『これも夢、あれは夢、そう言い聞かせて大人になった』

大体いい女には男がいるってのはどの種族も共通だ、彼女も当然その一人、いつか終わりの来る関係だとしても今のこの形が心地よいと思う私も案外酷い男だなと苦笑しながら彼女を撫でれば優しく甘い声が飛び込んだ

「トレイレブレイカーってほんとーに優しいからだぁいすき」

男が優しいのは無責任だからだ。とこの無垢な女に教えてやりたかったがそれでも彼女はその左手の薬指を光らせるものだから思わず言い淀んで返事の代わりにキスを落とせば嬉しそうに笑みを浮かべる
私は彼女を愛している、例えこの子が他の男を愛していても。

「ねぇ聞いてあの人ったら酷いの」

基地の中でそう泣きながらやってきた彼女は私を見つけては開口一番に小鳥のような声を上げて言っていた、周りの仲間達はまたトレイルブレイカーに泣きついてら。と笑うものだがこの特権が自分だけにあると知って喜ぶ私の心境なんざ誰にも知られてはいなかった。

ある日のパトロールでみつけたかわいいお嬢さん、それが彼女だった、デストロンの奴らの襲撃の際に車をペシャンコにされて帰れないと泣く彼女はそういえば出会った頃からよく泣いている子だった

「お嬢さんよかったら私が送ってあげようか」
「え?サイバトロン?凄い本物だ!かっこいい」

泣いていたのに私を見ては一変して目をキラキラとさせるものだからまるで昔故郷のセイバートロン星でみつけた珍しい鉱石のように感じられた、別に特別なにかできる訳でもない私に対してそれはもうヒーローを見るみたいに無邪気に接するのだからくすぐったくて自分がバイザーだけでも付けていて良かったと安心する程照れくさくなった

「トレイルブレイカー」

彼女は私を見つけたらまるで子犬のように駆け寄って足に抱きついてくれた、仲間たちにからかわれてもあっかんべーと舌を出してそれでも甘えてくるんだからそりゃあもうこちらの自己肯定感って奴が下がることはなくどうしようも無く落ち込む時期なんてのも減った
元から私にはフォースバリアしかない、仲間達もそれを知っているから戦略家としてではなくそちらの能力に頼り切られる時も多かった、それが嫌な訳では無いが時折虚しさに襲われてしまうのだ
けれど彼女は違う、私を私としてみてヒーローのように扱ってくれるもんだからつい猫可愛がりしてしまう

「あの人ったら今日もね」

頬を膨らませ毎日彼女は【あの人】についての話をした、あの人ってのは彼女のパートナーらしく若い彼女は同い年の男と結婚しては苦労している様子で毎日愚痴を吐いた、他の男の話は何処となく気に入らないように感じながらもそうした話をするのは私だけだから受け入れられた
ちょっとした些細な痴話喧嘩ばかりで思わず冗談を返した

「そんな男なら私はどうだい」

そういえば眉間に皺を寄せていた彼女の表情が変わって目を丸くしたかと思えば声を出して笑った、ああそうだ笑ってる方が似合う、それにしても酷い男だと一方的にしか話を聞いていないからか思ってしまって、こんなにかわいくて優しいお嬢さんを困らせるそいつに苦言を呈したいと思いながらも彼女が自分の車内の中で安心しきって身を任せてくれるならばこの関係でも良いと思えたのだ

「あの人がね、浮気してたの」

私よりも年上でずっとセクシーな女の人だった、胸もおしりも大きくて濃いリップが似合う女の人、やっぱり私なんて魅力がないんだと大泣きする彼女の取り乱し方は初めて見るものだ
どうして人はこんなにも純粋に愛してくれる人がいるのに他のやつを作るんだかと呆れを通り越して苛立ちを感じた、可哀想なお嬢さんはその大きな瞳からダイヤモンドのような涙を零した

「私なら君を泣かせない、君のパートナーは全く酷い奴だ」
「トレイルブレイカー…」
「悪いね、君が泣いている姿だけは耐えられそうにない」
「…優しい人、私だって先に出会ってたらトレイルブレイカーと結婚したかった」

あなたがいいの。と首に腕を回して抱き締めくれる彼女にああ私は酷くずるい男だと自覚していたが惚れた腫れたってのはそういうものだろう?
そうして人とトランスフォーマーという関係からさらに深い男と女に変わった私達…いや、私は彼女の為ならなんだってしてやれた
会いに来て欲しいと言えばエンジンを唸らせて、あそこに行きたいといえば地球の裏でも走ってやった、フォースバリアで何処まで弾けるのなんていわれたら君以外の全てと
我ながら臭い男だと思うが恋とは盲目だ

