それはバルゼミアにとって一世一代のビックイベントであった。
早朝から自身のクローゼットの中身をひっくり返してはありとあらゆるドレスにワンピースにスカートにと投げ捨ててはこうじゃない、ああじゃないといい騒ぎ立てる彼女はまるでファッションショーのようであり、彼女の自室に起こしにやってきた母バーモットは娘の様子にいつもの態度で彼女をみつめていた頃、後から入ってきたベルゼブブのなんの騒ぎかと思ってみれば、バルゼミアは黒のボンテージ姿であり、ベルゼブブはそれをみたとき、バフォメットの宴にでも行くのだろうかと思い直ぐにクレームをいれようと思ったものの、振り向いたバルゼミアは両親に向けて問いかけた。
「ハデスおじさまとデートなの!!この服装ならおじさまもメロメロよね!?」
「「いや着替えたほうがいいと思う」」
「なんでーー!!」
それは数日前のことであった。
忙しかった時期も過ぎ去り、落ち着いてきた頃、ハデスはバルゼミアは休みを取っているのだろうかと思いメイドたちのシフト表をみてみれば、バルゼミアは休みは城の規律に則ってしっかり取っているものの毎日ハデスに会いに来るせいかあまり感じられなかった。
年相応に外での遊びも必要だろうにと感じるがメイドになった以上、遠慮しているところもあるのだろうかとハデスが思い、丁度自分のスケジュールも確認の上で彼女に提案した。
「バルゼミア、よければたまには出かけないか」
「そっそれはデートのお誘いですか?」
「(幼い頃からそういってたな)あぁそうだ、デートだ」
「もちろん致します、それはもう完璧な、最高なデートに致しましょうね!!」
「喜ぶのはいいがあまりバフォメットの血を沸騰させるんじゃないぞ、全く...」
そうしてハデスからの誘いを受けたバルゼミアはそれはもう天にも昇る心地でデートの用意をしていた、珍しく前日はハデスの寝室には現れず次の日のためにと入念にケアをして、朝から悩み果てて服やメイクを試行錯誤したものの、バルゼミアは姿見で自分の服装を確認してはあまりにも普通だとほんの少し残念に感じた。
なにせ手持ちの中でも一番おとなしい服にしなさいと言われ、普段と変わらないミニ丈のレースのギャザーワンピースであり、袖丈は姫袖となりかわいらしくデコルテも広いが如何せん彼女の勝負服と比べてはあまりにも普通で、それは以前同年代の友人達とのお出かけ用の格好であったからだ。昔はハデスから渡されたドレスがいくつもあったが大きくなって二人で出掛けることも減った彼女はそうした場にふさわしいドレスは渡されていてもデートにふさわしい軽装がなかったゆえにうーんと唸った。
少し大人びた真っ白でベルトが三段ほどある八センチほどの高さのブーツ、念の為とリップとハンカチとティッシュとスマホだけ入るレザーの小さなバッグを片手に珍しく下ろした長い黒髪を巻いた姿はいつもとは違うため落ち着かずいたものの、そうする間にドアがノックされてしまい、別のメイドかと思えばドアが開かれてしまう。
「ふむ、用意はできているようだな」
「お...おじさま...あぁなんてかっこいいんですか」
「若い娘と並ぶのであれば相応の格好をと思ったんだが、おかしくないか?」
「もちろんでございます」
バルゼミアは迎えに来てくれたハデスをみる目はまるで飢えた獣のような眼差しで目の色をその名の通り変えては今にも飛びかからんといわんばかりであり。
ハデスは普段の冥王としての服装ではなくとてもラフな格好であり、黒地に裏地がいつものバイオレットカラーのシックなロングコートに落ち着いたオフホワイトのシャツとシンプルな黒いパンツと革の靴であり、白銀の髪がその黒を落ち着けるような印象にさらにみえるため、まさに大人の色気をまとった男性であり、年の話をするものだが神界において年齢は意味などなさないというのにバルゼミアと並ぶからと気にしていることさえ彼女にはとてつもなく魅力を感じてしまうものだった。
