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「どう思う?」
「どうって言われてもなあ」
「ツナ」
「パンダが一番寧々子と付き合い長ぇだろ」
「しゃけ」

真希と棘の視線が痛い。どうって言われても、呪骸の俺には人間の感情の仕組みなんてものは分からないし、別に分かろうとしたことも無い。

「まあ、寧々子のことだから死んではないんじゃない?あとはそうだな、多分またヘラってるだろうな」
「だな」
「しゃけ」

はあーーーと三人で深いため息を吐く。寧々子、この二人は寧々子が思ってるよりもずっと寧々子のことを分かってるぞ。

「あいつ攫った目的は高専の情報を得るってところか?連中は受肉体ってことで引き込めると思ったんだろ。ただでさえコンプレックスあるからな、まんまと流されてる可能性は大きい」
「じゃあもし寧々子が俺たちを殺そうとしたらどうする」
「高菜」
「殺られる前に悟を呼ぶ」
「しゃけ」

まあそうなるよな。
寧々子が本気で俺たちを殺そうとしたら恐らく勝てない。呪霊操術で一級三体出されたらそれだけでキツいし、本体を叩こうにも反転術式でなんのその。寧々子はちゃらんぽらんな奴だけど、さすが一級としての実力は言わずもがな。
憂太がいれば話は別だが海外にいてすぐには戻って来れないしな。

「じゃあもし人を食ってたらどうする」
「殴る」
「いくら」
「蹴る」
「明太子」
「鼻フック」
「しゃけ」
「だな」

その可能性はないと言いたいが、ないとは言いきれない。自棄を起こしてその一線を超えている可能性は十分にある。そうなったら死刑は確実だろう。未だに高専外で寧々子の残穢は確認されていないし、食っていたとしても自分で殺しているわけでなく無理やり食わされているとかなら情状酌量の余地もあるかもしれないが、上層部がどう捉えるかは分からない。

「にしても厄介なやつ」
「…高菜」

棘が申し訳なさそうに頭を下げる。寧々子が攫われた時、特級との戦闘で寧々子が棘を介抱している際にいなくなったからだ。
自分のせいだと、責任を感じているらしい。棘のせいではない。そんなこと誰が見たってわかるというのに、そんなことを気にする人間はやっぱり面倒くさいなって思う。
そんな落ち込む棘の肩を軽く叩き宥めて、また三人で深いため息。

「悟はなんか言ってたか?」
「先生に任せなさい、だとよ」
「いかにも言いそうだな」
「しゃけ」
「つーか一番切羽詰まってんのあのバカだろ、わかり易すぎる」

そう、最近の五条悟はおかしい。任務任務と忙しなく外に出向き、めちゃくちゃに暗い顔して帰ってくる。
寧々子を探しに行って見つからなくてガッカリしながら帰ってきてるのがバレバレでめちゃくちゃに面白い。

「…悟と寧々子って結局デキてたんか?」
「パンダでも知らねーこと私らが知ってる方わけねーだろ」
「いや、寧々子は別に俺に何でも話してくれてたわけじゃねーよ」

"人外"仲間だとは思っていただろう。でもあいつが俺にべったりしてくるのは大体悟となんかあって寂しい時だ。俺は喋るぬいぐるみかなんかと思われている。あれ、別に間違いでは無いのか。
にしても悟と寧々子はいつも妙な雰囲気だった。寧々子はわりとストレートだったが、妙にしてたのは悟だろう。自分は寧々子に特別な情はないという風に振舞いながらも、結構俺とか棘にマウントとってくるくらいだった。真希は知らねえかもしれないけど。

「あ、でも寧々子って棘のことも狙ってたよな」
「ツ!ナ、マヨ…」
「棘も割と満更でもなさそうだったしな」
「おかか!」
「まああの顔だしな」
「明太子!!」

顔を真っ赤にして、否定してるつもりなのか珍しく棘が動揺している。人間のこういうところが好きで、面倒くさくて、面白い。本音を隠そうとする、それが本音とも気が付かずに。
寧々子はその点、基本的には自分に忠実、しかし肝心なところは偽り隠す。まるで自分は人間だから、とストッパーをかけているみたいで、不思議だった。そういう寧々子も面白くて、俺は好きだったけど。
あと寧々子は結構可愛い部類に入るらしい。そりゃあ可愛い異性に言い寄られて嬉しくない男はいないだろう。よく美容室から帰ってきた後もスカウトがとかカットモデルがとか話をされる。
俺は、別に可愛いとか不細工だとかよく分からないけど、寧々子と一緒にいるのは楽しいし、これからも一緒に映画見たあとそのまま雑魚寝したり、また突然背中にしがみついたりして、頼ってほしいなって、そう思う。

「んじゃ、まあ、私らも探しに行くか」
「しゃけ」

立ち上がって、それぞれ服の汚れを叩く。
結局のところ、寧々子がどうなろうと寧々子は俺たちの同級生。きっとあいつのことだから「自分は呪霊だ」「祓ってもらわなきゃ」とか思ってる頃かもしれないが、そんなのは俺たちからすれば慣れっこだ。
だから別に大丈夫。どんだけ拗らせてても今更。だから安心して戻ってきてもいい。
例え寧々子が自分のことを呪霊だと思っていようが、俺たちの同級生で、仲間であることには、変わりないのだから。