クラブ・アトランティスは天界屈指のナイトクラブであり、人も神も問わずに夜を楽しみたい者を受け入れる。
元は別のギリシャ系の神が経営していたものの、自堕落になり店の経営は危うくなった頃、働いていたルナリアが経営を立て直して今の人気クラブへと返り咲いた。
連日大盛況のナイトクラブの経営は正直なところ簡単でもなく、彼女は常に頭を悩ませながら仕事をしていた。天界のナイトクラブに関してはいくつもあるがギリシャ界のクラブに関しては全て彼女が経営している。
他の天界の各界においてもそれぞれのオーナーと話をしたり、新店舗の相談をされたり、つまり彼女は忙しい女神だった。
また彼女は人類や人間も平等に愛しており、全ての客は平等にしているため、ナイトクラブが人で埋まるのはそうした理由もあった。長い爪で電卓を弾きながらパソコンを睨みつけて、仕入れ値や人件費に今月のイベント予定など様々な情報を毎日のように確認して、シフトの管理から各店舗の情報という隅々までみていた。

「オーナー眉間に皺寄ってますよ」
「だって今月も忙しすぎるんだもん……マジでちょっと休みたいよ〜、なんでこんなに忙しいの?意味わかんなすぎるよ、もういっそ一ヶ月くらい改装工事とかで休もうかな」
「出来ないこと言わないでください、というよりもオーナーの頑張りのせいじゃないですか、誇ってくださいよ」
「それは否定しないけど、今月はまじ忙しいよ」

毎月のことだというのに彼女はすっかり疲れきった顔で店内のカウンターに項垂れてみると、オープン前の掃除をしているバーテンダーは苦笑いをしつつも、この若いオーナーに変わったからこそ店は立て直せたことを素直に感謝していた。
以前のアトランティスはナイトクラブであるが、少々品のない店になっていた。高位の神々だけを受け入れて、それに対する接待として女神や美しい人間の女性を沢山雇い込んで、そして何かが起きてもオーナーは「上位神に逆らうことは許さない」というルールを課した。

前オーナーは前前オーナーの息子であるとして好きにしていたものの、その頃バーテンダーとして働いていた彼女は同じように働く女性達への不当な扱いや、他の男性のバーテンダーや黒服たちに対するオーナーや客としてきている高慢な客に対して怒りを顕にした。

しかし力の無い彼女はどうすることも出来ず、考えたことは作業員によるボイコットだった。姉妹店などについては経営が既に傾いており閉店はやむを得ず。不当な解雇を受けた者は多く、アトランティスに所属していた女性達は傷付けられても訴えることもできず。

そうなれば彼女はSNSなどで店の状態を伝え、不当に扱われた人達の声を届け、天界の管理をする主神達に抗議文を全員で送り付け、天界の人権団体に訴えて勝てぬと見込んでいても弁護士や仲間をつけて、前オーナーや高位神達に直接の起訴。

しかし、受け入れなかった彼らの裏事情についても知っていた彼女は天界のゴシップ誌に売り出すとまでいった。これには高位神達は激昂するも、その時には彼女の味方についたレーレーイスの女神達が黙らせ、激昂の末に行った過ちは裁かれた。
そうしてみんなの為に戦った彼女をアトランティスで働いていた者たちはオーナーとして働いて欲しいと願い、裁判の末に彼女にその権利が委ねられた。

「っていってもここって元々はポセイドンが権利を放棄した店ってことらしいから、実質はあの人のお店だよねぇ」
「実際はゼウス様がダンスクラブ欲しくて作ったのを押し付けたからすぐに権利自体は放棄されたみたいですけどね」
「その辺の詳しい権利関係あたしには分かんないんだよね。てか上の話ってあたしら関係ないし、あたしはみんなが楽しく出来たらそれでいいよぉ」

ふぁぁと欠伸をする彼女は時計を見ると既に昼を過ぎていた。
「やばっ!もうこんな時間じゃん!」というなり荷物をまとめた彼女がバーテンダーに何かあったら電話してね。と最後に言い残して店を後にするとバーテンダーは「今日もですか」と苦笑いをする。
すっかり彼女は恋をしてしまったようだった。

