平行世界について

翌日、互いの授業が終わったろ芽依の家で活動や、平行世界について説明会を行った。
「今日は活動はしないけれど、今後の活動に於いて大切なことを教えておくよ。」
「大切なこと…ですか……?」
「まず初めにこれを君に渡そう。」
そう言うと芽依はひかるにチェーンのついた金色のコンパクトのようなものを手渡した。中を開いてみると羅針盤のようになっていた。針が三つ、1から12までの数字が円状に並んでいる。面を裏返すとそこには22 4 27とデジタル文字で表示されていた。
「これは時計と言ってね、時間の流れを可視化するものなんだ。後ろの文字は日付と言ってね、年 月 日を表す。これについては私もよくわかっていないからそういうものか思っておいてほしい。」
「時間の流れを可視化する意義は何なんでしょうね。」
「うーん。生活にメリハリをつけるため…とかだろうか。この時間に起き、この時間まで働き、この時間に寝る。みたいにね。」
「はぁ……。これが昨日記録書に書いた数字の羅列だったんですね。」
「そう。発見時刻の情報も欲しいから見つけた時に時間を確認してほしい。」
芽依はひかるに時計の読み方をレクチャーした。要領のいいひかるはすぐに時計の読み方を学んだ。
「薬師寺さんが腕につけていらっしゃるのも時計ですか?」
「あぁそうだよ。」
芽依はひかるに自慢げに腕時計を見せ付けた。彼女の時計は黒いバンドに四角いモニターがついておりそこに時刻と日付が表示されていた。
「ひかるのも私のも自分で作ったんだ。」
誇らしげに芽依はひかるに時計を見せつけた。

「さて、次に平行世界に行くということは異物が紛れ込むのと同じようなことなんだ。だから平行世界では誰とも関わってはいけない。これは必ず守ってほしい。」
「わかりました。でも昨日平行世界の薬師寺さんと話してしまったんですけどそれは大丈夫なんでしょうか…?」
「薬師寺芽依以外の人とは関わってはいけない。彼女にとっては平行世界の私たちが訪ねてくるのが『日常』だから世界に歪みは起きない。」
「じゃあ薬師寺さんも別の世界の薬師寺さんと会った事があるんですか…?」
「勿論。まぁとにかくこれは必ず遵守してほしい。あと平行世界の物を元の世界に持ち帰ることもダメだ。写真や動画もダメだ。」
はい。少し不服そうにひかるは返事した。
「それと持ち物を落として帰ってくるのもだめだ。」
付け足すように芽依は言った。異物が紛れ込むことになるからだ。
「でも観光や施設などの利用は大丈夫だ。ただし人と話したり買ったりとか…人と関わるようなことをしなければね。」
「あっ!そうなんですね!」
じゃあ図書館に行って本を読んだり、変わったものを見たりとかはできるのね、ひかるは喜んだ。
「基本的にこの同好会の活動はこの世界に紛れ込んだ平行世界の異物や事件の解決を目的としているから、勝手に私用で平行世界に行く機会はないだろうけれどね。」
「残念です。」
「そんながっかりしなくてもいいと思うんだが。わざわざ暇つぶしに平行世界に行くようなことは殆ど無いと思うぞ。何故ならこの世界に異物はたくさん潜んでいるからね。」

