一番に愛する人がいれば二番目に愛する人なんか出てこない、もし出てくるならそれは一番じゃなかったということだ。
テレビを見ていた仲間達の後ろを去る間際に聞こえたそのセリフにスパークをまるで握り潰されたみたいで、俺はぐっと拳を握った、痛みもなくてただ強く握ったそれはなんの意味もなさなかった
「本当にあなたって律儀な人ね」
そういった彼女に律儀じゃなくて約束を破りたくないだけだと言いつつ俺はドアを開けた、彼女の細い足が俺の車内に踏み込んでは手馴れたように助手席を座ってシートベルトをしてやる、柔らかい彼女の肉体が薄いシートベルト越しに伝わり俺の中は彼女の甘い香りに包まれる
「約束を破らない人って好きなの」
笑ってそういった彼女は現在夫と別居中だった。
セイバートロン人と人間の間におけるパートナーの違いはあまりない、大きく違うといえば人間には戸籍…というものがあって夫婦になるものはそれが統一される、それに人にもよるが指輪なんて互いに所有物であることを証明するモノも
「破る約束ならハナからしたらダメだ」
特に泣かせるなら尚のこと。
俺がいった言葉に彼女は苦笑いをして背もたれに深く背中を預ける
「本当に…そう思う、難しい約束なんてしてないんだから、ね」という彼女が夫と別居中であるが理由は相手側の不倫が原因だった
仕事一筋で生きてきたキャリアウーマンの彼女はあまり家にも帰られず忙しい日々だったがそれでも夫の為にと働いてきた、夫も働く彼女に恋をしてプロポーズをしたのだから理解していた筈だった
「愛されてるか分からなかった、寂しかった…って女々し過ぎない?」
「女々しいどころの話じゃないだろ、ほらそんなに飲んだら明日に響くんじゃないのか?」
「別にいいの、仕事だって休職だしお金はあるし夫はいないし、私は自由なんだから」
広い家の中でアルコール飲料の入ったアルミ缶を開けては空にして投げ捨てる彼女に俺は苦笑いをした、酔ったらいつもこれだった
トランスフォーマーが入っても困らないような天井の広い家はそこら一般的な家庭よりもはるかにいい環境だと感じ、それら全ても夫の為と用意した彼女はきっと心から相手を愛していたのだろう。
ソファの上でいよいよ横になって言葉にならない言葉をいいながら眠気に抗おうとする彼女を眺めていれば彼女はふと薄く目を開けて俺を見つめた
「アイアンハイド」
「なんだ」
「…あなたは本当に優しい人ね、ありがとう」
そういって瞼を閉じた彼女に俺は優しいけど酷い男なんだと自分の中で呟いた、酷いどころか最低な男だろう
眠る彼女の頭を撫でて髪を梳くっては落ちていくのを眺めて最後に赤くなった目元に俺は唇を寄せた、本当に最低な男だよな、俺は彼女に少なからず異性として好意を抱いている
無事故無違反安全第一とまるで警察の交通安全の教訓のようなことを胸に誓って俺はパトロールをした、夜深いパトロールな上にあまり人も通らないような道を走る俺はいつもクロミアのことを考えた、気高くて強い俺の恋人は俺の前では多少甘えてくれるかわいらしいウーマンサイバトロンだ
地球での滞在が長くなるにつれて彼女はどうしているのか、無事に生きてるのかと不安になる、そんな時ふと道にでてきた何かに俺は慌ててビークルモードをやめて避けた
「何だ!?」
夜道だ、猫やタヌキにもしかしたらレジ袋だったかもしれないが何かわからなかったがライトで照らした先には人間の女が一人倒れていた
これはやらかした、命に別状は無いが骨をやったかもしれないと慌てて駆けつけて声をかければ女は俺を見つめた、深い絶望と悲しみを抱いたその瞳に引き込まれた
「ごめんなさい、ぼーっとしてて」
「いやこっちもだ、それよりアンタこんな時間にこんな場所で何してるんだ」
「散歩よ、気分転換したくて」
とはいうものの辺りは家のひとつもない、広い荒野だぞと見つめるがそれ以上追求出来ずにふと彼女が足を抑えているのをみては怪我をさせてしまったのかと慌てて近付けば泣き腫らした女がそこにいた
一目見て俺は心を奪われた、綺麗な女性だと…とはいえそれはあくまで色んな人間をみるようになったからで特別好意があるだとか下世話なものではなかった、と思う
「怪我をさせてしまったようだ申し訳ない、俺としたことが別のことを考えていて」
「ヒールが折れて捻挫しちゃったみたい、こんな所を歩いてた私が悪いわ」
「よかったら送っていこう」
こんな時間に女性が一人はさすがに危険だと告げれば彼女は眉を緩くさせては「ありがとう」といって笑った、かわいい笑顔だ
