『他人のことを信じないくせに裏切られることが怖いだなんて』


「自分なら裏切られないと思った?」

そう静かに告げる女に俺はただ冷静に「さぁな」と曖昧な返事をした、内心裏切りだとかそんなものだとは思っちゃいないからかもしれないがこの感情に名前をつけるなら寂しさと悔しさだろう。

ある日連れてこられたその女の監視担当になれとメガトロンに命じられた時どうして自分ほど完璧な存在がそんな事をしなければならないんだと思った
他に暇な連中はごまんと居るのにと普段通りの抗議をしてみればそんなに嫌なら別の者に任せると言われるものだから呆気を取られた、それが逆に気持ち悪くて自分に任された仕事くらいしてやりますよと告げてしまったがそれも全部手のひらの上で転がされていたのだろう、本当いけ好かない奴だ

「優秀な元科学者って聞いたけど本当?」
「誰から聞いた」
「あなたの兄弟の人、そりゃあもう自分のことみたいに鼻高々といってた」

女の監視担当とはいえ二十四時間というわけではない、女は従順でいつだって与えられた部屋の中でメガトロンに言われた仕事をこなしてはデストロンに貢献した、脅されてるのかと初めは感じていたが女は率先して危険な兵器作りをするし他の仲間にアドバイスを貰ったり手を借りたりとなかなかに社交性があったらしくこんな所に溶け込んでいた

「四百万年以上前だがな、誰も俺を理解してやがらなかった」
「天才と孤独は付き物ってことね」
「俺をおだてても何もないぜ」
「あら残念、人生で初めて戦闘機に乗れるかと思ったのに」

顎先に指を置いて残念がる女の言葉に少し間を開けてから「ひと仕事終えて俺様の気が乗れば考えてやるよ」と笑っていえば女は子供みたいに笑って服の袖を捲って作業を続けた
そんな程度で喜ぶなんて馬鹿らしい、そもそも空を知らないだなんて不思議だと思えた、トランスフォーマーにとって飛行タイプのビークルがなくても空を飛ぶことは出来る、しかし人間はその身一つでは何も出来ない、学び、進化し、そしてようやく宇宙に飛び立ったことを諸手を挙げて喜ぶのだから幼稚な生き物だと感じた

「凄く綺麗、それに早いし、スタースクリームって飛ぶのももしかして上手いの?」
「じゃなきゃ航空参謀なんてならねぇよ」
「なんでも出来るんだ、流石メガトロン様が認めたヒト」

その言葉に気分は多少良くなって行きたいところはあるかと聞けば宇宙に行きたいと言った、それは時間が無いからもう少し近場で遠くを飛んでやった
そうしてこの女の甘い言葉を気に入って俺は時折仕事をした褒美に連れ出してやった、別に他の連中も知っていたが監視のためだと言えば納得したし誰も文句は言わなかった、メガトロン様以外は

「あの女に入れ込むのはやめておくがいい」
「別に入れ込んじゃいませんよ」
「それならいい、あの女は生粋のこちら側の存在だ」

作戦会議を終えた二人きりの部屋でそう言われた時何故そんな忠告を今更するんだと感じた、あの女は仕事ができるから、あの女は優秀だから、あの女はこの軍のために尽くしているから、だから俺は褒美をやるだけだった、それがトップに座れる男としての寛大さだろう
決して二人きりが心地いいなんてそんなことは思わない、間抜けに笑った顔もその中に少しだけ寂しさが混じってることも全部が全部どうでもよかった

「気に入ったかよ、この景色」
「うん、ここであなたの親友は寝てたのね」

ある日女は北極に行きたいと言った、ジェットファイアの話を聞いたからであり俺の元友人というのが興味を引いたの言うその言葉に本来は苛立ちを感じても良いはずだが何故かこの女にはそれを感じられなかった
吹雪の中コックピットに座って外を眺める女が今出てしまえばあの時のアイツのように消えてしまうのだと感じられた、窓ガラスから外を眺めては寂しそうな目をするこいつにどうしてそんな顔してやがると問いかけたかったが何も言えず俺は静かに自分に積もる雪を感じた

「ここでキスをしたらどうなるかな」
「キスする相手を連れて来る気か?」
「今ここにいるよ」

甘い女の言葉にスパークがドクリと揺れ動いた、意味がわからずブレインの中が酷い音を立てているのを感じる中で女は俺を撫でる
こんな極寒の中でキスをしてみろ、お前の唇が離れなくなっちまうぜ。と笑ってやろうとしたが女は静かにハンドルに唇を落とした