「……」
「そんでね、昨日なんてマジでやばかったの!なんせシヴァとか印度系の神様が来てね、店ん中で踊るわ食べるわで楽しんでくれるのはいいけど、まじで酒がたんない!ってなって他の店舗とかから慌てて持ってくる羽目になってさ、VIP席で座ってくれるタイプじゃないし、周りのお客さんもみんな飲めや歌えなのはいいけど、DJも途中で降ろされちゃってバーテン達もみんな勝手に酒ひったくられたりするって半泣きになってて、流石にあたしが出勤してルール守らないなら出禁だよ!って怒る羽目になってね」
「……」
「楽しむのはいいんだけどウチの店はみんな平等だからね、何回か無礼だーとかいって、訴えられかけたこともあるけど、それならこっちも負ける気ないしって刃向かったりしてたから今じゃ理解あるお客さんばっかだよ。印度神のみんなは並んでお店に入ってくれてたからルールのこと言ったらちゃんと聞いてくれたし、主神とか上位神とか下級神とか人類とか関係ないんだよねぇ」
「……」
「この前はゼウスもアレぴ……アレスとか、ヘルぴ……あっ、ヘルメスとかも連れて来てくれて、その日はイベントだったしめっちゃ盛り上がったんだよ、あたしも久しぶりにホールに立って楽しかったし」
「……お前が?」
「そう!あたしバーテンしてたけど、ダンサーもしてた時期があってね、結構人気のポールダンサーだったんだよ!」

それでね……と話をする彼女と話を聞いているのか聞いていないのか分からないポセイドンは二人で午後のお茶の時間を楽しんでいた。
彼女は城の出入りを許可されて以降、大抵午後のお茶の時間に合わせるようになった。休みの日は城に来てメイド達を捕まえては話をしたり、たまにお菓子作りをしてみたり、兵士たちに差し入れをしに行ったりと自分なりの時間を堪能していたが、相変わらずポセイドンに全てが向けられていた。

「っと……もう行かなきゃ、今日他の店舗見に行かなきゃいけなくてさ。本当は行きたくないなぁ、ポセイドンともっといたいんだけど仕事だからね。それにポセイドンの顔みたらめっちゃ元気出るし夜も頑張れそう、それじゃあご馳走様でした。また明日ね」

慌ててやってきたかと思えばお茶とケーキを嗜んだあと、すぐに立ち上がり彼女は騒がしくまた去ってしまうのをポセイドンは視線も向けずに佇んだ。
プロテウスはテーブルの上の空になった皿やティーカップを下げる時、ポセイドンが小さく「ポールダンサー」と呟いたことに、プロテウスはまるで雷を受けたようであり、すぐさま調べては「……こちらですね」といってタブレットで検索して出てきた動画をテーブルの上で再生するとポセイドンは静かに見つめたあと瞼を閉じた。
海は小さく揺れていた……。

それから次の日のこと珍しく彼女が来なかった。
城全体が珍しいこともあるものだと思いつつもそんな日もあるかと思った。

しかし、その次の日も、その次の日も、また次の日も彼女はやってこなかった。
そして一週間が経過した頃、ポセイドン城の傍の海が大荒れしていた。波は高く何度も大地を叩き割るように海が泣いた。
城にいる誰もが海王・ポセイドンの機嫌が良くないのだと理解する。
そしてその原因があの騒がしい海の処女神のせいであると分かっていた。
もう数ヶ月単位であの声、あの派手な身なり、あのハイヒールの音をさせる女神を見ていたのだ、ポセイドンでなくても彼女がいないとこんなにも城は静かなのだと感じるものであり、プロテウスは焦っていた。

今日も今日とてやって来ない彼女に対してポセイドンはあからさまに不機嫌を示しており。ポセイドン城の地面が小さく揺れているようであるからだ。
しかし今日はポセイドンも久方振りに兄弟水入らずで過ごそうとゼウスに誘いを受けており、朝から身支度を整えていた。

「もし"アレ"が来たら報告をしろ」

ポセイドンはそういって、一人でゼウスがいるオリュンポスの宮殿へと赴いた。相変わらずゼウスの居城となるその場所は豪華絢爛かつ騒がしいものであり。ポセイドンの居城とは異なる場所であるが、彼を目にしたものは直ぐに道を開け頭を垂れる。
迎えに出たのはヘルメスであり、彼は彼ら三兄弟が時折兄弟水入らずの時間を過ごす事を知っており、誰も来ぬその円卓へと案内した。
慣れた足取りで進むポセイドンにヘルメスがドアを開けると、既に弟ゼウスと兄ハデスは席に座っており、それぞれポセイドンをみるなり、いつものように挨拶をした。

