デッカード


毎朝八時頃デッカードは友永家から勇太を乗せて学校に送ってやる、そんな彼がふとその人に気付いたのはたまたまであったのかもしれないが勇太との出会いを運命という言葉にするのなら彼女との出会いもまた運命と言えるだろう
友永家から一番近い交番にてその人は毎朝冷たい水を使いながらも丁寧に車を洗ってやっていた

「さぁ綺麗になった…今日もよろしくねバディ」

丁度デッカードが通り過ぎる時間頃に彼女の洗車は終わり間近で嬉しそうに磨かれたその警察車両を撫でて微笑みを浮かべるのだ、その横顔の美しさに気を取られていれば危うく警察官でありながらも赤信号での横断をしそうになり慌てて勇太に止められた
そんなことを続けていれば当然彼の思考など相棒の勇太には筒抜けであったがそんなことを知らぬデッカードは毎日ふとした時に彼女のことを考えた

「というわけでさ、一般の交番勤務もしてみるのは皆にとっても大事な事だと思うんだよね」

ある日そういったボスにデッカードは目を丸くした、週代わりで一人ずつ体験して普段とは違うことを学んでいくというのは長官からの提案でもあった、実際はデッカードの恋路を応援したいという勇太が長官や藤堂主任たちに相談をしてその婦警について調べてのことであった

「このパトカーを暫くメンテナンスに?」
「そうです、その代わりに申し訳ないですが私が…」
「そんな…ってごめんなさい、あなたの事がイヤってわけではなくて、毎日乗ってるものを変えるのってあまり得意でなくて、あなた…えぇとデッカードさんもそうですよね?」

そう問われてしまうと確かに勇太だけを乗せていた日々の中で変わるのは違和感があるものの少なからず気になっていた相手と縮まる距離に喜びを感じていた彼はまぁ…と返事をした
だがしかし性格としては二人の相性は良く、上手くパートナーとして一週間を乗り越え、最終日にデッカードは彼女のパートナーを連れてやった、名残惜しいとは感じつつも仕方がないと思っていれば彼女は車の姿になったデッカードに駆け寄った

「この一週間本当にありがとう、最初はこの子がいないだなんて考えられなかったけど今はデッカードが居なくなるのも寂しくなっちゃったな」
「…わ、私も本当は君と離れるのが少し恋しいんだ」
「それは、私と同じ気持ちってこと?」

気付けば敬語を抜いて互いの名前を気軽に呼び合うようになれたことに喜んでいたというのに彼女はもっと関係を深めてもいいかもしれないとアピールするのだ、デッカードは慌てて変形して膝をつき彼女を見下ろした

「君の気持ちはその、分からないが私は君が好きだ」

思ったよりも上手くいってよかったと勇太は笑みを浮かべ足を止めたデッカードにシートベルトを外して今日はここまででいいよ。といって降りてしまうどうせ学校までここから徒歩数分なのだから問題は無いというのにおいて行かないでという彼の気持ちは無視した、デッカードはそんな背中を見届けて深呼吸をして交番に近付いた

「おはようデッカード」
「おはよう、今日も精が出るな」
「この子のお世話が一番大事だからね」

帰ってきた愛車をいつも通り磨き上げた彼女は嬉しそうに微笑むものだからデッカードは堪らず呟いてしまう

「彼にほんの少し嫉妬してしまうな」
「彼って?…あぁ、あっ、ふふっそう、そうね"彼"に?」

恋人という関係になったからといって勤務地が変わるわけでもパートナーが変わる訳でもないのだから彼女が毎日懸命に愛情を注ぐのは愛車の方が上なのだ、それに対してデッカードは素直に想いを述べたのに彼女は楽しそうに笑うものだからそんなに面白いことを言ったつもりは無いと彼は困惑した表情を浮かべる

「私はこの子のこと"彼女"だと思ってたから…ふふ、そう"彼"だったんだ、なんていってた?」
「…洗車して貰えて嬉しいと」

そりゃあよかったと彼女は愛車を撫でたあとデッカードに近付いて顔を寄せて嬉しそうに笑みを浮かべて提案する

「彼氏のことも洗ってあげたいなと思うんですが如何でしょうか?」

その言葉にデッカードは思わず時計を見る、パトロールしていく…という言い訳くらいは効くだろうと普段の勤務態度を思い返し彼女に静かに嬉しそうに返事をした、恋人の相棒は"どう?いいでしょう"と言いたげな視線を寄越すものだからあぁ毎日これを味わうだなんて羨ましいヒトだなとデッカードは思いながらも自分の機体に這わされる手の温もりを味わうのだった。

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