10.あなたの声が支えてくれる
気付けば勝利を着実に重ね気付けば立派なランキング入りをしていた
雑誌やインタビューや時折テレビやらに出るようになりそれなりにボクシングで食い扶持が繋げるようにもなっていた、男性とは違い女には若さという価値があることをたづなは時折考えた
今自分がここまで持て囃されるのは所詮若いだけだ、ボクサーの命は短い、それを後悔しないためにもやっていかねば…と自身にいい聞かせながら夜道を歩いていた
「こんなに脱ぐんじゃねぇよ!」
「ひぇっ」
「親が泣くぞ」
「泣きませんよ、なんなら楽しそうでしたよ」
「言い訳するんじゃねぇ」
「痛い痛い!」
隣を歩く鷹村の手には青年雑誌が握られており、恥ずかしいが表紙に抜擢してもらったものだった
鷹村さんとの関係も気付けば2年、自身が入門して半年ほどの間に彼はミドル級に変わってベルトを手にしていた
いつまでも変わらず歳を重ねても強さが身につく彼が羨ましい限りだった、その反面いつまでも自分に構ってくれるところも嬉しいと思ったのは小さな独占欲だろう、初めて負けた時も彼は隣にいてくれた、どんなときもだろう、優しく頭を撫でながら
「俺様の隣に来い」
というのだ、たづなにとってそれが今のボクシングへの頑張りだ
鷹村の言葉は不思議と力になる、ほかの人に対しては厳しく意地悪も多いがたづなには女だからか優しいものだった
合宿に行くたびに何かしら問題を起こしたりもするがまぁ楽しいものだ
「今お前何位だ」
「えーっと確かこの間6位になりましたね」
「2年でいいペースだな」
「ベルト取ったら1番初めに巻いてあげますね」
「自分のじゃねぇのは要らねぇよ」
「…要らないですか?」
「あぁ、俺様が取ってきたベルト巻いてろ、その方がよっぽど似合ってやがるぜ」
そう彼に言われると胸が熱くなる、とはいえ鷹村のベルトは正直ホコリを被ってるのではないかと言うほど雑にされている
初めて見た時はこれが王者なのか…と反対に感動してしまったほどだ、けれどまだ世界には届かないが日本王者になればどうなのだろうかと感じた、この関係がまた少し変わるのか…いや、そんなわけは無いあくまで先輩と後輩だ
鷹村守のファンになり雑誌をよく読んだ、今でこそ減ったが毎週のように彼は女性とのふしだらな記事を載せられていたのを即座に思い出せてしまう、そういう風にならないということは自分は彼の眼中にもないということなのだろうと思えばなんだか胸が痛くなってしまうのだ
「そういえば、大学辞めようかなって」
「そーか、いいんじゃねぇのか」
「確定では無いですが、両親にも納得して貰えましたしね、これでまた鷹村さんと沢山居られます」
ぎゅうっと胸が締め付けられる、この女と出会ってから何度目か
眉を下げて笑う姿はまだ少し迷いがあるのかもしれない、こいつ自身は自分の価値とやらを知っているからだろう
それでもボクシングの道に進んできたというのは覚悟を持ってのことだからやはり並大抵の女じゃこいつには適わねぇ、あぁ観念する俺様はこいつに惚れてる、結局好きだと気付いたのは部屋にあげた時だった
昔の試合のビデオが見たいから家に行きたいと言われあげてしまったのに手も出さず一夜を共にした時、こいつに対して本気だと気付いてしまった、そして多分こいつもだ
「2年って早いなぁ、鷹村さんも27ですもんね…何かどんどん遠くなる一方で寂しくなっちゃう」
「俺様をじじい扱いか?」
「そんなわけないです」
ただ自分が世界王者になる時彼は何本ベルトを手にしたことになるのだろうかと感じるのだ、そして万が一彼が負けたら?万が一試合ができないほどの姿になったら?全てが少しだけ恐ろしくなってきたのだ
そんな心配など他所に彼は髪を撫でる、いつものように優しく慈しむような目で
「いつまでも王様の椅子の上で待っててやる」
優しく彼は私の髪を撫でていうのだ
兄のような父のような温かみがあるのに決してそれじゃあない、自分の中に"男"として彼が胸に入ってくるのだ、いつもあの大きな手のひらに触れられる度に胸がバクバクと音を立てて聞かれるのではないかと思えた
「生憎
これ以上にない鼓舞だと確信してしまう、この人に背中を押されたらどこまでも行けるとそう思っていた矢先のことだった
「あれ?守じゃない」
「あぁ"?」
「久しぶり、相変わらず女の子連れてるんだ」
二人の間に現れた一人の女
たづなは思わず固まってしまう、目を見開いて別の意味で心臓が高なった
「あ、貴方は三鷹選手じゃ…」
「よく見たらキサマか、ったくなんだ」
勢いよく鷹村の背中に飛びついた女性、それはいまたづなの目指している椅子に座る女
日本バンタム級チャンピオン、
だがしかし彼女は鷹村の腰に抱きついて微笑んでいるのだった。