「久しいな、兄上、ゼウス」
「ああ元気そうでなによりだ」
「こうしてたまには顔を合わせねばのぉ」

ワシが誘わなきゃお主ら連絡もしてくれんもん、と甘えるようにいったゼウスにポセイドンは椅子に腰掛けるとポセイドンにもティーセットが置かれ、いつものように紅茶が注がれた。
兄弟で顔合わせをするのは年に一度、それでも悠久の刻を生きる神にしては頻度はとても高いものだった。どの種族や神話の神においても共通することは身内に対する深い愛情だろう。
時にそれは戦争にまで発展するものであるが、この天界でのピンチについても何度も乗り越えてきた三人……いや、四人の絆はとても熱いものだった。三兄弟といわれているが、実際は現在冥界にいる元征服神・アダマスはポセイドンとは顔を合わせず、互いに気にする様子もなかった。

「それで……近頃面白いことになっとるようじゃのぉ」

ゼウスは自身の顎髭を手櫛で整えるように撫でながらそういった。
それはポセイドンへ向ける言葉であるが彼は何も気にしていない。
普段と変わらぬ、まるで凪のように静かな態度で紅茶を飲んだ。

「例の海の処女神はお前のところにいるようだが、どうなんだ」
「なにも……ただうるさいだけで迷惑だ」

その言葉が帰ってきただけでも兄弟は随分と進歩していると感じた。
ゼウスは面白いからとポセイドンのことを彼の従者から聞いており、ハデスは友人である彼女から直接話を聞いていたため、彼女が城にいる騒がしさについては同情するものの、ゼウスはあれはあれで愛い娘だと口にした時、空気がスンと冷たく切り替わった。
まるで部屋の中は深海に到達したように感じられ、テーブルの上のティーカップが揺れたかと思ったもののそれは大地が揺れる音だった。

「何故、やつの事を知っている」
「ワシは個人的にあの娘を聞いておるからな」
「余は彼女から直接だ」
「……フン、尻軽め、やはり下級だ」

聞き零してしまいそうな声に兄・ハデスと弟・ゼウスは互いの顔を見たあと、ポセイドンをみた。この三男は何を言うのかと思ったが、どうやら相当ご執心のように感じられるからだ。
しかし兄弟の中でも一番気難しい彼への言葉をどうするかと思いつつ三人は同時に紅茶を飲んだ。部屋の中にはいつの間にか完全に三人だけであり、各界の神々の話や、ギリシャ界の様子などの話をしつつお茶を濁すが、明らかに兄弟の好奇心はポセイドンに向かっている。
正確に言えば彼に引っ付いているあの小煩い海の処女神に対してだ。
それだけでも分かれば十分だろうと彼らは判断しつつ、あの娘を思い出す「ポセイドンが好き」たった一つの思いだけでこの海の神に手を伸ばしたあの愚かな娘に素直な評価を与えてしまいたくなるのはギリシャ神は大抵身内に甘いからだろう。

「それで?最近もお主にあの娘はベッタリなんかの?」

ゼウスがぽつりとまた呟いた言葉はどうやら今日の彼には合わなかったようでまた大地が揺れた、海のゼウスと呼ばれる彼の手で。

ポセイドンにとって小さなささくれ様なものだった。
あの女が現れて自分を掻き乱していくことは。ほんの小さな石があたったような、そんな見て見ぬふりできるもののハズだった。
神は群れず。神は謀らぬ。神は頼らぬ。それこそが神である──と考える彼にとって、あのうるさい女は神ではない。実際に下級女神としての血には人の血も微かに感じられ、ポセイドン達のような高貴で純粋な神の血だけではないようだった。

『ポセイドン!!』

頭の中で声がすると彼は微かに顔を歪めた。
苛立ちだけが感じられる。
派手な身なりに下世話な姿、恥を持つべき態度と姿だと罵倒の限りを尽くせるような相手であるのに、ポセイドンは彼女が自分の城に来る事を拒絶しなかった。
反対に城の中は随分騒がしくなったもので、誰にでも向けるあの軽い声と笑顔が他人の害も知らずに尻尾を振り続ける愚かな犬のようだった。
そう思いながらポセイドンは兄弟での時間を終えて帰ろうとしていたとき、広い廊下が背後から名前を呼ばれ足を止めた。それは彼が唯一尊敬すべき神─兄─ハデスの声だったからだ。

「兄上……なんだ」
「帰り道くらい共にいいだろう?お前に会うことも少ないからな」

優しく微笑んでくれる兄に対してポセイドンは彼を心から尊敬した。
背中だけで全てを語るその神としての完璧な姿、神とはそういうものだ、ゼウスに関しても理解できぬ事があれど神として周囲を導く姿は兄弟といえる。