「トレイルブレイカーのフォースバリアの中にいると凄く安心する」

そういわれたとき私の中の全てが浄化された気分になった、欲しい言葉をくれるヒトを求めるのは宇宙のどんな種族だってそうだろう
そんなことを言ってくれたのは君が初めてで年甲斐もなく照れたら彼女はかわいいといって私にキスをする、例えその指に大嫌いな金属のリングがはめられていたいたとしても見て見ぬふりすることが出来たのだ
大人というのは、男というのは本当に酷いやつだから仕方ない、欲しい言葉を与え合う自分たちは正しく傷の舐め合いをして、次第にその関係が深くなれば手を繋ぐなんてとっくの昔の話になる

「トレイルブレイカー迎えに来て」

ある夜彼女は暗い声で連絡を掛けてきた、二十一時のその日はあの男と約束があると仕方なく送り出したのに迎えに来いと言うことはトラブルなのかと察して駆けつけた先の彼女は綺麗な衣類を汚して座り込んでいた
こんな時間に女の子が一人、私のかわいいお嬢さんを下世話な目で見る男共をシッシッと手で払いのけて「お嬢さん」と声をかければ彼女は潤んだ瞳で私を見つめて飛び付いては泣くものだから慌てて彼女を車内に招いて走り出した

「浮気女と結婚するから離婚しようって」

それで怒って店内で掴み合いの喧嘩になったという彼女になんと声をかけていいのか分からなかった、何故なら私は嬉しかったんだ
だってそうだろ?別れてしまえば私だけのものになると、その時は一瞬そう考えた「別れちまえばいい」なんて無責任な言葉さえ出てきそうになったが慌てて発生回路にフォースバリアを展開したように言葉を飲み込んで聴音センサーを調節して言葉を待っていた

「私そんなに魅力がない?料理も洗濯も頑張ってきたつもりだよ」

メイクだって髪型だって毎日努力をしてあの人に好かれようとしてきた。と泣いて喚く彼女が酷く哀れで、それと同時に自分も酷く哀れに思えた
私達は誰にも愛されちゃいないのだ、私達は互いを愛し合ってると誤認して傷を舐め合って、愛し合い、【しあわせごっこ】をしているにすぎない、そうブレインの中で冷静に考えてしまうのはきっと長い戦争の末に現実しか見れなくなったからだろう

「トレイルブレイカー、私のことを褒めて」
「君はとっても素敵な女性さ、そんな浮気女なんてどうせ一緒になっても何も出来なくて終わるのが落ちさ」
「もっと…もっと…」

君以上に可愛い一途な女の子はいない、年若くで結婚して必死に相手のために努力をして、身嗜みも生活も全部整えて喧嘩してもそれで好きだという君は魅力的で君を手にしたあいつが憎いほど羨ましい、私にしてくれたらこんなに苦しませることなんてない、喧嘩だってしてやるものかフォースバリアの如く受け止めて尻に敷かれてやる、それくらい私は君のことが…

「この宇宙一きみはいい女だ、なんせこの私が惚れてるんだから」

考えた言葉は何一つ出てこずに、冗談めいた言葉を呟けば静かな車内で彼女の子供みたいな元気な笑い声が響いた「トレイルブレイカーに惚れられてるなら別れてもいいかも」なんて思ってもないことを口にする、なんて酷い女だろう
けれど本当にいい女なのは事実で彼女は笑顔を絶やさない太陽のような人だった

「ちゃんと話し合って、その上でやっぱりお前がいいって、もう次あったら二度と許さないからって約束したの」

いつからか彼女は私に乗らなくなった、キスすることも手を触れることも無くなったが彼女は私に嬉しそうに報告をする
浮気女との決着の付け方も、夫の土下座についても、誓約書を書かせたことも、そこに私との思い出話は何も無く私達は何も無い元の友人関係のように戻っていた
静かに話を聞いては「そりゃあよかった」と陽気に返事をして嬉しそうに笑う彼女は左手の薬指を眺めては頬を緩ませる

「やっぱり私あの人が好きみたいなの」
「ははっ、夫婦の絆が強まったな」
「全部トレイルブレイカーのおかげだよ」

その言葉に驚けば話を聞いてくれたから。という
本当はそんな程度で済まないだろ、キスをして手を繋いで身体を暴いてその肌に口付けて私達は愛し合ったんだと思いながらも彼女はそんなことは無かったように振る舞う。
知っていた、太陽に対してはいくらフォースバリアがあったとしても無意味なのだと、いい女にはいい男がいる、どうしようも無いやつだとしても女の心を奪うほどの何か魅力があるのだ

「いやいいんだ、お嬢さんが元気なら」

今度同じことがあれば攫ってやる。なんて出来もしない脅し文句をスパークの内側で呟いた、なんせ私は臆病だからな、今すぐ君を攫えもしないしキスのひとつを思い出してと言えもしない。