「嫌?」

寂しそうな悲しそうな女の声に拒絶すれば消えてしまいそうだと感じて「何も感じねぇよ」といえば小さく笑って女はハンドルにキスを落とした
寒い吹雪は俺たち二人だけの世界を作るようでどことなく心地よく受け入れた
分からなかった訳では無い、男と女が二人で過ごして中身を過ごせばその感情に変化が訪れることは種族など関係ないことを
あの日以来俺たちは人目のない場所に行っては静かに口付けを交わす関係になった、愛の言葉なんざ要らない、これは寂しさを隠すようななにかの穴埋めのように感じられたからだ

「もう直ぐ頼まれてたモノが完成したらそれを試しに行きたいの」
「メガトロン様の許可がいるだろ」
「貰ってるよ、スタースクリームとあと何人か連れていくなら大丈夫って」

それなら作戦を練るかと思えば女は何名か名前にあげて彼らを連れていこうと言った、そのメンバーは特段こいつと仲のいい連中で指示に従うなら誰でもいい、というよりも襲撃やエネルギー強奪でないのならばそんなに人数も要らないだろうと言えば女は「みんなに見てほしいの」と笑った
女の作った兵器は一つだけでは無い、破壊からエネルギーの創造までいくつも作っていた、燃え盛る建物と逃げ惑う人間たちを女は表情を変えずに見つめてはまたスイッチを押しては建物は大きく崩れた
エネルギーが豊富な街中の発電所と市街地を襲う女は俺たちよりもずっと冷静で冷酷に感じられた

「一般人も巻き込むなんざお前もなかなか酷い人間だな」
「私の事裏切った奴らが悪いの」

呟いた言葉にどういう意味なのかと感じていれば目の前の家が燃えた、人間の悲鳴が聞こえて逃げ出そうとするがそれは消化器など意味ないほどに強い消えぬ炎であり青く燃えていた、ゆっくりと消えていく悲鳴に女は腹を抱えて笑った

「私一途な女なの」

そういって左手をこちらに見せてきた女の薬指には見慣れない銀色のリングが付けられていた、この作戦は日付も時間も襲撃場所も決められていた、メンバーも完璧でまるで練られた作戦だった
そのメンバー全員がこの女にそれなりに入れ込んでいることを俺は知っている、甘いこの女の言葉と寂しそうな表情に俺たちは惑わされていた

「私を裏切ったらどうなるかあの人に教えてやったの」

スタースクリームは裏切ったら罰を受けることを理解してるよね?と問いかける女に俺は何も言わなかった、崩れる建物の音を聞きながら視線を発電所方面に向ければサイバトロン軍が来ているようで戦闘をする音が聞こえる、まるで一つだけ関係なく襲われたこの家の事など誰も気にしてはいない、火は次第にほかの家に移り俺たちの足元を人間が逃げ惑う

「俺にキスした理由は上手く使うためか」

思わず問いかけた言葉に女は目を丸くしては少し悩んだ後に「キスは嫌い?」と聞いた、ようやく苛立ちを感じて女を引っ掴んで俺の目線に合わせて俺たちを操りたかったのかと問いかけた
あれだけ二人の時間を過ごして夢を見せたお前がしたかったことはこんなくだらない事なのかと思えば女は身動ぎして腕を伸ばし俺の頬に触れてゆっくりと顔を寄せた

「自分なら裏切られないと思った?本当あなたって噂に聞く愚かな人ね」

一途な女だって言ったじゃん。と呟いた女は泣いていた
泣きたいのは俺の方だと思ったのは何故なのだろうか、腕の中で子供のように泣く女は最愛の男に裏切られたのだという、だからほんの少しの復讐をするつもりが湧き上がる怒りが抑えきれず全てを荼毘に付してやりたかったのだと告げた

「あなたには分からないと思う、裏切られる者の気持ちなんて、こんな世界への憎しみと愛おしさなんて」

ずっと俺を見つめていたあの瞳から雫がポロポロとこぼれて俺の手を汚した、女の左手の指輪は炎に照らされて光る度にそれは女の心を表すようであり俺は静かに眺めた

「私のことならいくらでもあげる、愛してあげる…だからこんな世界無茶苦茶にしてほしい」

そういった女の目は紅く燃えていた、デストロン軍らしいその憎しみに燃えた女の心に俺は笑みを浮かべた、お前が裏切らない限り俺はお前を裏切らないと告げて、こんな世界全て二人で燃やし尽くしてやろうと約束事をして発電所に向かう近道だからと目の前の女がかつて愛していた男と暮らしていた場所を踏み潰して通って、俺たちはその日からずっと共犯者であり心からの仲間になった
例えこの女がいつまでもその左手の薬指の呪いを外せないとしても、俺たちのスパークだけは一緒だと俺は自分に言い聞かせて。