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「ニセモノが私に優しいのってやっぱし傑の時の記憶があるからなの?」

今日も今日とて傑の膝に座らされゲームに興じる。今日はオセロ。しかもなぜかトーナメント式。今は漏瑚と花御の番なので他は観戦中。

「寧々子が可愛いからだよ」
「うそ」
「本当さ」
「や、そこ無理…!」

脇腹を撫でられて身をよじる。脇腹は擽ったくてしょうがないんだ。勘弁してくれ。
で、実際どうなんだと聞いてもはぐらかされるばかり。私のことが大好き!みたいな感じでもないし、かと言ってちょっかいかけてくるし、正直よくわかんない。
今も私の頭を顎おきにして、「本当に可愛いと思っているよ」なんて、本当なのか嘘なのかもわからない声色でそんなことを平気で言う。

「私は寧々子が夏油傑に優しかったことも、夏油傑が寧々子に優しかったことも、全部知っているからね」
「でもあんたは傑じゃないじゃん」
「そうだね、魂がひっぱられているのかもしれない」

そういうもんなのかな。と納得しかけたけど、いや違うじゃん。なら双子のことも好きなはずじゃん。頭悪いとか言ってたけど"家族"に対して傑そんなこと絶対言わないもん。
やっぱり狙いがわかんない。私のことを好きにさせようとしているのかな。使いやすくするように。そう考えた方がまだ納得がいく。でもこれ以上は本当に何も言ってくれなさそうだったから、とりあえず頭撫でさせておいた。

「あ、花御、そこ置いたら」
「邪魔をするでない小娘!!」
「こわ」

二人の勝負を見ていると花御はあまり得意ではないらしく、手助けしようとしたら漏瑚に死ぬほど怒られた。そんなに怒んなくてもいいのに。暑くなるからやめて欲しい。

「それは寧々子が悪いよ」
「へーへー、すいやせんねえ」

真人にも怒られて口を尖らせると、「なに、口付けでもしてほしいの?」なんて言われたからすぐにひっこめた。

「確かに夏油の言う通り可愛いところあるよね」
「真人に言われてもなあ〜」

傑の姿をしてるニセモノに言われるからいい気分になるというもので、ツギハギだらけ男に言われても動揺すらしない。それが伝わったのか真人は私と同じようにふくれっ面をして、「つまんないの」と視線を漏瑚と花御の勝負へと戻した。
なんか溶け込んでるなあ、と自分でも驚いている。
ニセモノが謎に私に甘々なのも慣れてきたし、真人の意地悪にも慣れてきた。そもそも漏瑚と花御と陀昆はそこまで私に興味もないみたいだし、彼らがどこかで人を殺してようがこの心は痛まない。
本当に真人の言う通りかもしれない。五条悟こそが私の良心だったのかもしれない。今まで自分の意思で生きてきたつもりだったけれど、それは全て『こう行動をすれば五条悟はどう思うだろう』というところから始まっていたのかもしれない。
本当にそうだったとしたら、なんて滑稽なのだろうか。
特に高専に入学してからというもの、私は常に、『私は本当にここにいていい存在なのか』というのを感じていた。もちろん、私がただの受肉体ではないこと、人を食べるということ、そう思うには十分すぎるほどの理由が沢山ある。

「そういえば、悟をどうにかするのになんか計画立ててるんだよね?いつやるの?」
「何も伝えてないのに察しがいいな。10月31日だ」
「え、もうすぐじゃん」
「もうすぐさ。寧々子にもうんと働いてもらうよ」
「うーん、でも高専の人は殺せないと思うけど…」
「それでいいよ。寧々子はただそこにいてくれたらいい」

計画もなにも教えて貰えないまま、オセロゲームは続く。ただそこにいろと言われても、結局はみんなと対峙することになると思うんだけどな。そうなると、みんなの目に私はどのように映っているだろうか。想像して、吐き気がしたけど、ニセモノがわざとなのだろうか、私の脇腹を擽り始めたのでそれに気を囚われてその事を考えすぎずに済んだ。ひとしきり擽られて笑い転げたあと、漏瑚VS花御の勝負を見ると、押されていたはずの花御が何故か圧勝していた。
私と真人で指を指しながら漏瑚を笑ってやると辺りそこら焼き散らかしそうになったので、私はただ一人、土下座をして漏瑚の怒りを鎮めておいた。真人は何食わぬ顔で小説を読んでいた。