02

あれから、黒ずくめの人達に色々調べられたりしたが、どうやらクロはいなくなったわけではなかったらしい。
私とクロは同化した。つまり、一緒になっちゃって一心同体になっちゃったというわけだ。
クロの主食は人間で、そんな呪霊に育てられた私は人としての生活をしなかったおかげで、人を食べる呪いとしての性質を、受け継いでしまったらしい。
なんかなーんにも覚えていないが、飢餓状態の私は手当り次第なにかを食べようとするらしく、その勢いでクロのことも食べてしまったのではないかと、偉い人は推測した。真実は分からない。

「さとる。目ぇちょうだい」
「あ?お前腹減ってんの?」
「目たべたい!!」
「チョコでも食っとけ」
「うんこの味するからいやー!!!」

お前ふざけんなよ!!と悟は私の頭を殴る。
チョコ食えなくなるだろうがと言われたが、私にとってはそんなお菓子おいしくもなんともないのだ仕方ない。
チョコは排泄物の味がするし、
クッキーはまるで土だ。土のほうがまだマシだ。

「お腹すいた!あああぁぁあ!!!」
「くそ!うるせえんだよクソガキ!!」

悟は持ってたナイフで自分の手のひらをスパッと切る。真っ赤な血がダラダラと流れてきて、私はそれに飛びついた。

「はう……ふ…じゅる…」

地面に落ちないように、丁寧に、丁寧に舐めとる。
我慢できなくて血が止まらないように舌で傷口を抉るとまた悟のゲンコツが飛んできた。

「うっ、、ごめ…、ん…ん……」

もちろん、私は人肉を禁止された。
悟はあの時私を捕まえた、綺麗な目の人だ。人肉を食べるのは倫理がどうとか、道徳がどうとかで禁止されて、でも食べなきゃ私は死んじゃうから、たまに、輸血用の血をわけてもらったり、こうして悟に血を貰っている。
悟の血は格別だ。六眼がどうのとか言ってて、悟はすげえ強いらしいが、そのせいなのかは分からないけど、とにかく悟の血は格別だ。
悟の血を飲むと、しばらくの間飢えは誤魔化される。でもそれもしばらくの間。
私が感じる飢えは、一般人のそれどころではないらしく、自制も聞かなければ、凶暴化して破壊行動を始めてしまう。らしい。自制がきかないので、私はまともじゃないし、その時のことを覚えていない。

「おい、飲んだら治せよ」
「…ん」

私はあれから、呪術師として育てられている。
もちろん普通の人間ではないから普通の小学校とかには通えないが、げとうとかしょうこに勉強を教わったりもする。
げとうとしょうこというのは、綺麗な目のさとるのお友だちだ。
飲んだら治せよ、というのは、しょうこから教わったはんてんじゅつしきというもので、傷を治せる呪術だ。
ひゅーひょいていう感じでやるのだ。自分でもよく分かってない。

「さとる…おいしい…」

悟の手をぺろぺろ舐めていると、「なるほど」と悟の声じゃない声が聞こえた。この声は、すぐるだ。

「すぐゆ」
「すぐ"る"ね。寧々子。今日は機嫌がいいみたいだね」

でもあまり悟に近づいてはいけないよ。食べられてしまうかも。と、傑に引き剥がされる。
どちらかというと食べているのは私だ。

「すぐるの血もおいしいよ」
「はは、ありがとう」

ぽん、と頭を撫でられると、気持ちがいい。
傑は悟の血には及ばないけどすごくおいしくて、ねだるとたまに飲ませてくれる。
傑は優しいから好きだ。悟は血が格別だから我慢してるけど、乱暴で、怖い。

「おい!そろそろ終わりだ!治せ!!」

また怒る。悟はすぐ怒る。
私のことをバカにするし、殴るし、すぐ怒る。悟はあんまり、好きじゃない。

こんな毎日を過ごして
何度目の春が訪れただろう。
気がつけばクロがいなくなったみたいに学校からいつの間にか傑がいなくなったり、でもたまにこっそり遊びに来てくれたり。悟が先生になったり、硝子がお医者になったり。私はと言うと、私は、
高校生になっていた。

高校一年生に、なっていた。