アンブロン


慌ただしい足音は彼らの生活音の中では騒音にもなりはせず、センサーの精度が落ちれば簡単に聞こえなくなるような些細な音だった
ロストライトという新しい職場に変わったアンブロンは以前よりも随分と減った仕事をこなしつつ自身を呼び止める声に顔を向けた

「ねぇアンブロン、次の星についたらここに行きましょうよ」
「なになに…今ここが熱いパフェ特集?」
「その下ね」

待ってくれ随分小さい文章なんだと彼女のサイズに合わせたデータパッド内に映された雑誌の一ページを眺めてはカラフルな写真を見ては顔を顰めるものの彼女は画面をさらに拡大してココだとアピールする

「明後日には着くみたいだからそれまでにホログラムの用意しててね、トランスフォーマーは来店不可って書いてたから」

それじゃあと声を張り上げる彼女にそんなに叫ばずとも聞こえていると苦笑しつつ手を上げてその背中を見送る、背後にいる元同僚兼現チーフに顔を向ければバイザー越しだというのにえらく物言いだけな顔だった

「なんだファーストエイド」
「いいえ、仲がいいことで」
「そんなことは…」

ないとは言いきれないと彼は言葉を飲み込んでその思いを隠すように忙しくもない仕事に精を出す、ホログラムだなんて使ったことは無いと考えながら片した注射の針が指先にあたり思わず「いたっ」と声を出すも誰もその声を受け取らなかった

「ね?きっと好きだと思ったの、凄いでしょう?」

得意げに笑う彼女と自身の間に置かれた山のようなそれは彼女の顔を隠すものだから憎らしく感じられるも直ぐにその横から顔を出して彼女は話をする、雑誌を見た時にきっとこれアンブロン喜ぶと思ったんだよ、私も気になってたのと一人で話を続ける彼女に内心自分の事を考えている時間がある事に喜びを感じてしまう
慣れないホログラムは上手くいっているのかどうか思いつつガラスに反射する姿を見るが同じテーブルに腰かける彼女との姿はあまり違和感は感じられず、そんなことを気にしない彼女は細長いパフェスプーンでメッサテインを彷彿とさせる雪山のようなアイスクリームを掬った

「殆どアンブロンに食べてもらっちゃった」
「君には明らかに多すぎただろ」
「でも食べたかったの」
「過食はあまり進めない、君の場合の食事量は…」
「アンブロンとね、食べたかったの、甘いもの好きでしょ?普段あんまり食べられないだろうし、沢山食べてるあなたが見たかったの」

それとも甘い物でもパフェは得意じゃなかった?なんて小首を傾げて問いかける彼女に開いた口が閉じずに少しばかりホログラムが揺れる、あぁ今はダメだ元に戻ろうとすると店が壊れるんだと平静を装う

「別に、君からの誘いならどんな所だって喜んでいくさ」

なんなら君の顔が見えなくなるこんなものよりも、ゆっくり飲料でも片手に話せる方がいいと思っていれば彼女はその白い肌の色を僅かに赤く染めて嬉しそうに微笑んだ
あぁでも別にパフェが嫌いでもないから、また雑誌を片手に自分のことを想って欲しいと思いながら甘ったるいホットチョコレートに口付けては浮かんだハートの塊という名のマシュマロを見つめる

「私も、アンブロンからのお誘いならいつでもどこでも」

それは安易に明日も滞在するこの星で誘ってもいいのかと聞けぬままその甘い液体を嚥下した、ガラスに反射したホログラムはまた大きく揺れていた。

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