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今、彼らは私のことを必死に探してくれているだろうか。
それとも私の事なんて気にも留めずに、交流会の続きなんてやっちゃってるかもしれない。
そうだったら嫌だな、私の事、一生懸命心配して欲しいなって、自分勝手なことをずっと考えている。
冷たく暗い部屋、堅い椅子、縛られて痛い手足。
トイレもろくに行けやしない、食事だって真人が無理やり肉を食べさせてくる。こんなところにいたらそりゃあ病んでしまうさ。

「食事だよー!」

ほら、噂をすればなんとやら。噂ではないけど、真人の姿を想像したらなんか出てくるんだよな、こいつ。心でも読めんのか。

「また肉!食べないって!おめぇを食うぞこらぁ!」
「でも人喰い呪霊の寧々子は人の肉を食べなきゃ生きていけないよ?」
「生きてる。今めっちゃ生きてる」
「時間の問題だよ、ほら、ほらほら」

鼻を貫いてくるような芳醇な…、いや、不快な香り。その匂いを嗅いだだけでも脳みそが痺れてくる。
ぎゅ、と目を閉じてぎゅ、と口を噤んで、真人になんとか口をこじ開けられないように抵抗する。
いやいやと泣いてもこの呪霊は見逃してはくれない。慈悲なんてそんな情は持ち合わせていないからだ。むしろ泣いたら喜ぶだろう。

「強情だなーせっかくキミのために食べやすいようにしてきたのに」

真人は実験で私に飲ませやすいように人間の形を変えてそのまま差し出してくる。小さくされて丸飲みにできるくらいのサイズの、人だったものは、たまに呻き声をあげて気味が悪い。

「私は人間だから人間なんて食べない!」
「人間じゃないよ、人間は面倒臭い生き物だから、こんな異形の人間を見たら"心"を痛ませるものさ」

そんなものに囚われているのが人間さ。
でもアンタはそうじゃあないだろう?
人間のことを"なんでも"知っている真人。偉そうにそんなことを言って、私の顎を掴む。

「アンタの拠り所は五条悟だ。それが全てであり、善悪の判断もそこでしている」
「いや、友だちもいっぱいいるもん」
「それは五条悟がそうあってほしいと望んでいるから。違う?」
「違う」

私は私の感情に沿って行動している。パンダも、真希ちゃんも棘も憂太も、恵も野薔薇ちゃんも大好きだ。その人たちのために戦いたいって思うし、守りたいし守られたいって思う。別に悟にそうしてほしいなんて言われたわけじゃない。自分の意思でそうしてるだけだ。

「本当に?」

真人の、ツギハギだらけの顔が、左右色の違うなんでもお見通しだというその眼が大嫌いだ。
私の本音はしっかりあるはずなのに、真人が勝手に想像してる私の本音に引っ張られそうになる。
確かに真人は人間の本質をよく理解してると思う。魂の構造を理解してるだなんて、恐らく口先だけではないことは分かる。
だからこそ、嫌いだ。私にも分からない私のことを、見透かされているようで。

「あまり寧々子を虐めてやるな」
「だってめちゃくちゃ頑固だからさあ」
「それがいいんじゃないか」

私は好きだよ、そういう寧々子が。
と、この調子すぎて今更ドキドキもしないけどニセモノが私に微笑んでくる。

「すぐる〜、真人がいじめるよお」
「虐められる寧々子も可愛いよ」
「いやそういうのいいよ。傑、血ちょうだい」
「はいはい」

今日は拘束を解いてくれない。その代わり、手を差し出してきた。私はその手に犬のように擦り寄って、人差し指を噛む。血が滲んで、零さないように舐めとっていく。その味はやっぱり傑の味。私のすごく好きな味。
多分、私は今すごくだらしの無い顔をしながら傑の指を必死で舐めている。傑の後ろでその光景を見ていた真人が、「これのどこが人間なんだか」と呆れた声で言うけれど、私は一生懸命、聞こえないふりをした。