「お前は白だったか、正反対のカラーリングで良いな、よく似合っているぞ」
「変じゃありませんか?」
「ああとてもかわいらしいぞ」
「はぁぁ♡おじさま...いますぐベッドにイキましょう」
「デートをしないのか」
しますぅ。と返事をするバルゼミアにハデスはいつも通りだと安心しては手を差し出せばバルゼミアは目を丸くするが「デートなのだからエスコートをせねばな」と微笑むため、バルゼミアはいつだってハデスの前ではお姫様なのだと思い出して手を取って微笑んだ。それまでの小さな背伸びも忘れて。
天界に比べて冥界は暗いと思われがちだがそれは半分正解で半分間違いだった。
広い冥界の中ではもちろん、魔獣などが出る地区もあるが、街ももちろん存在しており、天界に比べると少し大人チックな店も多いが冥界一の街は神々も多く暮らしており、地上界のような賑わいをみせるほどであり、娯楽も年々優れているものであり、それはハデスが冥界に暮らす者たちが少しでも快適になるならと地上の技術を受け入れてきたからでもあった。
「これが見たかったんです」
「スプラッター系のようだが怖くないのか?昔似たようなものをみて一人では寝れぬと泣きついた挙げ句余のベッドでおね...」
「わー!そんな古い忌々しい記憶なんて捨ててください、バルゼミアはもう大人なんですから平気です!!」
そうして街に出てきたバルゼミアは近頃話題であったホラー映画をみたいとハデスに告げて映画館につれて来てもらい、ハデスは心配だと思いつつも仕方なくチケットを二枚購入するが、その際に「子供一枚...180禁だと?バルゼミア残念だがみれないようだぞ」といってはバルゼミアに「もう大人です!」と叱られ、その上近頃の映画館のチケットのシステムが変わってしまったことにより困惑していればバルゼミアが手慣れた様子でチケットを二枚買ってハデスに差し出した。
「こらバルゼミア、チケット代金など出すんじゃない」
「だめよおじさま、デートなんだし私はもう大人なんです、お小遣いじゃなくてちゃんと払いて稼いだお金なんですから心配なさらないでください」
「デートであれば男を立ててほしいものだがな」
彼女の意見にハデスは呆れつつもそういってみたものの、バルゼミアがそれだけ大人になったのだと嬉しい気持ちもあり、チケットに決してシワなどつかないように大切に保管して二人でドリンクを買って二時間半の映画をみるために入場をした。
しかしバルゼミアは今回のデートに関してこの映画を選んだのはまさに作戦であった。
地上界で流行った本作は冥界でも相当なショッキングシーンと恐怖があるらしく、怖がったふりをしてハデスの腕に抱きつくという作戦である、そして優しいハデスは抱きしめてくれるだろうが今日のためにと用意した魅惑の香水の香りでメロメロにしてやるという、とてつもなく低俗な作戦であり、彼女は成功すると信じていた。
「ダメダメダメダメ、ムリムリムリムリ、おじさまもう終わった?終わった?」
「いや、今ピエロが女を逆さ吊りにして足の間からチェーンソーで半分にしているシーンだ」
「ヤダー!今すぐ終わってよ!!」
「バルゼミア、あと二時間あるぞ、あと見えぬのだが」
バルゼミアの作戦はある意味成功はしていた、恐怖から飛び上がった猫のようにハデスの膝に乗っては顔を埋めていたから。しかし当初の目的も忘れて怯えきってハデスの胸で泣き叫ぶ彼女はもちろんだが、劇場内でも泣き叫ぶ者や嘔吐する者なども続々と現れるがハデスは画面から目を逸らすことはなく「2もあるのか」と嬉しそうにエンドロールを見終えてつぶやいては、バルゼミアを抱えて映画館をあとにした。
「お前がみたといったのだろう」
