「グレンって私のお父さんによく似てる」
褒め言葉では無いだろう。そういった女に俺は手元から視線を外してテーブルの上で人間用の椅子に座るその女を見た、相変わらず綺麗なヤツだと感じた。
強い女だった、優秀な科学者であるからと拉致された女はメガトロン様に従順で、初めこそ恐怖から来るものかと思っていればそんなことは無かった、俺達でもそこまで言えやしないと思う程その女は違うと思えばメガトロン様だろうがスタースクリームだろうが関係なく意見する女であったからだ
「頼まれていた荷物だ、置いておくぞ」
「ありがとう…次いでに少し手伝ってくれない?」
「俺も仕事がある」
そういってこれ以上の雑用は御免だと去ろうとしたが女は「貴方も結構好きそうな仕事だから」と笑って言われた、まだこの基地に来て浅い女に一体何がわかるんだかと思いつつも彼女が用意してきた設計図を見ては思わず口腔オイルを飲み込んだ、面白いものを作っていると感じたからだ
中身のあれそれはどうであれ俺のセンスと彼女のセンスは一致した、それ故に手伝ってやれば人間一人では数日と掛る作業が数時間で終わった
「ありがとうグレン、あなたのお陰だわ」
そういって笑うこの女に俺の名前を知っていたのかと言えば勿論だと笑われる、俺達はお前の名前さえ知らないし同じビルドロンのメンバーも下手すればお前のことなんて覚えてないやつだっているんだぞ。と思いつつ曖昧に「あぁ」と素っ気ない返事をした
「彼奴の仕事を手伝ってやったそうだな」
数日後メガトロン様に他の任務の報告をしにいけば突如その事を言われ少しだけの事です。と本当のことを告げればあの女が作ったものがメガトロン様には随分評価されているようで出来る限り頼み事をされれば聞いてやって欲しい。と頼まれてしまった
何せ元から仕事が多い、ビルドロン部隊の副官でありながら大抵の任務報告に始末書提出にこの地球にいるデストロン軍団のリペア班の筆頭だというのにさらに俺には仕事が増えるのかと思わず内心悪態をついてしまう
「と思ったからあなたへの報酬は多めにって進言しといたよ」
「…よくそんなこと言えるな」
「だって仕事をしているんだから評価されるのは当然でしょ、メガトロンも納得してたから大丈夫」
そういって笑うこの女の強さばかりを目の当たりにして俺は次第にスパークを惹き寄せられた。
リペア患者が多い時には率先して手伝ったり、ビルドロン全体で次の作戦について悩んでいたら助言をしたり、俺が仕事に手を拱いていたら自分に出来るものを持っていったり、兎に角あの女は優秀で時間を重ねる毎にデストロン全体であの女を仲間として自然と受け入れるようになっていた
あのスタースクリームでさえ真っ向から自分を叱りつけてくれる女に腹正しさがあるだろうに素直に受け止めたのだから相当なものだろう。
「俺は父親じゃない」
突然彼女に言われた父親発言に何事かと思い冷静に返事を返せばくすくすと笑って「そりゃあそうだよ」と言われてしまう、言葉の本質がよく分からないことを言うのは別によくある事でそれに対して何かを思うことは特別なかった
「でもそれくらいグレンには安心感があって一緒にいて心地いいって思うの」
作業を終えた俺の手に寄ってきた女は頬を擦り寄せて微笑んだ、二人だけの作業ルームであることを知っていた俺は静かに顔を寄せれば彼女の唇が重なる、そうして気付けば俺たちは互いを愛し合っていたのだ
人間とトランスフォーマーがおかしいと思いながらも女は気にする事はなく俺に全てを委ねて求めた、態々拡大縮小機まで利用して俺たちはセックスという名の接続をするほどのめり込んだ
柔らかくて細い身体を金属の俺の手が這い回る度にまるで夢のように感じたのはあまりにもその身体とこの手が見合わなかったからだ
「グレン…気持ちいいね…」
素直にそういう女に俺は何も言えずに口付けを交わせばバイザーに反射する女の目に心地よくなる、俺だけを映す瞬間が何処までも俺を喜ばせる
細い足を掴んでコネクタを沈めて望まれた事を望まれた通りにこなす姿は事務的なのかもしれないが女はそれでも「グレン」「グレン」と名前を呼んだ、俺はビルドロンの中の一人ではなく個人として認識し愛してくれるこの女に惚れていた
俺を見てくれるのだと感じたからだ、都合がいいビルドロンの一人ではなく、サイバトロニアンのグレンとして見てくれるのかときっと内心嬉しかったのかもしれない
