04

呪霊操術を教えてくれたのは、夏油傑だ。
人の肉を食べる代わりに、と、教えてくれた。
でも呪霊なんて人の肉には到底及ばない。汚物と一緒だ。「くさい…まずい…」吐き気を堪えながら頑張って食べていると、傑は優しく私の頭を撫でてくれる。

「まずいよね」

傑には、少しばかり親近感というか、共通点があるって勝手に感じている。
私は人肉以外を美味しい思うことが出来ないから、おいしい血のジュースを飲むことは出来ても、肉に齧り付くことはできない。
真希ちゃんとかに勘繰られないように、無理やり人間の食べ物を食べる時だってある。(すぐ吐くけど)
夏油も、無理やり頑張って呪霊を食べてる。強くなるために、頑張って食べているのだ。
そんな傑は、人間が嫌になっちゃって、たくさん殺したらしい。
呪詛師として処刑対象になり、高専を去っていった。
あんなに優しい人でも、人を殺しちゃうんだなあって。私は別に、人を殺した傑に対して、軽蔑するわけではないし、憤りだって感じない。ちょっと驚いたけど。

「寧々子。なにか私のことを考えてるね?」
「え、当たり〜。どうしてわかったの?」
「わかるさ」

今も傑とはこっそり会っていて、お互いに最近起こったこととか、他愛もないことを話している。あんまりベタベタすると傑崇拝者の双子ちゃんに陰湿なイジメを受けるので、傑と会う時はそれだけが嫌だ。

「今日は?飲むかい?」
「………んー、でもね、ムラムラしちゃうから」
「……ん?」
「ムラムラするの、わたし」

傑の顔が笑顔のまま固まった。
その瞬間首にロープが巻きついて、体が持ち上げられそうになったところ、すぐ術式で焼いた。

「ちょっと双子ちゃん本当に短気。やだー」
「淫売!夏油様に触らないでよ!!」
「まだ触ってませんけどもー」

まじでうざいのは傑が拾ってきた双子。傑が好きすぎて私が近づくのですら本当は許してくれない。
傑が止めるから双子もすんでのところで私への攻撃をやめるのだ。

「寧々子」

ぽん、と頭を撫でられる。これはいつものこと。

「悟にもそうなのか」
「え、そうだよ」
「そうか…」
「だからダメなんだって」
「なにが?」
「わたしがムラムラしてるからもう直接血飲んじゃダメって」

ぷはっ!と傑は珍しい笑い方をした。
手で口をおさえて、肩を揺らしながら笑っている。

「悟に言われた?」
「うん。困ってた」
「そうか、困ってたか」
「わたし、悟が困るの嫌なんだあ」
「そうだね」

でもね、と傑は袈裟の襟をずらす。いつからだろうな、悟や傑をこんな目で見始めたのは。
首筋が、鎖骨が、なんともえっちでゴクリと唾を飲む。

「私にはいいよ。ムラムラしても」

ぺろり、舌なめずり。
肉は噛んではいけない。噛んでしまったら、きっと私、もうとまらない。
その首に顔を埋めて、鋭いこの歯を、たてた。ぷち、と皮膚が裂けて、どんどん血が溢れ出る。
ちゅ、ちゅ、とキスマークつけるみたいに、首筋の傷を吸って、舐めて、ああ、久々の直飲み。やっぱりサイコーだ。

「ん、…はあっ、あ、」

馬乗りになってるから、完全に傍から見たらやばい光景なんだろうけど、おかまいない。
双子ちゃんの殺気をびんびんに感じているが、どうでもいい。
下半身がむずむずして、腰がくい、と勝手に動く。そしたら傑の膝と私の脚の付け根が擦れてまた腰がくい、と動く。それがまた気持ちよくて、甘い吐息が私の口からはもれる。それで、もっと、もっと、って、気持ちいいところを傑に押し付けて、

「寧々子、それはちょっとやばいかも」
「んえ…?」

そしたら傑に肩を押されられ、引き剥がされる。
ポカン、としてると、傑は気まずそうな顔して、頬をかいた。

「これ以上はダメ」
「…なんでえ?」
「悟の気持ちがわかったよ」

これからは私のも直飲み禁止。
にっこり言われて、そりゃあもう、私は絶望した。
この溢れた性欲はどこに放出すりゃあいいんだ。