13.欲しいものは奪え



8月19日
三鷹小鳥(女子バンタム級チャンピオン)vs馬上たづな


それが決まったのは5月頃であった
たづながランキング一位を獲得し次の挑戦に挑むかどうかという話が出ていた、もちろん進みたい一心だったがたづなは不安もあり簡単に首を縦に触れないでいたときだった
三鷹小鳥は現れた…正確に言えばたづなは彼女の前座であったため出会うのは当然の事だった、丁度試合も勝利者インタビューなども全て終わり雑談をしつつ片付けているときだった、先程試合を始めたばかりの王者は1R2分30秒にて終わらせたのだという

「守私勝ったんだよ褒めて」
「テメェのトレーナー言ってこい、それにあんな小物当然だろうが」
「せっかく守がいると思って早く終わらせたのに」
「あ、あの三鷹さん鷹村さん困ってますから」

男からしたらハーレムのはずだ、カワイイ系と美人系の女性に両腕を引っ張られているのはオマケに2人とも強さで言えば並大抵のものでもない
そのはずだが鷹村は鼻の下を伸ばさずに男をあしらう様に三鷹を扱う始末で過去を目の前で見てきた男達は絶句していた、そして女二人の火花の飛ばし合いにも冷や汗ものだ

「本当に嫌だったら振りほどいたり殴る男だから大丈夫」
「試合が終わったなら早く自分の控え室に戻ったらいいじゃないですか」
「別にいいじゃない、最近誘っても遊んでくれないんだもん」
「だとしても今は私の控え室ですから、出ていってください!」
「…じゃあ守いこっか?」
「ダメダメ!鷹村さんは置いていってください」

板垣はどことなくどこかで見たことがあるな…と隣に立つ男を見れば「鷹村さんってやっぱ女性にも大人気なんですね」なんて笑ってる始末でやはりこの男はダメだとおもえた
結局会長の怒号で2人は抑えられら、黙っていた鷹村は両腕に胸を押し付けられていたせいかしっかりテントを張っておりさらに2人に油を注いでいた

「そんなに守がいいならさ、賭けようよ」
「へ?」
「守を賭けて、どっちが相応しいか勝ち負け決めよう」
「そ、そんなの鷹村さんの気持ち関係なくなんて」
「面白そうだな、俺様が特別賞品になってやろう」
「決まりね、言ってるでしょ?強い男には強い女がいる、それが私かあなたか決めるの」

そんな突然の言葉に全員が息を飲む
だがしかし鷹村だけでなく会長までもが助長した、なぜならたづなは逃げようとしているからだ、ここで逃してはならないチャンピオンからの指名ならばなおのこと有難いものだとおもえた

「正確な話はまたそちらの事務所に伝えよう」
「やる気出てきちゃった、守はそれまでいい男でいてね」
「俺様はいつでも最高だろうが」
「それとたづなちゃん」
「はい」
「鉄の処女を壊してあげる♡」

じゃあね。と明るく言って出ていった彼女はしっかりと狩人の目をしていた、その瞳は男たちも見た事があるボクサーの瞳だ
たづなは鷹村をみつめたが彼はなんともいつも通りの顔をしており来る日を想像してたづなは練習の日々を重ね始めた

三鷹は完全なインファイター選手であり撃ち合いになることは目に見えて分かっている
過去の動画を見る限りも彼女の小さな身体を生かした場所から繰り出さられるアッパーやフックは中々に小ささとは反面に重たい一撃を持っている、さらにいえば彼女は12Rを使うことは無い基本的には4R以内にKO勝ちしている
これがどれだけ恐ろしいことかたづなはわかっている、ビデオが焼き切れるほどみては彼女の強さがわかってしまう

「まだみてるのか」
「ごめんなさい、もうそろそろ帰ります」

ジムが終わった後にビデオを見る場所がないとたづなが悩んでいれば鷹村が部屋を貸してやるといってくれたため甘えた
彼の家に来るのももう手馴れたもので勝手知ったるやテレビをつけてビデオデッキにいれて流すのだ、隙がない訳では無いが圧倒的な強さを誇っていた、だてに9回も防衛していないと思い知らされるような試合だった

「鷹村さんは、三鷹さんと付き合っていたんですか?」
「…いいや」
「お、大人の関係だったんですか」

ビデオを終えたたづなが突如横になっている鷹村に声をかけた
大人の関係が彼女にとってどういう意味なのかは分からないがそこにセックスを含むとしたらYESと答える他なかった
成り行きだった、たまたまスポンサー達の食事会のようなところでえらく胸のでかい好みの女がいると思った、そのままホテルにもつれ込んでその後互いにボクサーだと知れば胸が軽くなった覚えはある
女でボクシングの話が出来る者が少なければ経験者、ましてやプロとなればひと握り程度のものだった
だから機嫌が良くなってあの女を抱いたのだろうがその1回きりだ、それが気付けば彼女面のようになっているしまつでそれには流石の鷹村も驚いた、所詮は男女だと感じられた

「そりゃああんな素敵な人ですもん、そうですよね」

けれどたづなは違う、本気でその男女の関係になりたいと願いながらも手が出せない女は初めてだった
若く熱く真っ直ぐに自分を見つめる彼女に鷹村は嘘を付けなかった、愛したい守りたい抱きたい壊したい、様々な感情が芽生えた
今までの女には無いものを彼女は第一印象から与えたのだ

「お前は俺様が取られていいのか」

気弱なたづなに苛立って仕方がない、子供では無いのだから互いの感情には気付いていた
だがしかしその1歩が踏み出せずにいる中でやってきたチャンスを物にして欲しいと願うのは鷹村だ、そして物にしたいと願うのもたづなだ
立ち上がってたづなの肩に手を起き目を合わせる

「俺様は賞品になってやる、勝った方に俺様を自由にする権利をやゆ」
「三鷹さんが付き合えって言ったら付き合うんですか?」
「その可能性も無くはないな」
「…そ、そんなの」

イヤだ
けれど言う権利は無い敗者にはなんの権利もないのだ、それはたづなも痛いほど知っている
ビデオを見るために灯りを消していた暗い部屋で鷹村の顔が近付いた、あと数mmで唇が触れそうなその距離で彼は言う

「イヤなら奪え、それがキサマのいる世界だろうが」


そうだ、どれだけ泣いても笑っても痛くてもあのリングの上には勝者と敗者しかいないのだ
引き分けという判定になってもベルトがなければ意味が無いのだ、たづなは鷹村の目を見つめて部屋を後にした、勝つしかないのだと思ってただただ今は走り続けるしかないのだった。



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