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「へーいメグミン、恋してるぅ!?」
「夜蛾先輩、やめて下さい」

春うらら。と言うのにはもう遅い桜も散ったこの季節。
私、呪術高専2年生の夜蛾寧々子はすっかり自分の苗字が夜蛾であることなんて忘れてしまっていたので初めての後輩に夜蛾先輩なんて呼ばれて違和感バリバリのバリヤードであった。
任務の帰りに適当に街をほっつき歩いていたら前を可愛い後輩の伏黒恵が歩いていたのでがっつり肩を組んで絡みに行く。
これがまたイケメンだったので目の保養にもなるんだよなあ。めっちゃ冷めてるけど。

「夜蛾って呼ぶのやめてよー気持ち悪い」
「夜蛾先輩は夜蛾じゃないですか」
「養子になっちゃっただけで夜蛾は私のパピーじゃないもん」
「でも保護者じゃないですか」

私も夜蛾のことを夜蛾と呼んでるからなんか変な感じがしてどうにも落ち着かない。
そもそもなんで夜蛾のことを苗字で呼んでるかって、正道が小さい時に発音できなかったのだ。しょうもない理由だけど。

「んで恋してるの?」
「してないです」
「つまんね〜」

でも知っている。恵はきっとめっちゃくちゃに大切な女の子がいる。
ほら今も遠くを見てその子のことを思い出しているんだ。わかりやすすぎて可愛いしかない。

「恵って絶対むっつりスケベだよね」
「先輩じゃなかったらぶん殴ってますよ」

きゃあこわーい。と棒読みしながら肩に置いていた手を外す。
本気で怒ってそうだったので深追いはしないに限る。私そういうの空気読める。
てくてく二人で帰路についていると途中猫がいたのでふらふら追いかけていくと恵に首根っこを掴まれて阻止された。
どうせ逃げるからやめとけと。前から自転車も来てるし。
お父さんみたいな事を言われて、あれ、私こいつの先輩だったよな、とちょっと笑えてきて、ニヤニヤしてると気持ち悪いと言われてしまった。

「なんか今度の任務一緒に行くらしいよー」
「へえ、珍しいですね。大体単独じゃないですか」
「なんでも特級呪物回収とか」

悟に言われたのは、仙台に保管してある両面宿儺の指。高専にも何本か保管してあるらしいが、残りのそれを回収してこいとの指示だ。
別に回収くらいなら恵一人でも十分だけど万が一があるから私も一緒に行ってこいと言われ、初仙台!と心を踊らせた私は二つ返事でそれを了承したのだった。

「泊まり込みかな?男女の間違いがないように気をつけなきゃね」
「襲われないように気をつけます」
「ええ、十分に気をつけて」

回り込んで恵の顔を下から覗くと少し顔を赤らめて視線を逸らす。
可愛すぎる伏黒恵。棘もめちゃくちゃ可愛いけどまた別の可愛さがある。
"本当に"食べちゃわないように気をつけなければ。
ちなみに、もう恵は私には屍鬼が受肉してること知られているから、もしかしたら本当にガチで警戒されているかもしれない。

「回収終わったらデートしよっか」
「しません。一人で遊んでください」
「いいじゃん、るるぶ買っちゃったからさ」
「一人で行ってください」
「行こーよー!!」

叫ぶのに近いくらいの声で喚くと死ぬほどウザそうに「じゃあ時間があればですよ…」と言ってくれたので恵はとっても優しい子だ。惚れそう。
まあ結局観光なんて言ってられないことになったんだけどね。

「ないですよ。百葉箱空っぽです」

宮城県仙台市杉沢第三高校。
百葉箱に保管しているらしい特急呪物を回収しに行くと、その中身は空っぽ。呪物なんてどこにもなかった。
恵が悟と電話してて、「ぶん殴りますよ…」とか言ってるけど私は聞こえないのでなんと言っているかは分からない。

「回収するまで帰ってくるな、らしいです」
「まじで?ウケるね」
「…五条先生と同じこと言わないでくれますか?」

どうやら相当イラついている様だ。悟が言ったことなんて私は知らん。
じゃあ潜入して校内探すしかないね。と言うと恵はため息をついて、小さく肯定の返事をした。
そうと決まれば、コスプレだ!
予め、校内をまわることも含めて用意されていた杉沢第三の制服。今日はもう遅いから明日からの詮索になるだろうが、初めての高専以外の制服。テンション上がらずにはいられない。
夜、予約していた宿で恵の部屋に押しかけて可愛い私の制服姿を見せつけたが無言でリアクションもなくそのまま扉を閉じられた。
私の後輩、ひどすぎ…?