「あの娘からお前の城でのことを聞いている、随分変わった様子らしいからな、また是非伺わねばならんな」

ハデスの軽やかな声にポセイドンは城は確かに随分と"変えられた"と思ってしまった。
あの日彼女を受け入れることに決めた日から、毎日やはり逢いに来ては「好きだよ」と真っ直ぐ言われる度に胸がほんの少し小さな灯りに照らされたような何かを感じた。それがあの娘の力なのかもしれないと言い聞かせた。
しかし、その光は城全体に変わったと思う頃、いつもの様に自身の城の中庭で過ごしたいと思ったが、そういえばハデスの城の中庭も随分と華やかに感じられたなと考える頃、見透かしたように兄は笑う。

「アレはお前の居城まで手を入れたらしいな……楽しそうに話をしていた、余の城に来ていた際も勝手に好き勝手をしてな、お陰で城も外も無駄に花やら調度品が増えて困ったものだ」
「あの雑魚は兄上にまで迷惑をかけているのか、どうしようもなく愚かだ」
「騒がしくてな、黙るなら構わんと思ったのだが……まぁセンスが悪くないのが困ったものだ」

嫌になりきれないんだと語る彼の声はやはり少し軽いようでポセイドンは同じように感じてしまっていた自分が、まるでハデスのように彼女を受け入れてしまっているように感じられてその気持ちから視線を逸らした。

「あの愚者は身勝手だ、五月蝿く、鬱陶しくて堪らない」
「そうだな」

本当に身勝手だと思ってしまう。
勝手に土足で踏み込んで来たくせに家族に対しても自分に対しても好き勝手に振舞って振り回しておきながら、彼女が現れないことにポセイドンは胸の内で小さな怒りを感じていたのだ。
感情をあまり感じない彼がそう思ってしまうほどに彼の心の海の中を泳ぎ続けたのは彼女なのだから無理もない。あれだけ暴れて何も無かったと言える方が神でさえも難しい。

そう思いつつ、二人がオリュンポス神殿の広間に出て来ると神々でその場は溢れている。ゼウスの配下の家臣や来賓など人は多いが全員がその二人に対してモーセが海を割るように道を開けるが、視線の先に見えたのはその神殿の柱に背を預けて、天界用の薄いスマホにこれでもかという程デコレーションとストラップを付けて。第一関節分はありそうな長く派手なスカルプネイルに、その足でよく歩けると聞きたいほどの高くて細いピンヒール。
女神とは思えないほどに現代の若い人間のような格好に風でも起こしそうなまつ毛と濃いメイク、気だるげに背を預ける女はポセイドンが知る女で、彼は視線を向けるが彼女の傍には中級の男神だった。同じく軽い見た目の男は「ねぇ、そろそろ連絡先教えてくれてもいいじゃん」と彼女の頭の上に手を置いて顔を覗き込ませて粘着質に声をかけていた。

「……」
「無視はないっしょ、ねぇ下級女神なんだからオレみたいなのに声かけられたら喜んでいいのに、照れてんの?いやぁかわいいじゃん、ギャルだけど初心なの?そういうギャップ狙いなんだウケる」
「……」
「男待ちしてるんっしょ?こういうとこではあんまよくないけど、結構人の出入り多いし、つかまじ連絡先教えろよ、オレが聞いてんだしさぁ」

ああいう輩は何処にでもいるのだとハデスもポセイドンも呆れる。
神が神の品位を落とすとはまさにアレだが、主神級でもない下等な神はみんな等しくそんなものだろうと思いつつ、全く見向きもせず普段の騒がしさを微塵も見せない彼女はスマホの我慢をタップするだけだった。
相手の男神の視線は彼女の剥き出しの太ももや肩に鎖骨へと向けられており。誰が見ても嫌な視線を彼女はどう思うのか、少なくとも心地よくは見えない。
ポセイドンは胸の内で「やはりか」と思った。
どこかしらで油を売ってるかと思えば所詮は下級女神だ、誰にでもやはり尻尾を振っている。理由は分からずともそんな事だろうと思う頃、その広間に彼女の声はしっかりと聞こえていた。

「いい加減、目ぇくらい合わせろよ、ちょっと声掛けられくらいで……」
「うっせぇし、まじうざいんですけど……つかあんた誰?口くっさいし昼間なに食べたの?こっちはあんたの臭い息のせいで息止めんのに必死なんですけど。てか普通に連絡先とかあんたみたいなヤツとか無理すぎ。あたしいま忙しいんだよ。ガチでウザすぎんだけど」
「あ"?!なんだよテメェ!下級女神の分際で舐めてんのッッ」
「ごめーん、足滑っちゃった……マジウザすぎ、キメェんだよ。あたし今ガチで好きな人いんのにあんたみたいなのに見向くわけないじゃん?バッカじゃないの?まじうざいわぁ……てかそろそろゼウス会議終わったのかな……え」