「だっでぇ゛あんなのだとおもわなかったぁ゛」
「全くほらお腹が空いただろう、ランチに行こう」
そういって泣いてしまった彼女の手を引いて歩いたハデスは目についたファミリーレストランをみては思わず頬を緩ませて彼女を連れて入店した、しかしハデスは今日この日は姪を甘やかす叔父の気持ちでいるが故に気付いていないが彼が来た映画館やファミリーレストランはもちろん、街を歩いている者たちは冥王が歩いていることに相当な驚きと怯えを受けており、バルゼミアを連れて入店するなり一番窓際のいい席を案内してもらい、ぐすぐすと泣いている彼女の機嫌を伺うようにメニューをみせてやり、指を差しては「このハンバーグランチとパスタのランチで頼む」と告げるなり、接客を担当する店長は白目を剥きそうになりながら一切のミスも許されないとして、店全体は知らない間に戦場となっていた。
「ほらバルゼミア、お前が好きなハンバーグだ、エビフライと目玉焼きもあるぞ」
「タルタルソースある?」
「あぁたっぷりとな、ほら口を開けてくれお姫様」
「ん...美味しいわハデスおじさま、うん、とっても美味しいもう一口ちょうだい」
小さなお嬢さんの機嫌を取るためにハデスは彼女の為に頼んだハンバーグを切り分けてやり差し出すと小さな彼女の口の中に消えていき、泣いていた彼女がすぐに笑顔に戻るため、全く変わらないと安心しつつ冥王とバフォメットの血を継ぐ者でありながらものんびりとした庶民のランチを嗜み、食べ終えるやいなやバルゼミアはソワソワとメニューをみつめるため、ハデスは視線を向けるとそこには”季節のいちごフェア”と書かれて、いちごのデザートがいくつもの載っておりハデスは「一つだけだぞ」といって注文を許可してやった。
「ハデスおじさま、とっても美味しいわ、はいあーん...なぁんてね」
「余にはくれぬのか、全く意地悪だな」
「冗談ですよ、ほらあーん」
すっかりと客は逃げ帰ってしまい、二人だけの店内で仲睦まじくしているハデスと謎の少女に店のスタッフたちは怯え、無事に食べ終えた二人は会計を済ませては店内を出ていくがすっかりと甘いあの二人はきっと本人じゃないだろうと言い聞かせて腰を抜かし、今日の営業は終わりと言わんばかりにクローズの看板に切り替えるのだった。
「折角だ、欲しいものはないのか?近頃は何も出来ていなかったからな、たまに買い物でもしよう」
「本当!?おじさまとおそろいのモノとかほしいです、あとプリクラ撮りたい!」
「今日はなんでも付き合うからそう引っ張らないでくれ」
全くと微笑ましそうに笑うハデスは普段滅多に来ない若者が多い通りにいくなり、バルゼミアの買い物に付き合うことになるが懐かしいと感じた。欲しいと言われてはなんでも買い与えてしまう悪癖をバーモットには怒られてしまうことが多いものの、物を与えるだけで花よりも美しい笑顔で笑うのであれば仕方ないとして、ハデスはバルゼミアがレディースのアパレルブランドに入店しては「どっちがいい?」と聞いてくることに「露出が多いのは気になるが...バルゼミアに似合うカラーは右だが、左も斬新で愛らしいな、二つとも買えばいい」と完璧な答えをだしつつも甘やかしては次々とショッピングバッグを増やし、その都度ひっそりと控えているハデスの従者達が車に詰め込んでいき、快適なデートを楽しんだ。
「これは目が大きくなり過ぎではないか?」
「ハデスおじさまも私も肌が白いから消えちゃいそうですね」
「それにしてもプリクラ...よくこんなものを導入しているな、随分と人気なようで」
「えぇおじい様が地上でおばあ様とデートした際に見つけてきて導入したそうですよ」
「...あやつめ」
