20

私は傑と主従関係にあった呪霊をほぼ取り込んだ。いいよって言ってくれたし。実質サイキョーだ。
めでたく特級術師にもなって超大出世…というわけにはいかなった。数々の非行もあったのでまだ未熟ということで一級術師のままである。
百鬼夜行から2ヶ月。私たちは2年生になろうとしている。
憂太は里香の解呪に成功。棘は準一級術師に昇級、パンダは準二級に昇級。真希ちゃんは昇級すらしなかったものの、その実力は四級などでは括れない。バカみたいな話だが、呪いが見えないからと言って、禅院家に昇級を妨害されているとのことだ。
悟に関してはいつも通りだが目隠しが黒くなっていた。どんだけ黒好きやねん。

「真希ちゃーん、憂太ともうチューした?」
「はっ倒すぞ!!」

いつものように真希ちゃんにちょっかい出して怒られて次々に飛んでくる攻撃を交わしながら教室へ向かっているとすでにメンズは揃っていたようで、まーた寧々子が変なこと言ったんだな、て顔を3人ともしていた。

「んじゃ、修了式を始めるよー」

たった5つしか並べられていない席に各々ついて、教壇に立った悟がトントンと証書のようなものを整える。

「ねー悟。一年生って何人くるの?」
「今のところ2人。男女2人」
「お、イケメン?イケメン?」
「うーん、僕ほどではないかな!?」
「うわーお、腹立つこいつ」

でも、骨のあるやつだったらいいな。
とパンダが言うと真希ちゃんもそれに同意。
骨のないやつは、呪いなんて学びに来ないんじゃないかなと思ったけど、転校当初の憂太のことを思い出してその限りではないか、と勝手に納得した。

「女の子は!?可愛い!?」
「うーん、僕ほどではないねえ」
「誰かこいつぶっ殺して」

バカのことなんてほっとけ、と真希ちゃんに言われてそれもそうかと苛立ちを仕舞う。
でも、学校なんて通えなかった私が高専に通いだして一年が経ったか。
最初はパンダの背中にくっついて、普通な女のコの真希ちゃんにビビり倒しながらなんとか距離を詰めていって。まあ真希ちゃん普通とか言いながらごついけど。
棘のことは、おにぎりの具のおかげで避けてきて、多分、悲しい気持ちにさせてしまったことだと思う。
憂太のことはおちょくりすぎて里香ちゃんがキレたおしてたの思い出して思い出し笑い。また会いたいな、里香ちゃん。

「先生ー、寧々子がなんかニヤニヤしてます」
「また不埒なことでも考えてんじゃない?」

私はすっかり性欲おばけみたいな扱いを受けていて、棘にも憂太にも近づくだけで怖がられる。襲って食いはしないのに本当に失礼なことで。

「あー、では、通知表をかえしまーす。棘ー」

それぞれなんの意味があるのか分からない通知表を受け取り、中を開く。
みんな中の内容は違っていたみたいだけど、私のそれには

『よくがんばりました』

と、一言書かれていた。
相も変わらず、子ども扱いで。
悟をちら、と見ると、フッと鼻で笑った。
私は、もちろん呪いのおかげでまた情緒が不安定になったりはするけれど、前よりはずっと安定していると思う。
悟にしがみついて必死こいて気を引かせようとしてたのも認めよう。いや、実は未だに悟のことは結構未練タラタラなのだが別にこれが恋愛感情だと認めている訳でもない。
ま、20歳になったら抱いてくれるらしいし、私もゆっくり大人になるとしよう。

「高菜」
「ん?あ、写真?いいねー!」

トントン、と棘に肩を叩かれボーッとしてた意識を戻すと棘がデジカメを片手に持ってて、すぐに察して席を立つ。
悟がカメラを受け取ってタイマー機能で色々調整をしてる間、私はちゃっかり棘の隣をキープしていた。

「んじゃ、10秒後、撮るよー」

しばらくすると、カシャ、と音が聞こえ、各々とっていたポーズを崩す。
可愛く撮れてるかなーなんてデータを見ようとすると「つーかなんで写真の時もマスクよ?」と真希ちゃんに言われ、マスクつけてるのをすっかり忘れていた私はみんなに何回も撮り直しをお願いしたのだが、「面倒」という理由で却下されてしまった。

「一年生楽しみだねー」
「寧々子が先輩とかないだろ」
「ないな」
「しゃけ」
「はは、寧々子さん強いのに」

修了式だから、とはいえみんなの足は演習場へ向かっていた。みんな立ち合い好きだからな。

「一年生来たらボコボコにしようねー」
「おっかねえ先輩だな」

もうすぐ冬があけて春になる。
そうしたら一年生が入ってくる。
どんな子だろう。強いのかな。それとも弱いのかな。
期待が膨らんで、胸がときめく。初めての先輩という立場に心が踊っていることくらい、四人にはお見通しだろう。

そしてあっという間に私は、二年生になったのだ。