あくまでオトモダチ
ひとしきり快楽に溺れた後は無性に煙草を吸いたくなる。きっと、私と体の関係を持ってる人は、セックスした後すぐに煙草を吸う人が多いからだ。何かをごまかすみたいに、遠慮なく非喫煙者の隣で煙を吐き出す。でも私はそれが嫌いではなかった。男性が煙草を持つ手はえっちだし、かっこいい。それを見ただけでもグッとくるものがあるのだけれど、賢者タイム中の男性にちょっかいを出すのはあまりよろしくないことくらい、学習済みである。
愛のないセックスなのだから、余計に。
「悟くんは煙草吸わないよね〜」
「え?僕が吸ったら小春惚れちゃうじゃん」
「惚れないよ〜不毛すぎるじゃん」
「小春のそういうとこ、僕好きだよ」
頬をキスをされて、嬉しそうに笑ってあげる。でも別に嬉しくもなんともないんです。実は私、悟くんのこと、好きにならないように必死になってるところ、あるのだ。
とにかく顔。顔がいい。国宝級の顔。細身に見えて筋肉質な体も長い手足もアソコのでかさもとにかくいい。でも性格は結構クソ。完璧な人間ってやっぱりいないんですね。夜のオトモがいないからって、後輩寄越してくるような人ですし。
「私、昨夜の記憶ないんだけどいつから悟くんいなかった?」
「え?小春がボトル空けて2本目いったところかな。七海は酒好きだからさ。合うかなって思って呼んだの。小春僕とできないと拗ねるし」
拗ねるし。残念ながら本当です。前にドタキャン食らいまくってキレたことがある。
そりゃあ期待した熱を受け止められないと知った乙女心、悟くんには絶対に分からないでしょう。一人で慰めるのも限界があるんです。
「ヤケになって危ない男について行くよりマシでしょ」
僕これでも小春のこと大事にしてるよ?
多分これは私を勘違いさせてからかいたくて言ってる言葉。本気ではない。
「もう最悪だよ〜、なんで七海さんの家行ったのかも覚えてないしさ」
「え、泊まったの?」
「え、泊まったよ?」
言わなかったっけ。コテ、とあざとく首を傾げる。自分の覚えていることは全て赤裸々に打ち明けているつもりでいた。けど実際は「酔っ払って目の前で吐いちゃった」くらいしか言っていなかったみたいだ。
家まで行ったのにヤらなかったの?
心底驚いた様子で悟くんが私を見ている。そうだよね、実は私もびっくりした。自己紹介よりもまずセックスするような人間だもんね。いやそれはさすがに誇張しすぎです。
「行きずりの関係を持つような人には見えなかったけど」
「ふーん、本当に男か?あいつ」
ええ、あなたよりはずっといい男だと思います。
きっと私のことだからめちゃくちゃおねだりしたと思うんだ。なんならセクハラもしてたと思うんだ。それでも行為には及ばなかった。あまり性欲がないのか、よっぽどこういう女が好みじゃなかったか、それか自分のモノによっぽど自信がないか、まあどれかでしょう。
「で、どう、七海のこと」
「どうって、悟くんの後輩にしてはめちゃくちゃしっかりしてると思ったけど」
「そうじゃなくて、男として」
「う、うん?普通に抱いて欲しいけど」
きゃー!小春ちゃんってば本当にえっち!!なんて大袈裟な反応。悟くんだって抱きたい女の子はとりあえず抱くでしょ。私と同類なくせによく言うよ。
でも七海さんとはセックスしないよ。いくら悟くんが私に対して特別な感情を持っていなくたって、私の経験上、セフレ同士に繋がりがあるなんてろくな事にはなりやしない。別に恋愛感情が一ミリもなくったって、何かが引き金になって面倒なことになるのだ。
「七海に言っておくよ。ついでに小春の具合もイイトコロも教えておくね♡」
「信じられない、絶対やめて」
冗談冗談なんて軽く言っていたが、悟くんは軽薄が服を着たような人だから、信用はできない。
まあ、大丈夫でしょう。だって彼はきっとまともな人だ。酒が飲めても私とは合わない。あの一夜で私がどれほどだらしの無い女かというのは分かっただろうし、次の日の店のことで自分の保身が一番大事な自己中女ということも分かってくれたと思う。
まあ、ただ、抱いておけばよかった、なんて、少しばかり、後悔はしている。彼の体。悟くんよりもガタイがよくて、きっと、抱きしめたら岩みたいに硬いけど、体はすごく暖かいんだろう。あの太い首に腕を回したい。逞しい体にしがみつきたい。私に優しくしてくれたあの手に触れられたらきっとどこでも性感帯になっちゃうだろう。
ああ、だめ、なんかムラムラしてきた。
「悟くん、もっかいしよ…?」
「え、なに。満足出来なかった?」
「んーん、また新しいえっちな気分なの」
むちゅ、と悟くんの唇に吸い付いて、いつものように誘う。私のキスは上手だって巷では評判なんです。
すると悟くんも再びノってきたのか、羽織っていたバスローブの上から胸を揉みながら脱がしていく。
私たちのセックスは本当にぴったりなんだ。何も言わなくてもお互いにお互いのイイトコロを分かってる。
「フ、やば…ッ、すげえ締めつけ…ッ」
「っあ、そ、ソコッ…や、あァッ…!」
悟くんは私が勝手にイこうとお構い無し。でも私は乱暴に突かれるのが好き。
こんな抱き方、あの天使様はしてくれないだろうなあなんて、悟くんに抱かれながら失礼にも考える。だって実はセックス中の女性は、意外と冷静なんです。
でも気持ちいいことには変わりない。とりあえずは悟くんが頑張って気持ちよくしてくれてることに感謝しながら、お礼に私はわざとらしくあんあんと大袈裟に喘いだ。