「昔父親に愛されなかった子はその反動で年上の男を好きになるんだって」
いつぞやの父親の話を掘り返すように言った彼女の言葉の真意は分からなかったが女の首筋には薄暗い痣ができていた、珍しく首元まで隠れる服を着ていたのに見えるそれを指摘すれば女は「なんでもない」といって隠した
深入りするつもりはなかったがあいつが基地を出て家に帰ってはここに戻ってくる度に傷は増えた、そしてある日頭に包帯を巻いて帰ってきたその女にメガトロン様が「あの人間に手を焼くのならばワシが直々に処分をしてやるそ」といった
二人きりの作戦室でそう話す内容に耳を貸すつもりはなかったが思わず立ち止まって聞いてしまった、手の中に抱くデータパッドを持つ手が震えていた
「いいんです、私彼のことを愛しているから」
「ふむ、人間のパートナーについては口を出すつもりは無いが身の危険を感じたら直ぐに言うのだぞ」
俺以外に男がいたのかと知ったのはその時だ、人間のパートナーシップについて知るわけが無いのだから当然だ
二人の間を割くように入室して作戦報告をしたあと女を連れて俺達が過ごす部屋に足早に連れ去って俺たちが愛し合っていたはずのソファに力加減をして投げ付けてやった
「パートナーがいたのか」
「ええ」
「傷はそいつから受けてたのか」
「ええ」
「だから俺に抱かれてたのか」
ええ
「いいえ、貴方なら私に酷いことをしてくれると思ったから」
気狂いなのかこの女はと思っていたのに俺は冷静さを失ってこの女を片手で握りしめた、ギチギチと嫌な音が鳴り響くのに骨が折れるところまでは行かない、それは俺が冷静であり悲しみを抱いているからだ
あんなに愛を囁いて、あんなに互いを求め合って、あんなに互いを尊敬し敬いあっていたのにこの女の仕打ちは最低でしかないだろう、奥歯を噛み締めて手の中の女を肉にしてやりたかった
俺は嬉しかった、苦楽を共にして互いをリスペクトしチームとはまた違う友情のようなものが出来たことを、しかし女は違う
「グレンってあの人によく似てる」
バイザーを掛けた姿に必要なこと以外あまり話さない寡黙なタイプに手先が器用で静かに作業をするところに、優しくしたらあからさまに相手にのめり込むところ
「でもちょっと違った」
あなた思ったよりも優しいのね、あの人ったらこの間ガラス灰皿で私の頭殴ってきたのよ、もう凄くビックリしちゃった。なんて笑っていう頭のおかしな女に俺はどうしてやればいいのか分からなかった
ただ普通に愛してやりたかっただけなのに俺じゃあダメなのかと思った言葉は口に出ていた
「だってグレンは私のことを大切にしてくれるから」
父親からの愛情を得られなかった女は歪になり、年上の男と父親を重ねてその父性を強請ろうとするらしい。と女は口にしたそれはつまり俺もそうだと言いたいのかと見つめれば彼女は寂しそうな表情をみせたことがより一層俺を苛立たせた
こんなにも愛した俺の気持ちを踏みにじること女はやはりデストロンにいるだけの事はあると関心さえ感じた、それなら俺の取るべき行動はひとつだった
まるで解体現場のように壊れゆく一つの家をデバススターとして眺めた、瓦礫の山に変わる立派な家が襲われるのを見て人々は逃げ惑う、ふと瓦礫の下から見えた一本の腕にはあの女が付けていた指輪によく似たものがはめられていた
「どれだけ従順なフリをしようと裏切るのは人間もトランスフォーマーも変わらんものだな」
メガトロン様の言葉に報告を終えた俺は何も言わずにいた、あの女は今この軍の中で二度と外に出されないように鎖に繋がれ飼われていた、俺はその場を後にしようとするとメガトロン様は「以前から思っていたことだがグレン、お前は被虐癖があるらしいな」と呟いた、御冗談をと言いたかったが俺は何も言えずにその場を後にして廊下を歩いた
辿り着いた作業ルームのドアを開ければそこには女が一人静かに作業をしていた、その目は赤く腫れてこちらをみてはニコリと笑った
「やっぱり貴方ってお父さんみたい」
そういった彼女に俺は何も言えずにただ静かに掴みあげた、骨の音がミシミシと鳴く音だけが部屋に響いていつか彼女の望む形で俺が答えてやれた時、本当の愛を貰えるのかと馬鹿らしいことを考えてはこの女の指に光る銀色のリングに憎しみを抱くのだった。