バチッと視線が重なった。
その女神は自分に話しかけてきていた男神が遂に自分に強く出てきた時、慣れた足取りで相手の足の間に自分の足を振りかざすなり、神も人も変わらないその弱点を遠慮なしに狙った。
周囲で見ていた者はシン……と静まり返った。
神々の中でこうしたやり取りは少ないが、女はため息をついて顔を上げた時、いるはずも無いと思っていた男──一人は親友が、もう一人は自分が大大大大大好きな片思いの人がいた。
彼女の足元には痛みに悶えた男神がいるものの、彼女は途端に顔を真っ赤に染め上げるなり大きなトートバッグの中から手鏡を取り出して自分の見た目を気にした。

「嘘嘘嘘嘘、待って待って待って待って、なんでなんで?ウソ、ポセイドンいるとか知らないしやばいし、どうしよあたし今日全然盛れてないし、ヤバいよ、てかさっきのみられた?」
「……プッ」

途端に聞こえる大きな独り言と小さく聞こえたハデスの漏れ出た笑い声。
ポセイドンはガッツリと彼女を見つめており、バチッと視線が重なったのも二人のものだった。
そしてハデスを置いてポセイドンは階段を降りて、彼女の傍に行くと、彼女はまるで子ウサギのように真っ赤になって震えては「やば」「無理」「久々だから顔整いに免疫が」というものの、何も知らない周囲はそれ以前に膝を付けと下級女神に感じた。

「あっ……ひっ、久しぶりだねポセイドン、こんなとこで会うのとかまじ偶然!てか今のみちゃった?みちゃった……よね、いやぁあたし結構短気だから、つい手が出ちゃうっていうか……え、と、その……やば、見られたくなかったかも」

彼女は自分が女の子であるということを常に思って生きていた。
かわいくありたい、好きな人に出会いたい、その人のお嫁さんになりたい、その人にかわいいと思われたいという素直な気持ちであるが、今の自分はとことん違うと思うと恥ずかしさと悲しみを感じた。
ポセイドンに何を思われてしまうのだろうか「野蛮な暴力女」と思われてしまうのはかわいくなんて無いと思うと自然と涙が溢れそうで、普段は目を見れる彼女が顔を伏せたとき。
フワッ──と優しく何かが彼女の肩に触れた。

「うるさい、少しは黙れ」
「……え、え!!なに!!これ!!めっちゃエモい!!」
「……黙れ」
「だっ、だってあたしにマッマッマント!!え!?ハデスみたぁ!?ポセイドンがね!!」
「ああ見ている。我が弟がそなたに渡したのをな」

余計なことを言うなとポセイドンは思いつつも真っ白なマントに包まれた彼女はその小さな体をすっぽりと隠されてしまい悲しみ異常の喜びを感じていると、足元で男神の呻き声がしたがハデスは静かに蹴り飛ばし近くの兵に処理するように渡した。

「何故余のもとへ来なかった」
「しばらくクラブの方忙しくてね、ゼウスが主催のイベントもあるし、ちょっとさすがに主神クラスは手が抜けないのもあるし。あと他の新規店舗の立ち上げとかもあって……あれ?メール送った気がしたんだけど……あっ、ポセイドンとは交換してないか、ごめん!でも浮気とかじゃないし!あたしポセイドンが一番だし、てか会えたの超嬉し〜!まじでやばい!てかめっちゃ王子様〜っ、やっぱあたしら運命なんだね」
「フン……」
「今からゼウスとアレぴたちとお茶しながらイベントの話するんだけど来る?もしよかったら一緒にいたいなぁ、ハデスも暇じゃなかったら行こうよ!折角兄弟水入らずなんだしさぁ」
「先程茶を飲んだばかりだが、うむ……よかろう」

まるで彼女は花が咲いたようにフワリと笑うなり、二人の両腕に自分の腕を絡めたことに周囲は固まった「あの馬鹿女神、なにしてやがるんだ」という視線だが、ハデスは友人として拒まなかった。そしてポセイドンもまた……「暇では無い」といいつつもその腕を拒絶しなかった。
白地に裏は海のような深い青のマントを身にまとった彼女が二人を連れて歩き出す、仕事が大変だったけどポセイドンのことを毎日思ってたと話をする騒がしい彼女と静かに受け止めるポセイドンをみてハデスは微笑みつつ、神殿の中へと戻った。

「ほほう、面白い光景じゃ」
「ふふっ御三方素敵ですね」
「なっなっなっ、何をしてるんだバカ女神」

そうしてゼウスの部屋にいくとゼウス・ヘルメス・アレスが興味深そうに下級女神に引き連れられた冥界の王と海の王を見たのだった。

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