二人はのんびりとお茶を飲みながら会話をしていると思い出したようにひかるは言った。
「もしもの話なんですけれど、薬師寺さんが存在しない世界線も場合によってはあるんじゃないんですか?この活動は主にその平行世界を生きている薬師寺さんに聞き取り調査を行って進めていくものだから、そうなった場合お手上げじゃないですか…?」
「おっ!いい質問だね〜」
揶揄うような声色で芽依はそう言うと、
「実は協力者が数人いるんだ。だから仮にその私がいなかったとしても問題ない。完全に協力者がいない世界線に仮に行ってしまったとしたらそれはもうお手上げだから、物だったら適当な場所に置いてさっさと帰るよ。」
「場所だって、昨日はたまたま薬師寺さんの家にいたからいいものの、協力者を探し出すのも大変じゃないですか?」
「私と平行世界の私は生きている世界が違うだけでヒトゲノムは同じだ。協力者たちのヒトゲノムをそれぞれ解析して…あー話すと長くなってしまうな。要するにヒトゲノムの情報とGPS機能をリンクさせてどこにいるかわかるようにしてある。」
「それってものすごくすごいことじゃないですか……!?そんな技術初めて聞きました……!」
「まぁ私が作ったものだからね。誰にも話す必要がないから話してもないし、別にこの機能は平行世界に用がある人くらいしか需要がない代物だよ。」
確かに、誰かの場所を知りたかったら電話するなりそれこそGPSアプリに登録するなりすればいいだけだからこの世界には必要のない機能だわ。ひかるはなるほど、と言いお茶を一口飲んだ。芽依は伸びをするとはぁ、とため息をついた。
「まだ質問はあるかい?」
「どうやって異物を見つけてるんですか?”具体的“に方法を教えてください。」
「街を回歴するだろ、そしたら変なものが落ちてるだろ?それを拾う。以上。」
「納得がいきません。それだけでなんであんな積み上がるほど異物が発見できるんですか?」
ひかるは部屋にある異物たちの山を指差しそう言った。
「それに一応街には掃除ロボットが徘徊しているし、都市開発の段階で捨てられたりっていうケースもかなり多いと思うんですけれど。」
芽依はめんどくさそうに頭を掻いた。
「協力者がいる。都市のゴミ取集センターのお偉いさんと知り合いなんだ。そこで見慣れない変な物を送ってもらっている。」
「なるほど。」
「でも流石に事件を送るっていうことはできないからね。そこはネットベースで情報収集だね。不可解な殺人事件だとかなんだとかをピックアップして独自に調査をしていく。」
「納得しました。」
「はい、他に質問は?もうそろそろ私は用事があって出かけないといけないんだ。」
あっ、申し訳ないです…!ひかるはそう言うともう一つだけ質問をした。
「薬師寺さんにご家族はこの活動を了承しているんですか?かなり危険な活動だと私は思うのですが。」
「君の家族は回歴同好会に入ったことを話したか?」
「……いえ。」
「まぁ、そりゃそうだよな。普通に社会に役立つ勉強やら活動をして社会に歯車として機能して貰わないといけない世界だからな。こんななんの役にも立たない活動をしていることは誰にも話さない方がいいと思うぞ。」
ぶっきらぼうに薬師寺は言い捨てた。
「ということは薬師寺さんも話されてないんですね。」
「私には家族がいない。」
空気が凍りついた。しまった、聞いてはいけないことを聞いてしまった。ひかるは狼狽え、なんと話していいか分からなくなってしまった。
「でも、信頼できる大人や友達はいる。昔孤児院にいたんだ。例えばその施設長が都市のゴミ収集センターの人だよ。この家も施設長から譲り受けたものなんだ。」
穏やかな顔で芽依はそう言った。そんなあからさまに気まずい顔をしないでくれよと笑い飛ばすとひかるはすみません、と謝った。

「長々とお邪魔してすみませんでした。」
「いや、全然気にしないでくれ。また何か聞きたいことがあったらいつでも質問してくれ。また連絡するからその時に来てくれ。まぁ、大抵この家にいるからいつでも来てもらって構わないけれどね。」
「本当ですか…!ありがとうございます!」
ひかるはお辞儀をすると芽依は慌ててそんなお辞儀するようなことでもないと思うぞと声をかけた。
「あと……ひかるも思ってることだと思うから言うけれど、平行世界の私とこの私の呼び方困るだろう?私のことは下の名前で芽依って呼んでくれ。その方が私もどっちに話しかけているのかわかるからな。」
「あっ、そうですね!わかりました!これからよろしくお願いします、芽依さん。」
芽依は満足そうな顔をするとこちらこそよろしく。と言った。

ひかるを見送ったあと芽依は適当な飴をいくつかポケットに入れ、モバイルのアプリを起動し、淡々とした顔で-2と打ち込んだ。芽依の周りが次第に青い光に包まれていく。
「一応聞いておくか…。」
芽依は青い光に包まれ消滅した。

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