22

可愛い女は辛いよ。

「え、キミ何年生!?」
「転校生だよね、見たことないもん」

翌朝、制服に身を包み学校に馳せ参じると途端に男子生徒に声をかけられる。
恵は呆れて私の手を引いてくれるが、モテるってとてつもなく気分が良いので一々相手にしてしまうんだなこれが。

「またねー」
「な、名前だけでも!」

ひらひら手を振ると色んな男が喜んでくれる。
むしろ何で高専のメンズは喜ばない。やっぱ変態の集まりだから?
とか言って私が終わったと思ったら恵も女子に声掛けられてて笑ってしまった。イケメンだもんな。

「うお、呪いいるじゃん」

呪力の気配を辿りながら校内を散策してるとラグビー場にきて、ゴールポストにダニみたいな呪いを確認。
呪物の影響だろうか、二級以上の呪霊には見える。

「なんだここ、死体でも埋まってんのか」
「…んー、埋まってるかもねえ」

死体特有の匂いはしないので、あったとしても相当昔の話だろう。

「クソ!気配がデカすぎる」
「一回閉鎖しないと無理かもねえ」

今、一般人がいる中で呪いを祓う訳にもいかない。そうなると学校閉鎖して呪い祓って隅々まで探して、が必要になってくるので本当に面倒臭いことになった。
はー、と恵と一緒にため息。疲れることや面倒臭いことは誰でも嫌いだ。
とぼとぼ二人で歩いていると何やらグランドが騒がしい。勝負とかなんとか言って私たち二人を何人もの生徒が追い抜いて行った。
なんか面白いことしてるのかな。「見に行こう!」と恵の手を引いて、私たちもそのあとについて行った。

「何あの子…すごくね?」
「禅院先輩と同じタイプですかね」

そこには砲丸をピッチャー投げで30メートルちかくぶっとばす少年。その砲丸はサッカーゴールにめり込んでいる。これ人に当たったら即死のやつじゃん。
呪力なし、素の力でアレ。人間業か?

「見てる場合じゃないですよ」
「えー、私あの子気になる。呪術師向いてんじゃん?」

そうこうしてると、その少年は慌ただしく校門の方へ走り、途中、私たちとすれ違う。

「「!!!」」

その瞬間、思わず私たちは少年を目で追う。引き留めようとした時には遅かった。
あまりにも速いスピードで、あっという間に彼の姿は見えなくなってしまった。
なにやら50メートルを3秒で走るらしい。車かよ。という突っ込みに少し笑ってしまった。

「ねえ、あの子名前なんて言うの?」
「えっ、あ、ああ、一年の虎杖悠仁だよ。SASUKE全クリしたとか、ミルコ・クロコップの生まれ変わりらしいよ」
「へえ〜。サスケもミルコも知らないけど、ありがとう。じゃねー」
「ねえLINE交換ーーー」

彼から漂った呪物の気配。すれ違った時に明らかに強くなった。きっと彼が持っているのだろう。
知りたい情報は聞けたのでそのままイタドリユージの後を追う。

「モテるんですね」
「私も去年気づいたけど、私ってば結構可愛いらしいよ」
「…。」
「なんか反応してよ」

自分から振ってきたくせに黙るなんて、しかも先輩に向かってなんて失礼な。
で、しばらく学校から離れたところで気がつく。

「…、なんか、やっぱ学校からも嫌な感じしない?」
「そうですか?でも絶対あいつ持ってますよ」
「んー、イタドリユージのことは任せた!私ちょっと学校戻るわ!」
「えっ、ちょっと、先輩…」
「とりあえず高専に電話してイタドリユージのこと調べてもらいな!」

制止も聞かずにくるっと方向転換して学校へ戻る。
あの少年が持ってるにしては学校からの気配もえぐいんだよな。何かしらやばいものがありそうだし、せっかく二人いるからわかれた方がいいでしょう。
しかし、あれから学校に戻り色々探したり色んな人に話聞いたりしてみたけど、それらしきものは見当たらない。

うん、帰ろう。

イタドリユージのことは恵がやってくれてるし、学校には特級呪物はない。
別にあんな気持ち悪いもの御札剥がすような馬鹿はいないだろうし、こんな必死こいて探さなくてもいいんじゃないかな。
なら帰ろう。恵にLINE送っといて私は学校を去る。うん、なんか今はあんまり学校から呪力感じないし、やっぱイタドリユージが持ってたんだろう。
なら回収くらいから恵にも出来るだろう。
そういうことで私は悟に頼まれた喜久福を買って帰ろう。そう思ってゴーグルマップで店の場所を調べる。ああ、結構遠いのね。

「え、なんでいるの?」
「お疲れサマーランド〜!」
「え、きも」

喜久水庵に到着するとまさかのそこには黒ずくめの男、五条悟。今年度からは一年の担任、つまり恵の担任になっている。

「いや〜さすがに特級呪物が行方不明となると上がうるさくてさあ。観光がてら来ちゃった」
「あーなるー。今、恵が怪しい男の子追ってて私は学校残って探してたんだけど、気配も弱くなっていくし多分恵が追った子が持ってたんじゃないかな」
「ふーん、恵は?」
「え、知らない」

先輩なんだからしっかり後輩見ときなさいよ。
と何故か怒られて納得いかないが素直に謝る。わかったのなら宜しい。そう言って悟はポンポンと頭を撫でた。
真希ちゃんたちのお土産にも喜久福を買ってると、スマホがピロピロ鳴りはじめたので電話を取る。

『先輩!どこいるですか!?』
「え?お土産買っ…」
『すぐ学校戻ってこい!!!』

と切電。めちゃくちゃキレてた。
なんかまあ動きがあったんだろうと悟に伝えて一緒に学校へ向かう。
到着すると先程までには感じなかった呪いの圧が重々しく、おどろおどろしく、まずいことになってるのかもしれないと、悟にしがみついて瞬間移動を促した。

「今どういう状況?」

相も変わらずあっという間の到着。瞬間移動便利すぎて私も覚えたいけどこれは悟の能力だからこそ成し得る技なので私が使いこなすのは無理だろうな。
そこには血まみれの恵と、半裸のイタドリユージ。
ボロボロだねえ、二年に見せよ。と悟は恵を写真で撮ったりして、恵は随分とイラついているようだ。

「五条先生、どうしてここに?」
「上からの命令。特級呪物が行方不明って言ったらうるさいのなんのって」
「で、両面宿儺見つかったの?」

恵はぐ、と口を真一文字に結び、答えようとしない。なんだ見つからなかったのかな、と思ったら、蚊帳の外にいた半裸のイタドリユージが「あのー」と言いずらそうに割って入ってきた。

「ごめん、俺それ食べちゃった」
「「…マジ?」」
「「マジ」」

うっかり悟とハモったけど、ハモり返された。
悟は近くでじーっとイタドリユージを見つめると、「ははっ本当だ混じってるよ」と案外軽く受け入れた。
いやいや特級呪物飲み込むとかチャレンジャーすぎない?てかなんで生きてるの?なんで自我保ってんの?レベルなんだけど。
結果、イタドリユージもとい虎杖悠仁は特級呪霊の両面宿儺を制御できる、器となり得る存在として、身柄を拘束することになった。
恵も珍しく、私情だが虎杖悠仁を死なせたくない、と言っていて、悟は笑って任せなさい!とグ!と親指を立てたのだった。