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「一年、ジュース買ってきてくれ」

お前らのも出すから、とすっかり先輩風をふかしている真希ちゃんが恵と野薔薇ちゃんをパシる。
素直に真希ちゃんの言うことを聞いているのでさすがだなと感心。多分私がパシっても恵とか言うこと聞かないっしょ。

「あり?一年ズは?」

途中合流したパンダと棘がキョロキョロ辺りを見回す。
大丈夫か?とパンダが妙に心配しているがきちんとお使いができるかどうかの心配ではなかったらしく、京都校のやつらが来てるから、揉めないかと心配をしているようだった。
私以外、他三人は京都校と対峙したことが何回かあるらしく、アイツら嫌がらせ大好きじゃん。と随分見知ったような言い方だった。
わたし、東堂パイセンにしか会ったことない。
ピロン、とスマホが鳴る。開いてみるとその東堂先輩からのLINEがきていて、今高専に到着したとの報告だった。それに加えて一文。
【お前の後輩、ちょっと試すぞ】
パンダって勘が鋭いなあと思いながら、私は見なかったことにする。私は知らない見てない聞いてない。既読ついちゃったよ、ああ。

「様子見に行ってみるか」
「かー、めんどくせえな」

やっぱそうなるよね、行くよね。揉めてたら大変だもんね。
すごすご真希ちゃんたちについて行く。目指すは自販機、約徒歩3分。

案の定、恵がボコボコにされてた。
野薔薇ちゃんはまだ平気そうだったけど、せっかくのジャージが穴ポコだらけになっていてすごく可哀想だった。
あと真希ちゃんの双子の真依ちゃんがいて、初めましてなんだけど、いきなり私のことをバケモノ扱いしたのでその美人なご尊顔をグチャドロにしたくなった。よく耐えた私。
東堂先輩はこれから高田ちゃんの個握に行くらしく、真依ちゃんを連れて退散するのかと思えば、なぜか私は東堂先輩の小脇に抱えられる。クラッチバッグのように。あれ、この持ち方、幼い頃、悟に拉致られた時以来である。

「パイセンどうしたんすか」
「お前の分の握手券もある」
「ま、まじか!でも私今から予定が」
「高田ちゃんがどうでもいいって言うのか!?」
「い、いやそんなわけでは」

なんだ東堂先輩、私に高田ちゃんを布教するつもりだったのか。そんなこととはつゆ知らず、高田ちゃんにはクソほども興味が無いし握手会ってめっちゃ人くるやつじゃん絶対行きたくないと思って適当に理由をつけて断るが、屈強なその腕は私のことを全然離してくれなくて、どうしたもんかと棘を見つめる。

『…はなせ』
「ぎゃ!」

突然手を離されて受け身も取れず字面に叩きつけられる。
見つめたかいがあった。棘が呪言で助けてくれた。しばらく東堂先輩が棘に睨みをきかせていたが、これ以上の乱闘は無駄と判断したらしく大人しく真依ちゃん連れて大人しく帰って行った。

「お前なんで東堂に気に入られてんの?」
「わ、わかんにゃい。可愛いから?」
「…。」
「ツッコミ待ちなんだけど」

早く恵と野薔薇治してやれ、と言われてそそくさ二人のそばに寄る。野薔薇ちゃんは打撲くらいで済んでるが恵は頭がかち割れてて血がすごいでてたのでまた私は涎を垂らす羽目になってしまった。いや、垂らしてないよ、飲み込んださ。

「ねえ真希さん。さっきの本当なの?呪力がないって」

真依ちゃんと真希ちゃんが話してた内容だ。
真希ちゃんは禪院家という呪術界御三家の出自。そこでは呪力がないということで、虐げられてきたみたいだ。マジでくだらないと思うんだけど、そのコンプレックスは真依ちゃんの方がかなり強い印象。私のことバケモノ扱いだし。
呪力もなくて、呪具でしか戦えないのに、なぜ呪術師になったのか。
きっと何回もされてきたであろうその質問に真希ちゃんはいつだって力強く答えてみせる。

「嫌がらせだよ。見下されてた私が大物呪術師になってみろ。家の連中どんな面すっかな」

ニヤニヤせずにいられるか、これが。
カッコよすぎなんだ真希ちゃんは。もし男だったら多分もう襲ってる。

「私は真希さん尊敬してますよっ」
「私も真希ちゃんだいすきっ」
「あっそ」

二人で真希ちゃん挟んで寄り添っていく。真希ちゃんは照れた様子も見せない。

「で寧々子さんは呪われてるんですか。虎杖と一緒?」
「え!私!?」

まさかの私に話を振られるとは思っておらず、声がひっくり返ってしまった。
お前以外に誰がいるんだよ、と真希ちゃんに小突かれた。

「私は屍鬼が受肉してる」
「屍鬼?」
「人喰い鬼だよ」
「人喰い…」
「そう、わたし、人を食べるの!!」

野薔薇ちゃんの顔が引き攣る。「食ってねえだろ」とまた真希ちゃんに小突かれて、野薔薇ちゃんは少し安堵の表情を浮かべる。
自分でビビらせてるからなんだけどこういう反応されるとやっぱり辛いな。

「基本は人の血を飲んで生きてるよ。だからあんまり怪我しないでね」
「普通の食べ物は?食べれないの?」
「食べれないねえ」

ケーキとか美味しそうだよね、羨ましいなあ
と何の気なしに言ったら今度はなんか申し訳なさそうな顔されて逆に申し訳ない感じになっちゃった。
人が美味しそうに食べてるからと言って私がおいしく食べれるわけじゃないから気にしなくていいんだよ野薔薇よ。

「私も別に齧られたことねーし安心しろ。たまにすげえ顔で見てくるけど」
「すげえ顔で見てたら真希ちゃんみたいに殴ってね」
「わかりました」

分かられちゃった。冗談だったのに。

「なんか真希ちゃんと野薔薇ちゃんはいいコンビだねえ」

気も合ってなかなか釣り合いのとれてる二人だと思う。
これから二人で任務とかよく行くようになるんじゃないかな〜と勝手に想像してたら真希ちゃんと野薔薇ちゃんが私を挟んでがっつり肩を組んできた。

「いいトリオだろ?」
「なに一匹狼気取ってるんですか」

思いがけない言葉に脳みそが冴える。私も真希ちゃんみたいにポーカーフェイスを決めたかったけど、口がうにうにどうしても上がってしまって、すぐに二人にバレて笑われた。

「めっちゃニヤニヤしてるじゃん」
「ぷぷぷ、寧々子さんかーわーいーいー」
「いやいやいやもう二人の方が可愛すぎだから!」

ギャーギャーワーワー言いながら硝子のところへ向かって、到着したら硝子に「うるさい」と怒られてしまった。
それでも三人とも笑いが止まらない。
素敵な新入生が入ってきてくれて、とってもハッピーだ。