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「お前平気なのかよ!?」
「菜々子…こんな奴に何を言っても無駄」

ニセモノが去ってから、また縛られていると、次に部屋に来たのは双子の姉妹。私の嫌いな二人組。
なんか知らないけどすごく怒っていて今にも私を殺しそうな勢いだ。

「あの時のボコボコにした傷、綺麗に治ってるね。私って他人治すのは下手だからさー、余計にブスになってないか心配してたんだよね」

鼻の骨も折ったしね。
あの時とは、百鬼夜行のとき。私はこの双子を完封している。あれはめちゃくちゃ気持ちよかったわ。殺してやるー!なんてほざいてて、でも私に手も足も出ないの。
クスクス笑っているとギャルの方に殴られる。私はこの特殊な拘束具のせいで、今呪力を使うことはできない。
なんと。今、手も足も出ないのは私の方だ。

「あいつは偽物!夏油様の体を弄んでるんだよ!」
「んなこと知ってるって。喚くんじゃねえ」
「お前のことは殺してやりたいくらい大嫌いだけど、夏油様もお前も、お互いのことが好きだったことくらい知ってる!なのにてめえはなんで平気なのかって聞いてるんだよ!」
「弱ぇやつってなんでこんなにうるさいの?」

また思い切りぶん殴られる。耳がキーンとして、鼓膜まで破れたかも、なんて冷静に思った。
反転術式も使えない。この拘束具まじですごすぎない?
口の中に血の味が広がって、やっぱり自分の味も悪くないな、なんて、少しその味を堪能する。

「てか、なにがそんなに許せないの?」
「それ…本気で言ってるの?」
「あいつは夏油様を侮辱してんだよ!私たちは夏油様を返してもらう約束をした。その為に偽物に協力してる!」
「まじ?ウケるね」
「こいつ…ッ!」

また平手が飛んでこようとしたから、今度は顔を思いっきり動かして顔に当たる前に、その手を歯で食い止める。白歯取り。なんてね。
ギャルがその手を引こうとするが、動かしたら肉に歯が食い込んでそりゃあ痛いぞ。このまま、食いちぎることだって私には出来る。
しかし嫌いなやつの肉なんてとても食べられないのですぐに吐き出す。まるで汚いものがついたみたいに、ギャルは自分のスカートで自分の手を拭った。

「私らにとって夏油様は世界だったんだ…!夏油様に特別な目を向けられるお前が憎かった!夏油様を殺したお前たちが死ぬほど憎い!でも…夏油様のこと好きだったんじゃねえのかよ!!」
「好きだよ。今でも本当に大好き」
「じゃあなんで!」
「あんたらにとっての世界は傑でしょ。私にとってのソレが、悟だっただけ」

クソみたいな世界から救ってくれた傑が双子にとって神様のような存在みたいに、私もクソみたいな世界から救ってくれた悟が何よりも特別な存在。
私にも優先順位というものがある。ソレよりも、傑は下だった、それだけのこと。

「なんでニセモノに傑の記憶があると思う?」
「…肉体の記憶だろ」
「そうだよ。だから、傑はそこにいる」
「はあ?」
「傑はそこにいる。馬鹿なの?だから嫌いだよお前ら」

本当にこの双子はおつむが弱い。余程傑に甘やかされて生きてきたのだろうか。そりゃそうか、めっちゃくちゃに優しいもんね、傑。

「出てってくれない?馬鹿が伝染る」
「そうだよ…。あんたと分かり合えると思った私たちが馬鹿だったよ!!!」

思いっきり扉を閉められて、ものすごい音が鳴る。なんであのギャル常にヒステリックなの?怖いんだけど。メンヘラの方は殺意すごいし。
傑の魂はまだあの中にある。
そうじゃなきゃ、ニセモノに傑の記憶なんて分かりゃしない。傑はあの中にいる。確実に。
だからこそ偽物に甘えたい自分がいるし、彼を愛おしく思う自分がいる。
…だから、きっともう無理だと思う。
二度も見殺しにはできない。
偽物でも、そこに傑の魂がある限り、もう、二度も殺したくはない。
さて、困ったな、と一人で笑う。
こんなの、私のセカイの悟くんに、任せるしかないじゃない。

「トイレの時間だよーっと。なんかすごい言い合ってたね」

入れ替わるように来た真人がいつもの笑顔を貼り付けて扉を開ける。
聞いてたんかい。と思ったけど待望のトイレの時間だ。
拘束具を外してくれた瞬間に反転術式でギャルにぶたれた時の傷を治す。ずっと耳鳴りがしてうざかったんだ。
それから、特に抵抗する意思もないんだけど真人にまた腕を縛られて連れて行かされるのはトイレ。垂れ流しにしたら掃除が面倒なのはこいつらだからね。
しかしめちゃくちゃ嫌なのは真人にトイレの扉の前で待機されるということ。すっきりしてるはずなのになんかすっきりしない、微妙な感覚。

「ねえ、寧々子は、魂と肉体、どっちが先だと思う?」
「…え、何の話?」
「察しが悪いなー。肉体に魂が宿るのか、魂に体が肉付けされてるのかって話」

帰りの道中、真人に不思議な質問をされる。
私にとってはどうでも良すぎてどっちゃでもいいのだが、素直に答えておいた方がよさそうだ。

「私の魂の形って屍鬼なんでしょ?屍鬼が受肉したのは後。だから肉体に魂が宿ってるんじゃない?」
「…あー、なるほどね。でもぶっぶー。正解は後者だよ」

肉体の形は魂の形に引っぱられる。だから、屍鬼が受肉したことによりキミの魂の形が変わったと言える。
とか意味のわかんないこと言い出したから適当に相槌を打っておいた。
真人の術式は、魂に触れてその形を変えるものらしいから、その発想に至るのだろう。

「ねー、私ってベッドで寝ちゃだめなの?座りっぱなしキツい…」
「えー、さっきみたいに傑のこと誘惑すればいいんじゃないの」

見てたんかい。
なんか真人って掴みどころがないというか、なんとなく悟みたいでうざいな。