シドリング

回歴同好会に入ってまだ全然日が経っていないけれど何だか昔からずっと芽依と活動していた気がする。湯川は芽依と話すたびにそう思っていた。今日の授業は二人とも午前中に終わることがわかっていたので、昼から活動をする約束をしていた。集合場所はいつもの薬師寺邸2階のとても広いワンルーム。軽食をとった後、紅茶を飲みながら二人は何気ない雑談をしていた。
「この紅茶ってここでは嗜好品なので検閲物に含まれるますよね。でもここにあるってことは……?」
「他の世界線の私から貰ったんだよ。」
芽依は紅茶に角砂糖を3ついれてティースプーンでかき混ぜた。
「それって時空の歪みに作用しないんですか?」
「一応この世界にも存在するものだから問題はないと思ってるが……。グレーゾーンなんじゃないかな。」
少し笑って芽依は紅茶を一口飲んだ。ジャムクッキーも前に貰ってきたから一緒に食べよう、そういい彼女は戸棚へ向かった。
「そういえば、この家の3階はどうなってるんですか?」
「物置になってるよ。作った機械の残骸とかも置いてあるかな。一室空いてるから好きに使ってもらって構わないよ。」
芽依はテーブルに鮮やかな赤色の四角い缶を置き蓋を外した。
「あーこれプレーンクッキーだったかぁ。」
そういい芽依は一枚食べた。それに続いてひかるも一枚食べると目を輝かせながら
「おいしいです……!」
「ひかるは意外と表情豊かだねぇ。」
ニヤニヤしながらそう言うと芽依はもう一枚食べ、紅茶を飲み干した。
「紅茶お代わり欲しかったら遠慮せず言ってね。」
美味しい、美味しい、と夢中になって食べるひかるを見て彼女は苦笑いした。

「さて今回だが。」
芽依は黒い手袋をはめると入口付近に置かれていた銀指輪を持ってきた。特に何の装飾もないように見える。
「これが調査対象ですか?何かの部品のようにも見えますが。」
「君が来る前にあの異物の山をある程度整理したんだ。前は結構重いものだったから今回は軽いものにしようと思いこれを選んだんだ。」
ひかるは異物の山の方に目をやると確かに前よりは片付いたように見えた。
「じゃあ前の時みたいに手袋はめて世界線に行って返してこれば良いんですね。」
「流れとしてはそうだね。ただ、小さいから数字が読み取れるかが心配だな。別の機械使った方がいいかもな。」
ついておいで、芽依は手招きしてそのまま一階の一室に入った。

「うわぁ……。」
紙屑、何らかの部品、工具。物が散乱しきったその部屋は綺麗好きのひかるには耐え難いもにであった。ちゃんと掃除しているのかしら。
「この機械の上に置くと物の情報を細かくスキャンしてくれるんだ。そしてその情報はモバイルに転送される。もしかしたら肉眼では捉えられない何かも見えたりしてね。」
芽依は機械を持ってきてひかるに見せた。
その機械は一見、小型なオイルタンクのようだった。違いといえば、側面には番号が彫られているのと、蓋の裏側に大きなL字型の部品が一つ付けられていることだった。
芽依は銀指輪を箱の中に入れるとモバイルで何やら操作をし始めた。するとガガッという音がしたと思うと箱の中で何かが動く音が微かに聞こえた。多分あのL字型のやつが指輪をスキャンしているんだわ、ひかるはそう思いながらその銀の箱を見つめた。
ほんの数秒でスキャンは終わった。芽依は、この短時間で正確且つ鮮明に情報をスキャンできるのを軽く自慢した。
「これは芽依さんが開発されたものですか?」
「あぁ、そうだよ。すごいだろう? ほらデータが届いたよ。見てみようか。」
芽依のモバイルから青い光が放たれる。その光を壁に投射すると大きく指輪が表示された。
「これは360度で観察することもできるんだ。」
モバイルに表示されているであろうスキャンされたリングを指先でいじると、壁に投射されたリングも対応してぐるぐる回転した。
うーん、と唸りながら険しい顔で芽依は投影されたリングを見ては、またぐるぐる回転ささせるのを繰り返していた。

「あっ!」
ひかるは壁に近づき腕を組み何かぼそぼそ呟きながらリングを見つめた。
「何か気が付いたいたことでもあったのかい?」
私は目が悪いからよくわからんのだよ〜。眼鏡をふきながら芽依も壁に近づいた。
「ここに小さく+0‘って書いてありましたよ。」
ひかるはリングの内側の流線形の紋様のところを指差してそう言った。確かに+0’と書かれている。
「番号にダッシュが付いてるだなんて初めてだなぁ。にしてもこんな場所にわかりにくいところに書かれているのは気づけないな。もっとわかりやすくなるよう開発しないとなぁ……。まぁとりあえず出かける支度をしようか。」
芽依は二階へ上がって行きその様子をひかるは見届けた。

「ここで待っていればいいのかしら。」

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