磨いてみないと分からない


「…………私には素質がないのかもしれない」
夕焼け色を背中に受けたルネッタはポツリと一人漏らした。

生い茂る木々を掻い潜りアンカーを噴出して固定する。
ガスをふかしながらもう片方のアンカーが深々と刺さった事を確認してワイヤーを巻き取り、次なる場所にまたアンカーを放出する。
動きは頭の中でよく理解しているものの、いざそれをやってみると脳から出される指令と動作が上手く一致せずライナーとベルトルトの二人に救助されたのは記憶に新しい。
(直後、駆けつけたエレンに怒られたのも勿論忘れてはいない)

壁外で巨人を討伐する時、彼らから一時的に逃れて体制を立て直す際にもこれは絶対に欠かせない代物だ。
だからこそ、せめて人並みに使いこなせるようにならなくては──。


「俺のこと呼び止めておいてだんまりとはいいご身分だなルネッタ」
「あ……ごめんなさいジャン君」
104期の中で特別立体機動の操作に長けているジャンに教えを説こうと声を掛けた……までは良かったが些か物思いに耽りすぎていたようだ。
掴んでいたジャケットから手を離してジャンの瞳を見つめたものの、いざ感情を口に出そうとすると喉元まで出かかっているのに中々吐き出せない。
かと言って引き留めておきながら無言を貫く事の方がルネッタにとっては苦行であった。

「ジャン君って同期の中でも特別、立体機動装置の扱いが上手だからご教授いただけたら嬉しいなぁ……なんて」
「俺の服を掴んだまま黙り込むから何事かと思えば……。最初の訓練の時に転落しかけたと風の噂で聞いたし、その後の立体機動の訓練でいつも危なっかしい操作してんなと思ってたんだよ」
「……返す言葉もないです」
「開拓地に行く事にしたから別れの言葉を言いに来たのかと思ってたんだが……ルネッタはそんな腑抜けでもないし、まずあいつが許すわけねぇな」
「ジャン君?」
何もねぇよ、とぶっきらぼうに吐いたジャンは立体機動装置片手に木々の生い茂る訓練地へと向かう。

「教官からもう許可は貰ってんだろ?それなら早く行って練習に励むとしようぜ。まずはお前の実力がどれほどか見せてもらうからな」

* * *

「……それだ!今のは良かったぞ!」
訓練地に着くなり立体機動に移った私の所作をじっくり見たジャン君は私の立体機動での癖を事細かに洗い出し、こうすればもっと良くなるのではないかと即座に提案してくれた。
彼に言われた通りする事、数回。
ジャン先生から大きな声で太鼓判を貰えて破顔するのと同じタイミングで感じる浮遊感。
──ああ、またやってしまった。

木々を縫うように凄まじい音を立てながら落下していく私の頭上から怒号染みたジャン君の声が響く。
今度こそ背中強打は免れなさそう……骨折くらいで済むといいなぁ。頭蓋骨骨折とか脳髄に損傷がなければいいけどなんて考えていると、ガスの噴射音とワイヤーが巻き取られる特有の音が間近で響いた。

「お前な……気を抜くんじゃねぇよ」
「ごめんなさい。ジャン君から褒めてもらえたのが嬉しくて」
小脇に抱えられ近くの木に移ったジャン君は額に滲んでいた汗を袖で拭った。

「大分暗くなってきちまったし、特訓はまた後日だな。思ってた以上にいい線してたしルネッタ、もっと自信持てよ」
「そう?でもジャン君が言うなら間違いないはず……えっ?また立体機動の特訓に付き合ってくれるんですか!?」
「俺の都合がいい時だけだから勘違いすんじゃねぇぞ!?とっととこの場所から撤退して夕飯にありつくか。ほら、帰るぞ」
立体機動装置を使って颯爽の目の前から立ち去ってしまうジャン君の名前を叫びながら私も立体機動に移るのだった。


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極夜