黒いノースリーブのタイトワンピースなんて中々着こなす女いねーぞ。嫁にしとけ。それとも、あ、
「2番目の女…?」
「寧々子やめようね」
肩を抱かれて引き寄せられ、おっとっととバランスを崩す。
そういえばどうしてマスクつけてるの?風邪?と言われて、口臭対策なんてとてもじゃないけど言えなかった。
「んで私傑に勧誘されてるの?」
「そうだよ。寧々子も一級呪術師になったし、そろそろ高専なんかにいなくてもいいんじゃない?」
「義務教育…?」
「は、中学までだよ」
ああそうだったか。義務教育の義務を私は全うしてなかったから忘れていた。
「でも私双子嫌いだもん」
「すぐ仲良くなるさ」
「高専は好きだもん」
「…それこそすぐに嫌になる」
私みたいにね。なんて、悲しい声で言う。
それにこっちに来れば肉も食べ放題だし、きみの生きたいように生きることができる。我慢ばかりの生活はなくなるんだよ。と耳元でエロい声で囁かれて、ぞくぞくと鳥肌がたった。絶対わざとやってる、絶対私がムラムラすると思ってやってる!
「可愛いね寧々子」
傑の随分と伸びた長く綺麗に手入れのされている髪が私の首に当たって、傑の吐息が耳にかかって、もう私は腰が砕けそうだ。
「あのエロい人に見られてるよ…」
「はは、エロい人って」
悔しそうな顔して見てくるから、こいつも傑が好きなんだろうなって思った。双子姉妹と同じような顔をして見てくる。
私だめだわ、傑以外には歓迎されないと思う。
「傑、じゃあ私たち敵同士だ」
「…寂しいな。本当にそれでいいの?」
「だってエロい人と双子も私のこと殺意いっぱいの顔して見てくるよ。傑、私のこと特別扱いするでしょ。それじゃ家族が幸せになれないよ」
傑が目を丸め、しばらく黙ってからまた笑った。
そうか、それもそうかもしれないね。やっぱり寧々子はかしこいね。とまた頭を撫でた。
「でも高専は落とすから、そうしたらおいで」
「悟になにか言っとく?私たち会ってるのバレてたよ」
「さすがだな。でもいいよ、今度直接言うから」
私からパッと離れて、傑はあのエロ女のところへ戻って行った。ああ、ほんとだ。寂しいな。
「傑のこと、大好きだよ」
言わなきゃいけない気がして、恥ずかしげもなく大声で叫んだ。
やさしい傑。やさしくて、やさしすぎてその反動がきちゃって、人をたくさん殺している。
あんなに優しい傑にどうか報われて欲しい。
でもそんな傑についていけない私はひどいやつなのかな。
「私も寧々子が好きだよ」
いつもの笑顔で、傑は帰って行った。