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ニセモノはなぜ特級呪霊と徒党を組んでいるんだろう。
多分ニセモノの狙いは悟なんだろうけど、詳しい目的は分からない。

「こいつが五条悟の弱点だと?」

頭が富士山みたいな呪霊。まじまじと心底珍しいものを見ているような顔をして、大きな目を動かす。

「私って悟の弱点なの?」
「そうらしいよ」

真人がそんな価値なさそうなのにね、とムカつくことを言う。
でも正直私もそう思うさ。もちろん私のことを大切にしてるとは思っているけど、悟には大切にしている人なんて沢山いる。所詮はその中の一人。私一人とその他大勢を天秤にかければ、結果なんて一目瞭然だ。

「あなた悟を襲った特級呪霊でしょ」
「…。」
「そ、五条悟にボコボコにされた漏瑚。んで、こないだ高専を襲ったのは花御。こっちは陀艮」
「じょうご、はなみ、だこん」
「きみの仲間さ」
「え、いやいや私、呪詛師になった記憶ないし」
「何言ってんの、むしろ呪霊でしょ」

ふざけた事ばかり言う真人を睨みつける。屁でもなさそうだが拘束されてはこれ以上の威嚇もできない。
なんでこいつムカつくことしか言わないの?私のこと嫌いなんだろうけど一々癇に障るからやめて欲しい。

「貴様、呪いについてどう思う?」

漏瑚が真剣な面持ちで私に問う。顔にシワがあって、小さく背中が曲がってて、おじいちゃんみたいな見た目。生まれた時からこんな見た目なのかな、質問されたこととは関係の無いことを考える。

「人の心のかたまり」

ぼんやりと答えると、真人が声を上げて馬鹿馬鹿しそうに笑う。人間に心なんてあると思ってるのかと、そんなの人間の作ったまやかしだと、自分は人間の全てを知っているんだって口振り。

「呼び名なんてどうでもいいよ。どーせ真人は"魂"て言って欲しいんでしょ」
「心と魂は別ものだよ」
「はいはい、そりゃどーも」

だって人間の負の感情、つまり呪力がちょっとずつ漏れだして、積み重なったのが呪霊。悲しい生き物。人間の負の感情の塊。
漏瑚は大地、花御は自然、陀艮は海を連想させる。天災は昔から人々が恐れてきた対象だ。なるほど、それは大きな力を持っていても、不思議ではない。
真人はよく分かんないけど、真の人って名前つけてるくらいだもん。ことある事に魂魂うるさいし、多分人間同士のなんやかんやでしょ。

「では人の心の塊だとして、ソレはなんだ?」
「え、なにって…なんだろ、」
「人間の純粋な心の塊。我々こそ、真の純粋な人間だ」

漏瑚があまりにも怖い顔をするから、なんか酸っぱいもの食べた時みたいな顔になってしまった。
なんだその顔はとまた怖い声して言われるから、またぎゅ、と顔を中央にあつめる。

「人間になりたいの?」
「そうではない。呪霊こそが人間。偽物は消えて然るべき存在」
「ええ〜だから人間消すのに邪魔な呪術師を排除するって?」
「そうだ。ではそれをふまえて問う。貴様は"どちら"だ」
「人間」

そんなもの即答だ。私は呪霊ではない。

「てかね、あんたらは人間の負の感情からできてるわけよ。でもね、知っての通り人間には正の感情もあるわけ」
「…何が言いたい」
「つまりあんたら呪霊は人間って言うには色々と欠陥してるってこと!それで真の人間とか、ウケるね!」

我ながらいい性格してる。その言葉は呪霊たちを刺激するには十分すぎたようで、物凄い負の圧を感じる。押しつぶされそうなくらい。

「ふふ、術式も使えない状況なのにいい度胸だよまったく」

それから守るようにニセモノが私の前に立つ。まるで壁になってくれているみたい。
よしよしと頭を撫でてくれる。その行為は、肉体の記憶。ニセモノは傑でなければ果たして私にこんなことをしてくれるだろうか。

「そんな可愛い可愛いしてくれてもチューしないよ」
「いいさ、いつかしたくなる」

頬にキス。今はこれで許してあげようと、それは一体何に対する許しなのかも分からないが、また頭を撫でられた。
壁の向こう側では呪霊たちが私のことを憎たらしそうに見ている。多分用済みになったら即殺されるだろうな。
いいさこの先ずっとこの縄で拘束されてるんだろうし、いつでも殺してくれ。というか、もし私が本当に悟の弱点だとして、私のせいで悟が死んだりするようなことがあれば、その前に、いっそ殺してくれ。