それから彼女との交流は始まったがパートナーと別居かつ休職中の彼女は兎に角暇をしていて通信を送ってきては何処かにいきたい。という
思ったよりも無邪気に笑う表情や、博識で自分の知らない地球の文化を教えてくれるところ、新しくなったネイルを嬉しそうにみせてくれるところ、買い物に行って待たせてはいつもごめんと言いつつ何かしらをお土産を買ってきてくれるところ
兎に角そうした密かな気遣いが良かった、サイバトロンの警備兵として基地から抜けるのはあまり良くは無いが仲間達は警備ばかりの俺よりも息抜きをした方がいいと背中を押してくれたし、みんなも彼女が好きだった
「ここのレストランで夫と初めて出会ったの」
彼はウエイトレスで学生だった、新人でもないのに注文が遅いし間違えるしで本当にダメな人でかわいかった。という彼女の言葉からして加護欲や母性が強いのだろう
就職も上手くいかない男を飼ってそしてプロポーズを笑顔で受けたのだという彼女は肘をついては外を眺めて呟く
「でも浮気されてる」
きっと今頃彼はもう一人の女の家に転がり込んで胸の中で慰めてもらっているのだという彼女に俺は何も言えずに聞いていた、ラジオのようなものだ、返事する必要は無い。
「浮気相手の子、私より年上だって、母親でも抱ける男なのね」
大袈裟に笑う彼女は酒を飲みすぎているとその香りや態度から感じた、1時間ほど前に呼び出されて迎えに行けばバーからでてきた彼女は千鳥足で目が据わっていた、俺たちだって似たようなアルコール入りエネルゴンがあるから分からなくは無いが相当なものだ
人も歩いていないような時間に呼び出しておいて語るのは夫の話、いやそれでいい…俺にはクロミアがいる
「アイアンハイドは恋人がいるの?」
「あぁ故郷に今もきっと活動してるだろう」
「どんな人?」
クロミアの事を聞かれると少し照れくさくなる、気の強い女性だが案外可愛いところもあって照れ隠しによく人をバシバシと叩いてくるせいでたまにボンネットが凹む時がある
芯が強くて自立した強い女性であることが魅力的で彼女のクールな佇まいは俺に刺激を与えてくれるし彼女以上のウーマンサイバトロンはいない
そんな沢山の気持ちが溢れながらも車内にいる彼女を眺めればボタンを緩めた胸元をおもわず眺めてしまう、しっかりとした普段の態度とは全く違う弱い表情と乱れた服装がかわいかった
「クロミアは君みたいな女だ」
「俺が居なくても生きていけるって感じ?」
「そうだな」
「そう思うのは男だけよ」
男がいる女の時点でダメだと語る彼女の言葉は本音なのだろう
ようやくたどり着いた家に仕方なく潰れた彼女を下ろして玄関からは入れないからどうするかと悩んだ末に疲れた彼女に声を掛ければ二階の窓が開いてるからそこから。といわれる
全く不用心すぎると警備員として注意してやりたかったものの窓際に手を添えれば潰れている彼女はどうにか起き上がり窓から部屋に入っては俺を見つめた
「夜間パトロールにいくの?」
「あぁそうだ、危ないから戸締りはちゃんとするんだぞ」
「…ねぇ、アイアンハイド」
寂しい。と甘い声で囁かれた
彼女は優しく俺の指に手を這わせて唇を重ねては目を細めて見つめた、口腔オイルが溜まっていたから飲み込んで目の前の彼女を見下ろしては俺は自然と顔を寄せた
互いに寂しい夜だったんだ、二度と戻らないかもしれないパートナーの寂しさを最低な形で埋めたくなった、それは俺たちのその夜だけの夢だったのかもしれない
寂しい彼女に寄り添って慰めては自分のパートナーを思い出して罪悪感を感じた、それならそんなことをするなという話なのに俺は最低な優柔不断野郎で弱いものを助けたいという綺麗事で彼女の手を取り互いと寂しさを変えた。
しかし長くは続かない、彼女を送り届けたある日見慣れた彼女の家の前には知らない男が俯いて座っていた、彼女はその影を見るなり名前を呼んで飛び出して彼を抱きしめた
あまりにも優しいその声に俺は呆気を取られたが彼女の「帰ってくるの?」という優しい声を聞いては、あぁそんな弱いどうしようもなさそうなクズ男がやはり好きなのかと感じてゆっくりと俺は後退した
まるで運命のように数日後デストロンが作ったスペースブリッジから一時的にサイバトロン星に帰っては何百万年ぶりに再会したクロミアを抱き締めた、固い抱き慣れた金属の彼女のボディを懐かしく感じながらも俺はどこか柔らかくて小さな熱を求めていた
俺は彼女を…なんてそんなわけは無い、俺達はいい友人なだけだったんだ、本当に…寂しがり屋だったから。