通過儀礼の後で
入団式を終えたジャン・キルシュタインは巨人は何たるかを説く少年に冷ややかな眼差しを注ぎながら大して具の入っていない、味の薄いスープを飲み干した。
ご高説どうも、という気持ちが抑えきれなかったのか考えが口から漏れていたらしく、眦を決した少年が音を立てて席を立った。
一触即発のピリピリとした空気を切り裂いたのは夕飯時間終了の鐘の音。
すっかり気が削がれたジャンが手打ちと称し差し出した手を叩き退室した少年の後ろ姿を見ていたジャンの視界に、見慣れない薄灰の髪が映り込む。
「ジャン君、だよね?」
「ああそうだが……あんたは?」
「私はルネッタ・ローレン、エレンと幼馴染みなんだ。ちょっと気が短くて頭が固い所もあるけど、仲間思いで……」
「ルネッタまだかー?」
「……っと、さっきは本当にごめんねジャン君。エレン今行くよー!」
去り際に険しい顔をしていたエレンと言う少年とは真逆の柔らかな表情をジャンに向けたルネッタは自身を呼び付ける声に返事をしながら、会釈をしてジャンの前から立ち去った。
辺りに漂うルネッタの残香に立ち尽くしているジャンの前を射玉の艶やかな髪と整った顔を持つ少女が通り過ぎる。
「あ、あの……!」
声を掛けられた彼女は不思議そうな顔をしてジャンを見つめている。
その間もジャンの鼓動は速まっていくばかりで、やっとの思いで出てきた賛美の言葉に事務的な礼を述べて背中を向けた彼女を追うようにして食堂から飛び出る。
「お前髪伸びてきたよな。立体機動の訓練中、事故に遭うかもしれないし切ったらどうだ」
「……エレンがそう言うのであれば切ろう」
「いい機会だし私も……」
「絶対に駄目だからな!」
「私が切るのは構わない。でもルネッタが髪を切るのは駄目」
「二人して捲し立てるように言わなくとも……切るのは止めます」
ジャンの胸中に渦巻き始めたどす黒い感情──それが何かだなんて分かりきっている。
たまたま通りがかったコニーの背中に右手を擦り付けたジャンはエレンとミカサに挟まれて頬を綻ばせているルネッタの顔を見つめ、放心していた。
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極夜