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二年全員での任務があったから私は一足先に東京に戻り、そのあとみんなと合流して任務にあたった。
憂太は一人、今海外である。羨ましいよ海外任務なんてさすが特級としか言いようがない。
一年もう一人増えるかもよーとか、今回のことを隅々まで話してしまい、みんなはその虎杖悠仁に興味津々だった。
交流戦もあるし、三年の秤パイセンもなんかやらかして停学中だし多分一年駆り出されるでしょ。去年憂太も出てたし。
楽しみが増えたねとわいわい高専に帰ると

虎杖悠仁、死んでた


「え、まじ恵!なんで!?なんでぇ!?」
「寧々子やめろ、喪中だぞ!」

真希ちゃんなんて、「お通夜みたいに辛気臭い顔しやがって」とか言っちゃってパンダと私と真希ちゃんと棘とでワーワーギャーギャー。
マジで死んだ?なんで?意味わからん。宿儺いるのに死ぬとかある?
恵に問いただそうとしたけど新入生?の女子と一緒にまじで辛気臭い顔してたから、空気読んでやめといた。

「いやー、すまんな、喪中に。許して、この通り」

まるで常識人ぽくパンダが手を合わせて謝る。
なんかムカつく。
恵と一緒にいた子はやはり遅れて入学してきた一年生のようだ。釘崎野薔薇ちゃん。なんて可愛い名前なの。顔も一切名前負けしてない。

「だがお前たちに、京都姉妹校交流会に出て欲しくてな」

殺し以外なら何でもアリな呪術合戦。三年と憂太が出れない分一年に出てもらうしかないから、なんとかやり合えるくらいまでしごかなくてはいけない。

「やるだろ?仲間が死んだんだもんな」
「「やる」」

二人は即答だった。
でも交流会もしごきも意味ないと思ったら即やめる、とか、中々生意気なことを言ってくれたから先輩として指導に腕がなるというものだ。
そこからというものの、訓練鍛錬訓練鍛錬。
野薔薇ちゃんに至ってはパンダにぶんぶん振り回され受け身の練習をさせられている。
近接になった時のための訓練だけど私はあまりお呼びじゃないらしく三角座りでその光景を眺めていた。
パワー型じゃなくてすまんな。いやでもそこいらの女子よりはよっぽど屈強よ。
ボーッとしてたらパンダに振り回された野薔薇ちゃんが棘にキャッチしてもらってるのを見て思わず立ち上がる。
お姫様だっこである!棘に!お姫様だっこ!

「ぱ、パンダ!私も!私も!!」
「うわ、来ると思った」
「早く飛ばせー!!」

両脚を掴んでもらう前提でパンダに向かってドロップキックをかますと普通に避けられて地面に落ちた。くそ、くそお。棘がすごい顔で私を見ているぞ。でもその顔も可愛いぞ。
広いグラウンドでくたばっているところに手を差し出してくれたのは恵だった。やばい優しい勘違いしちゃいそう。
ありがたくその手を頂戴し立ち上がる。スカートが砂まみれだよまったく。

「夜蛾先輩は呪具使うとき呪霊に持たせてるんですか?」
「私、呪具持たないからそういうのしてないよ。真希ちゃんのやつはパンダが持ってる」
「近接の時どうしてるんですか」

純粋な疑問なんだと思うが、このスーパー一級呪術師の寧々子様にそんな疑問は不要である。
こうしてるよ、と素早く恵の足を払い転ばせる。地面に手をついて恵はあまり大きくないその目を丸くさせ、パチリと瞬かせた。

「今のは不意打ちでしょう」
「不意打ちじゃない戦闘なんてないよん」

かかってこいや、とアニメのキャラとかがよくやる、手をくいくいと手招きして敵を煽るやつ。それをカッコつけてやってみたら恵もやる気になったらしく真希ちゃんから渡された長物をかまえた。

「あー、寧々子始めちゃったよ」
「でしゃばるなっつったのに」
「しゃけ」
「寧々子さん、近接弱いんじゃないんですか?」

恵との勝負中私は余裕で四人の会話を聞いている。恵もまだ本気は出していないようだしそのくらいの余裕はある。
可愛い野薔薇ちゃんが息も絶え絶え私のことを質問しているなんて、なんか興奮するな。
そんな野薔薇ちゃんの質問に三人はすごい嫌そうな顔して、ため息をついている。めちゃくちゃ失礼じゃない。

「打撃は弱いよ」
「ただなあ」
「明太子」
「うん、ムカつくよな」

何がムカつくんだ。
次々とくる攻撃を交わして交して交わしまくって私は隙をついて恵の足を取り転ばす。
ちぃ!と舌打ちをする恵。ん?この瞬間今ムカついた?
すぐに起き上がろうとする恵の顎を私も素早くコンと蹴りあげる。そしたらバランスを崩してまたコケた。
恵はまた舌打ち。あ、これは多分ムカついてるわ。

「ああ…。ハメ技って現実でもできるんですね」
「ムカつくだろあいつ。めちゃくちゃすばしっこいから攻撃もほぼ避けられるし」
「しかも更に腹立つのが攻撃が弱すぎて痛くねえんだよ。本気かどうかは知らねえけどな」

みんなそんなこと思ってたのか。なんかショックだ。私は精一杯やってるのに。
でもムキになった恵の顔もたまらんなおい。イケメンまじで眼福だわ。

「んお!」

と恵の顔に見とれてたら普通に長物で足を取られて私も転んだ。
どしゃ!と音がして腕が擦りむいた感じがあったけど確認する前に術式で治っているのでよく分からない。一瞬血の匂いがしたから多分擦りむいたんだろう。

「やられたー」
「ボーッとしてるからですよ」

フン、と恵は鼻を鳴らす。
私もジャージ着とけばよかった、と泥のついた制服を叩いて、「恐れ入りました」と頭を下げた。

「恵も擦りむいた?治す?」
「大したことないですけど…じゃあお願いします」

ぐ、と袖を上げるとたくましい腕にちょっとした擦り傷が。
血がじんわりと滲んでいて思わずゴクリ、と大きく喉を鳴らす。その音に気がついたのか、恵がビク、と少し揺れてすぐ我に返る。すぐに傷を治して血の匂いもなくなり、ほっと息をつく。
やべえ私ってば若い肉に危うく自我を失いかけたわ。

「あい、終わり。かゆくない?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」

パッと手を離されてちょっと傷ついた。
私は自分の怪我はわりとえげつないものでも治せるけど、他人の傷は軽いものしか治せない。
裂傷、擦傷、打撲、めちゃくちゃ頑張って骨折。このくらいだ。
でも硝子みたいに重症でも任せとけみたいな感じじゃなくてよかったと思う。だって擦り傷であんな調子だもん。酷い傷だったら自我を保てないかもしれない。

「野薔薇ちゃんも私とするー?」
「遠慮します。私今からジャージ買いに行くんで」

え、じゃあ私も、と思ったが悟に言われてたお使いがあったことを思い出し、「そっかあ」と野薔薇ちゃんを見送る。
仲良くなれるか分からないけど個人的にはすごく好きなタイプの女の子だからよかった。真希ちゃんと同タイプ。自分に真っ直ぐでかっこいい。先輩からの誘いをこんなにキッパリ断れるなんてカッコよすぎるよ。すき。