15.マリッジバトル




初めて味わう満席の会場の人々の声に圧巻される
今まで最高でも7割程だったものが、席がないとは不思議なものだと入場しながらおもえた、程よく解してきたはずの筋肉が固くなってしまう

『挑戦者 身長161cm 体重117ポンド 馬上たづな』

そう呼ばれると同時にリングに上がるがたづなは中々ガウンを脱がずにいた、王者がくれば脱ぐだろうと観客たちが見つめている間に王者が現れる
元アイドルなだけあってか過激なファンが多く、会場は途端に三鷹コールに溢れていく、初めてここまで敵扱いを受けるといえばいいのかコールや人の多さにたづなは太刀打ちできるのかと思えたほどだった
いつも通りのピンクの可愛らしいトランクスとトップスを身にまとった三鷹をみつめたたづなはガウンを取り払った

『おおっと!馬上選手っ今ガウンを取ったかと思えば真っ白…真っ白なワンピース型のような衣装です!まさに花嫁のようです』

大きな解説の声が響き全員が呆気を取られる、本当に困惑しているのはたづなだった
トレーナーのはずの八木だけは小さく

「いやー、似合ってるね」

などというものだから会場中の空気が変わる、お笑いという訳ではなく本当に鷹村争奪戦だということに度肝を抜かれたのだ
スカート型の真っ白なトランクスが揺れており王者は楽しそうに口元を弛めた

「私もそういうのにしたら良かった」
「言っときますけど私知りませんでしたからね、八木さんのせいなんですから」
「今度私もそういうの作ろうかな、うーんそういうイベントもありだな」
「だから違うんですってば」
『おおっと早速花嫁達が言い合っているようだ、さて今夜の結婚ベルトはどちらの手に渡るのか前代未聞のマリッジバトル、さぁ今2人が真ん中に立ち…ゴングがなりました!』

衣装なんてどうでもいい、リングに上がってベルトと三鷹を見て理解する、求める先はやはりそれだと
今スグに始めても構わないのにゴングは鳴らなかった、甲高いゴングの音が鳴ると同時に駆け出す、4R以内が三鷹の勝負だと言うのを知っている、自身の実力から1.2Rでは倒されないだろうと気を強く持ちながら前に出た

「いい試合ですね、調子もすごく良さそうです」
「まぁな、俺様がかかってんだいい試合しなきゃリングに上がってやらぁ」

だがしかしいや、なんともまぁ綺麗なことか
インファイターらしい血肉踊る試合展開だ、馬の蹄と呼ばれるたづなのパンチが三鷹の身体を殴りつける、頑丈に鍛えられているはずの女王が落ちるのも無理は無いそいつは自分たちの傍に居すぎた
言わば獣を育てていたのだ、自分はしがない家畜の馬だと思っているが実際は違う、誰も手の付けられない殺人馬なのだ
それを上手く飼い慣らしたようにみせているだけで、リングの上の女は花嫁なんて可愛いものにはみえない、まるで暴れ馬のようだった

「ハァッ…ハァッ…」

3Rが終了して椅子に腰をかける、普段3分で練習をしすぎているためか2分は短く感じてしまう、ふと視線を向ければそこには鷹村さん達がいる
今の私の姿は到底可愛くも綺麗でもないのは自分でもわかっているのに、なのにどうしてか自慢したくなるのだ、私はこの世界が1番美しいよといいたくなる

「会長、私綺麗ですか?」
「…馬鹿なこと聞くんでないわ」
「ふふっ、そうですね」

4Rは三鷹さんの山場だ、勝ち方も覚えているがきっとそうじゃないのも分かっている
顔面にいいパンチが入れられて血が出てしまい観客席に飛び散りお客さんの悲鳴が聞こえた、たしかこの方面って鷹村さんがいたような…力が抜けてロープに背を預けて見つめれば鷹村さんは腕を組んで怒ったようななんとも言えない顔をしていた、なんだかそれが嬉しくてつい笑ってしまう

「まだ負けられない」

負ける訳には行かない、これは女の意地なのだから
目の前の女王もスタミナが限界だと言わんばかりに汗をかいており足もフラフラだった、それに比べてたづなの足は未だに健在である
どれだけパンチを食らっても一歩や板垣ほどではない、どれだけ走り回っても青木や木村ほどのしぶとさは無い、そしてなにより鷹村じゃないのだ
誰にも負けない、特にベルトを奪う日には、特に好きな人がみてくれてるなら、特に告白する大事な日なんだから

「うりゃァァァ!!!」

女の子らしい声じゃないのだってわかってる
女の子らしい行為じゃないのも
全部わかっているのに、相手の顔を殴りつけている私をみる鷹村さんは酷く穏やかで優しくて嬉しそうだったから、やっぱり私鷹村ボクシングが好きなんだと実感してしまう

綺麗なほどのワン、ツーからのボディブロー、そしてくの字に折れたところにまるで教科書かと思うほど美しいアッパーが決まり完全に女王が落ちた
分かっていたことだが5Rまでまぁ持った方だろうと反対に小鳥を先に褒めてしまうのはたづなに耐えたからだろう、お前は確かにいい女だったな、いろんな面で

ベルトを巻かれたたづなが抱えられようとしていたがリングに鷹村が慌てて飛び出す、勝利者インタビューをする女性アナウンサーからマイクを奪いたづなの前に立つ

「おい、女王様よ、賞品おれさまをどうすんだ」

普段ならば止めるはずの会長も2人を見つめた、いつの間にか三鷹も立ち上がり2人を見つめており会場は長い沈黙が生まれるなんという言葉が出るのか皆が胸を高鳴らせた

「わ、私の、私の永遠の勝ち馬になってください!!」
「あっじゃなくて、友達?え、あっ違うくてそのえっとえっと」

「しゃらくせぇ!てめぇは女王なんだから俺様の女になるんだろうが、違ぇのか!!」

あまりのたづなのポンコツぶりに痺れを切らした鷹村がたづなを抱き上げ乱暴を働こうとするものだからレフェリーもアナウンサーも誰も彼もが止めに入ろうとするが、鷹村の抱き上げる姿はあまりにも優しいものだった

「はい、私…鷹村さんの彼女がいいです」

そう美しく笑う彼女は血を流していてもなんだろうと鷹村にとっては美しい女だった、2人してリングの真ん中で誓いのキスのように優しく唇を重ねれば記者たちは慌ててシャッターを切った


「私だって、たづなちゃんが欲しかったのに」

女の声は誰にも聞こえなかった
けれど2人の姿を見て頬を緩める、どうかそのまま強いまま2人で羽ばたいていてほしいと願いながら無くしたベルトを惜しむことなくリングを下り彼女はその試合を最後に現役引退を発表したのだった。



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