日常の終焉

──今思えば彼女との出会いも、自身がこのような末路を辿るのも最初から決まっていたのかもしれない。

「それを知っても尚、君は彼女に寄り添うことが出来るかい?」
白銀の髪が月明かりを浴びて柔らかな色を帯びる。名も知らぬ男性からの問いかけに少女は迷うことなく首を縦に振った。

「わたしの意志は揺らぎません。アルトリアの友として、アーサー王に忠義を誓った騎士としてこの命が尽きるまで傍に居ます」
「……ディオネの覚悟はよく分かったよ。君の行く先に花の祝福があらんことを」

「……て。起きて下さいディオネ!!」
ガクガクと肩を揺さぶられる感覚に夢現をさ迷っていたディオネの意識は完全に覚醒した。
何かおかしな夢を見ていた気がするが、頭にかかったもやが思い起こすことを阻害する。

「馬当番の日なのにディオネが中々起きてこないから起こしにきました!井戸の冷たい水で顔を洗えば背筋も伸びるはずですよ。さあさあ!」
「ん、行ってきま……いだっ!」
「もう!いきなり立ち上がるからそうなるんですよ。たんこぶにはなってないですか?」
柱の角に額をぶつけ蹲ったディオネの鼓膜を擽る柔らかい笑い声にディオネも気が付けば笑い返していた。

「今日も一日よろしくねアルトリア」
「こちらこそ!頑張りましょうねディオネ」
ディオネの手を掴んだアルトリアの手は豆ひとつなく柔らかで年相応の娘のものだった。
これからも恒久的に平和な日常が続くとディオネは信じてやまなかったし、アルトリアも勿論そう思っていた。
アルトリアが選定の剣カリバーンの台座の前に立ち、見事にそれを引き抜くその瞬間までは。

極夜