生まれ持った素養
深夜に実施された訓練は、教官が選んだメンバーで課せられた任務をこなすというものだった。
複数人で行う訓練はいつもエレンから真っ先に声がかかり、そこから芋づる式にミカサ、アルミンの四人で挑んでいたのもあって視界不良の鬱蒼とした森の中で葉の合間から差し込む僅かな月光の下、即席の隊員と行う訓練というのはいつも以上に気を使うし、何より疲れる。
同班のマルコは荒い呼吸を繰り返すルネッタを心配そうに見つめながら他の班員──サシャ、コニー、ダズに目をやった。
足を引っ張らぬよう動いているのが逆に裏目に出ているのは皆、口に出さずとも分かっている。
「今回の訓練には補給場所が設けられていたはず。ひとまずガスとブレードの補給を優先するのはどうかな?この班ならそれからでも十分巻き返せると思うのだけど」
「僕はルネッタに賛成だ。皆はどうだ?」
他の班がどういう状況に置かれているのか気にならないと言えば嘘になるが、今はそれが最善に違いないと三人は首肯した。
「ここから先どう動くかはルネッタの判断に委ねたい。君は各々の実力を見極めた上でフォローに回ってくれていただろ?」
突出しがちなコニーのフォローや足取りが重いダズに気を回し、班員の顔を伺いながら声をかける。
そうやって班をひとつにしようと誰より尽力していたのは他でもない、ルネッタだった。
マルコの言葉に丸く目を開いて、コニー達を見やれば彼らはそれにも異論はないと再度頷いてみせた。
* * *
補給作業を終え、集合場所に到着したルネッタ達を見知った顔が出迎える。
キース教官の怒号が森林に響き、サシャとコニーは堪らず肩を竦ませた。
最終訓練開始!という声と共に出現した巨大な模型にルネッタは班員に目配せをし、頷く。
機敏なコニーとサシャを組ませ斬撃に不安の残るダズにはマルコがつき、ルネッタが切り込みが浅いどちらかに加勢する。
チーム割れを起こしている他班を尻目に、ルネッタがリーダーを務める班は続々と模型の脚部と項を切りつけていく。
「くそっ、ブレードが!」
「悪いルネッタ、こっちもそろそろ限界だ」
「大丈夫、任せておいて!」
脚部に鋭い一撃を見舞ったルネッタはそのままアンカーを項部分に刺し、加速する。
月明かりに照らされたルネッタは一気に急降下すると勢いに任せてブレードを振り下ろした。
最後の模型が横たわるのを視認したキースの声が104期生達の鼓膜を震わせる。
「今回の最優秀班は──ローレン、貴様の班だ!」
「俺達の班が最優秀班……?」
「やった!やりましたよルネッタ!!」
感極まって抱きついてきたサシャの言葉にルネッタは力なくその場に膝をついた。
「ガスとブレード、どっちも切らした時はもう駄目かと思ったけど……ありがとうルネッタ。君にリーダーをお願いして良かった」
「あの状況から本当にここまで巻き返せるなんて、思ってもなかったぜ」
「私を信じて力を貸してくれた皆さんのお陰です。こちらこそありがとうございました!」
班員達に笑みを見せているルネッタは実感が湧かないのか、立ち上がった後も自身の掌を握っては開くを繰り返している。
そんなルネッタの手を掴みハイタッチをしてきたサシャにコニーも続き、更に盛り上がってきたルネッタ達をキースは静かに見つめていた。
今回のようにそこまで親睦が深くない人物と任務をこなさなければならない状況に陥った時、一番に問われるのは個々の技量以上に隊員同士の連携である。
ガスがなくなって立体機動も満足に使えないのに加え、ブレードも刃こぼれが生じている。
絶望的な状況に置かれながらも希望を捨てず、最後まで仲間を信じて各々の技量を見極め指示を続けたルネッタの統率力と洞察力には舌を巻いてしまう。
立体機動の訓練で悲惨な結果を残していた少女がまさかこのような才能を有していようとは。
「ルネッタあんたやるね。こっちはエレンとジャンがずっといがみ合ってて、見てられなかったよ」
「死に急ぎ野郎の尻拭いばっかしてりゃ、誰だって愚痴も吐きたくなるだろ」
「何だとジャン!リーダーがお前だと聞いて今回の訓練結果に納得がいった。お疲れルネッタ」
ルネッタ中心増えていく同期にキースは目を閉じる。
彼女のような稀有な力を持つ人間が居るなら、或いは……。
「……あそこに居る子が噂の統率力に長けてる子?」
鬼教官と呼ばれるキースを唸らせる新兵の話は調査兵団上層部の耳にも度々入ってきていた。
主席でほほ間違いないと言われる少女の一寸の隙も狂いもない動きに「新兵とは思えない身のこなしだね」なんて一人漏らしていると、先日名が上がっていた少女と思わしき横顔が映りこむ。
「あらゆる事態を想定し幾度か即席班での訓練を行っていますが、いずれもローレンが属している班が最優秀成績を収めています」
立体機動を操り、流れるような動作で模型の脚とうなじ部分を斬り付けたルネッタは空中で一回転した後、降り立った。
わあ!という歓声と共に訓練兵数人が駆け寄り、口々に彼女の技能を褒め称えているように見える。
「急に押し掛けてごめんねー。今年の新兵は凄いってモブリットから聞いて、いてもたってもいられなくなっちゃって」
「ははは。恐らくそうだろうと思っていました。──途中まで送ります、ハンジ分隊長」
部屋に戻ったハンジがモブリットに今年の新兵は予想以上に凄かったと漏らし「せめて仕事を片付けてから見に行って欲しいんですが!」と怒られている姿を想像した教官は小さく咳払いをした。
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極夜