等しく地獄


※ゲーム進撃2バレ有
※大幅な捏造・自己解釈が入っております


仲間と、彼らの声を乗せて馬車は小さくなっていく。
縋り付きたい衝動を胸の奥に沈め、ルネッタは振り下ろされた巨人の手を散り散りに斬り刻んだ。
獲物を見つけた巨人達の瞳は煌々としており、感傷に浸る暇など与えてくれる様子はないようだ。

「(あとはお願いね、エレン)」
己の手帳いしは彼──仲間に託せた。
悔いがないと言えば全くの嘘になるが、今回ばかりは……否。

「的確迅速に討伐出来れば、良いだけの話だよね」
どれだけ非現実的なことを口にしているんだろう、と嘲笑を浮かべた少女は欠けたブレードを空中で投げ捨て装填するとトリガーを引く。
項を削ぎ、両目に一閃浴びせ、四肢を切断する。
減る気配を見せない巨人の群れは幸いにも、こちらに意識が集中しているようで誰一人馬車を追おうとしていない。
危機的状況にも関わらず、胸を撫で下ろしている自分にまた笑みが深まった。

* * *

一体どれだけの時間、巨人と戯れていただろう。
宵闇の中で佇むルネッタは重く怠い体を引きずって近場の大樹に体を預ける。
最後の巨人から立ち上がっていた煙がようやっと消えたのを視認し、立体機動装置一式を手放した。
複数の巨人を一気に相手にするのは、後にも先にもこれきりにしてもらいたいものだ。
負傷箇所を覆える物は……この際マントで良いかとズタボロのマントに手を伸ばす。

「ベルトルトとライナーの言った通り、本当に一掃しちまうとはなあ……恐ろしい新兵だ」
辛うじて掴んだブレードは酷い刃こぼれが生じており、例え相手が人間であろうと武器としての本懐は果たせないだろう。
大量の出血によ狭まった視界の中で見た男の髪が闇夜を照らす月と同じ色な事にほんの少しの憎たらしさと懐かしさを感じながら、ルネッタはその場に倒れこんだ。
それを見届けたジークは少女の傍に腰を下ろし、首筋に手を宛てがう。

「さて、と」
憎たらしい翼が描かれた深緑のマントはこの場に置き去っていくにして、その他装備品はどうしたものかと逡巡したジークは片腕で少女を担ぎ上げると近くに待機していた四つん這いの巨人に顎で指示を出し、それらを乗せる。

「移動途中に目覚められて暴れられても困るし……仕方が無いな、こればっかりは」
手足を拘束したルネッタを担いだジークが背中に飛び乗ったのを確認した巨人は駆け出す。
地中に刺さったブレードにかかった、くたびれたマントがその衝撃でたなびいた。

* * *

瞼を開いて真っ先に考えたのは自分はまだこの世界で呼吸をしているのか、だった。
上体を起こすとどす黒い血に染まった布地が視界に映りこみ、それとほぼ同時にきつく縛られた手足に目がいく。

「……目が覚めたんだねルネッタ」
「良かったじゃねぇかベルトルト。こいつ、ずっとお前の事を心配してたんだぞ」
ベルトルトと呼ばれた青年の脇腹を肘で突く金髪の男性に何と答えたら良いだろうと鈍痛が走り続ける頭を振りながら考える。
そもそも私はどうして、見晴らしがやけにいいこの場所に居る?

「ルネッタには悪いがその縄は外してやれない」
「私と、貴方たちは知り合いなんですか?」
一気に強ばった表情は即ちそういうことなんだろう。
今まで私は何処で、どのようにして生きてきた?────分からない。本当に、何も、全く。

「ええと……自分の名前は分かるかい?」
「分かりません。先程貴方たちが呼んでいたルネッタ、というのが私の名前なのですか?」
頭に巻かれた包帯から未だ滲み続ける鮮血と、後頭部にある大きな瘤。
どう受け答えすべきか悩んでいるのはルネッタだけでなく、ベルトルトとライナーも顔を見合わせ絶句していた。

「その二人が生き倒れていたルネッタちゃんを助けてくれたんだよ。頭を強くぶつけた事で一時的に記憶を失っているのかもしれないね」
「戦士長……」
戦士長なる眼鏡の男性の登場に、一気に背が粟立つのを感じた。
ガタガタの体に力を入れて本能的に距離を取ろうとするも、彼らの話からするに数日眠り続けていたルネッタの体が脳からの伝達に従えるわけもなかった。

「……助けて下さりありがとうございました。厚かましい願いとは百も承知ですが、皆さんと同行させていただいても良いでしょうか?足手まといにならないよう尽力しますので」
戦士長はかねがね好意的な返事をくれたが目の前の二人はそうではないようだ。
わななく唇からやっと金髪の少年が彼女の名前を紡ぐ。

「ルネッタお前は──」
「それじゃあ早速作戦会議といこう。辛かったら、いつでも横になっていいからね」
作戦会議中も注がれる視線に居心地の悪さを感じながら、ルネッタはずり落ちた布を拾おうと……。

「その前に縄を外してもらえないでしょうか?指先の感覚がそろそろなくなってきてました……」
「何となく状況も把握出来たし、もういいよ」
やっと戻ってきた四肢の自由。
ずっと同じ体勢でいたのもあって、肩は凝りに凝っているし脚にもビリビリとした痛みが走っている。
作戦会議中ルネッタは終始渋い顔をしていた。

* * *

気が付けば自分の定位置といわんばかりに、ジャケット内にその手帳はあった。
ついぞ帰還が叶わなかったルネッタが使用していた手帳を取り出し、エレンは眼前に見えてきた故郷を見据える。
この地を奪還する。それが彼女と交わした約束だった。

大切そうにジャケットの中へ手帳をしまったエレンの前で鮮血が舞う。
自身に迫る凶刃をすんでのところで回避したエレンは全身の血液が一気に凍り付いたような感覚に陥った。
調査兵団に明確な殺意を向け一兵の命を奪ったのが"死んだルネッタ"なんて、非現実な悪夢が目の前に広がっている。

「私を助けてくれたベルトルトと、ライナーの為にここで死んで下さい」
喉から出かかっていたルネッタの名は、性急な吐息となって吐き出された。


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極夜