たかが同期。然れど
※少し下品
次の訓練は対人格闘術だしサボっても構わねぇかと考えていたユミルの耳に届いた、同期達のやり取り。
「最近はルネッタも悪くないと思えてきたんだよな〜」
「顔と性格どちらも満点なクリスタ以外有り得ないって言ってたのお前だろ!?」
「先日の対人格闘術の時に初めてルネッタと組んだんだが、クリスタとはまた違った親しみやすさがあったんだよな。細身のわりに胸も──」
「(……下卑すぎて何も言えやしねぇ)」
クリスタを狙う不届き者かもしれないといつにも増して目付きを鋭くして二人の会話を聞き入っていたが、どうやらもうその必要はなさそうだ。
渇いた喉を潤すべく一気に喉奥に水を流し込めば、水分不足で喘いでいた全身が瞬時に癒されていくような錯覚を覚える。
人間の根底には食欲、睡眠欲、そして性欲の三つが存在している。
己の子孫を残すという基本的な欲求に基づき、異性にそういった感情を抱く事は何もおかしくない。
──特に思春期に突入した男児はそれが顕著になるだけという話だ。
「(クソつまらねぇ事に時間を割くなら他の事に頭を働かせろってな)」
兎にも角にもクリスタを狙う標的が一人減ったのは喜ばしい事実だ。
このような低俗な男の"オカズ"にされているルネッタには親指の付け根程の同情心を持ったが、自身とクリスタにはこれっぽっちも関係のない話だと結論付けてしまえばそれでオシマイ。
当のルネッタは同期の異性からそのような目で見られているとも露知らず、片隅で黙々と腹筋に取り組んでいた。
「……紅潮した顔に首を伝う汗、ちょっと乱れた息とか……な?」
「やめろよ!お前がそう言うから……」
たかが同期。たまたま入団時期が同じだったという薄っぺらい縁しか持ち合わせていないが、これ以上の騒音は聞いていて気持ちのいいものでは無い。
チッと舌打ちをしてユミルが二人に詰め寄るのと同時にルネッタの幼馴染みらしい(ルネッタ本人が以前そうクリスタに話しているのを又聞きした)エレンが颯爽と現れ、そいつらからルネッタの姿を隠すように立ち塞がった。
肩を落としていた男二人にエレンが刺し殺さんばかりの鋭い眼光を向けた途端、そいつらは脱兎の如く逃走した。
良かったと安堵の息を漏らしている自分に、深い皺が眉間に刻まれる。
「……意味が分かんねぇな」
ルネッタなんて気にかける必要の無い存在だと認識していたはずなのに、何故。
沸き立つ疑問の答えはいつまで経っても得られず、ユミルは束ねた後ろ髪を乱雑に掻き乱した。
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極夜