日々精進あるのみ


今日の休暇は久しぶりに一人で過ごそう。
そう決めて街へ繰り出した事を、現在進行形でルネッタは深く後悔していた。

薬の調合で使用するすり鉢とすりこぎ棒を新調し、更に知識を得ようと本屋で野草百科を購入したまでは良かった。
本屋の店主と他愛ない会話をしていたルネッタの視界の端で、自分と齢が近そうな少女が男に腕を掴まれ路地裏に消えていくのを捉えたルネッタは店主に頭を下げ、後を追った。
──その少女が男とグルで、助ける為に追いかけて来た善人から金品を巻き上げているなど、そうそう予想出来ないのではないだろうか。

飛び掛ってきた少女に峰打ちを食らわせたルネッタは男と向き直る。
……アニから教わった格闘技を用いれば問題なく退けられる。
にじり寄ってくる男と間合いを置いて呼吸を整えていたルネッタの死角から現れた脚が彼女を蹴り倒した。
目の前の男はみるみる強ばっていた表情を綻ばせ、地面に転がったルネッタを羽交い締めにすると体格のいい男に言葉をかけた。
そこで生じた男の僅かな綻びに拘束している腕を捻りあげ逃れたルネッタは男二人から改めて距離をとった。

下卑た笑いを浮かべルネッタをどうするか話している男達に過去の出来事が重なる。
あの時と違い、救世主が駆けつけてくれる望みはない。
気を引き締め直し構えたルネッタの前に居た男二人が同時に勢いよく吹き飛び、壁に激突した。

「大人二人がガキに寄ってたかって何をしてやがる」
自分とそれほど身長の変わらない三白眼の男性が、冷ややかに倒れ込んだ男達を見下している。
今の衝撃で伸びてしまったらしい小さい男の体を揺すっていた男の脇腹に鈍い一撃が入り、情けない悲鳴が狭い空間に響いた。
棒立ち状態のルネッタと距離を詰めた男性は見覚えのある紙袋を突き出し、そのまま押し付けた。

「私の荷物!ありがとうございます。えーと……」
「リヴァイだ」
「(どこかで聞いた事があるような……気のせいかな)」
紙袋を抱きしめ黙り込んでしまったルネッタに容赦なく鋭い視線を飛ばしてくるリヴァイに、一気に背筋が寒くなる。
リヴァイからは形容し難いプレッシャーと重々しいオーラのようなものが発せられている。
何の根拠もなく、直接的に目に映るものではないがルネッタは本能的に感じ取り、唾を飲んだ。

「改めてありがとうございました、リヴァイさん」
「……自分の力量を推し量れず、尻拭いも満足に出来ねぇ人間が他人を救えると思うな」
リヴァイの言葉に唇を噛み、口を開きかけたルネッタの前には自身一人では対処しきれなかった男達が転がっている……。

訓練兵という立場そして相手は民間人だから、大の大人相手でも事足りると容易に考えすぎていたのではないだろうか。
押し黙ったまま肩を震わせているルネッタに泣いていると思ったのか、顔を覗きこんできたリヴァイが見たのは唇を噛みしめている年端もいかぬ少女の姿だった。

「……リヴァイさんの仰る通りです。二度と、同じ過ちを犯さぬよう訓練兵として更に精進します」
「訓練兵?おい、お前まさか──」
そうと決まれば悠長に買い物をしている時間はない。帰ってすぐに自主訓練に励まないと。

何か言いたげなリヴァイに深々と頭を下げ駆け足で去っていく少女の後ろ姿を見送ったリヴァイは、薄ら笑みを浮かべていた。


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極夜