まぁ民が喜んでいるならいいかとカオスを好む歩く厄災バフォメットを思い出しつつも、ハデスはバルゼミアに誘われて撮ったプリクラを奇っ怪そうにみるものの、彼女が嬉しそうにその印刷されたシートを自分のスマホのケースに挟むのを見て、ハデスも同じ用に真似をすれば彼女はより一層嬉しそうにすることに、ハデスは何十年ぶりのお出かけを嬉しく感じた。
「外で待つ」
「だめ!おじさまも入るの!」
「こういう店は男は禁制だ!カードを渡すからゆっくり選んでこい!」
「大丈夫だから、ここはカップル向けなの!!」
人混みの中で騒ぎ立てることに周囲は何事かと思うが、そこは冥界屈指の高級ランジェリーショップであり、黒と紫の妖艶な店構えで飾られたマネキンでさえどこか妖艶なものであった。
しかし引かないバルゼミアに周囲の視線も痛くなったハデスはもう仕方ないと店内に入るなり、そこには嫌でも嗅ぎ慣れたアンバーとムスクの混じった香りが広がり、さらに店内の女性店員たちは入口のバルゼミアとハデスをみるなり、にっこりと微笑んだ。
「バルゼミアお嬢様来て下ったのですね、さぁさぁご覧くださいませ」
「ハデス様もお連れになられるとは、本日はまさにサバトでございますね」
そういって現れた女性店員の格好はランジェリーのみであり、ハデスは固まったがバルゼミアは慣れたような態度であり、ハデスは慌てて店内をみれば店名には「BE-CHAOS」と表記されており、彼は嫌な汗が背中を伝う頃、バルゼミアは既にいくつかの下着を手に取りどれがいいだろうかと見比べているほどだった。
「ここのオーナーは」
「おじい様ですよ?ほらおじい様ったら色々事業をしておりますでしょ?それの一環です、あっこのランジェリーどうですか?ちょっと控えめですけど」
「ほとんど紐ではないか!全くあのバカ山羊はこんな店まで作りおって、事業申請書をみればよかった...クソッ」
冥王らしくない悪態をつきつつ、バルゼミアがみせてきた黒い紐にしかみえない下着を却下しつつも店内は確かにカップルが仲睦まじく互いの下着を選び合っており、それは混沌というの名の愛でもあると感じるハデスは友人のセンスだけは認めざるを得ないと思う頃、バルゼミアは突如ハデスの腕を掴んでは「じゃあ試着ですね」といって店内の奥の試着ルームになれたように連れて行った。
しかしそこは試着ルームとは名ばかりで、広々としたパープルが目に痛い部屋であり、大きなソファに腰掛けるハデスは背後にあるキングサイズのベッドについては知らないフリをしていたかった。
バルゼミアは既に部屋の中の小さなフィッティングルームに入っては着替えている様子であり、ハデスは帰りたいと思うが彼女は一向に出てこず、真っ赤な総レースのランジェリーを身にまとった女性店員がウェルカムドリンクだといって差し出された一級のシャンパンに呆れながらも味わいつつ、待っていればようやく薄いカーテンが開かれる。
「ハデスおじさま、こちらどうでしょうか」
「ブッ、なんて格好をしているんだ」
「おじさまは紫がお好きかな?と思いまして、先日販売されたばかりの深淵の紫(アビスパープル)でございます。ほら後ろもTバックでかわいらしいでしょう?」
「バルゼミアやめなさい、すぐに脱ぎなさい」
「そっそんなおじさま♡私の裸の方が美しいだなんて...ベッドはこちらでございます」
「行かぬ、欲しいなら買ってあげるから直ぐに着替えろ、でなければ帰るぞ」
現れたバルゼミアは刺繍のみで隠されたマカロニコードタイプのブラジャーに、腰にかけてのストリングが特徴的なTバックの布面積が極端に少ないものであり、ハデスは破廉恥というよりも僅かにもそれを女性を仕立て上げる芸術的な作品であると感じてしまいながらも、魅惑の女性の肉体をみせるバルゼミアにすぐにやめるように告げて欲しいものを選んで早く終えてくれと命じれば彼女は残念がりつつも本当に欲しかったようであり、いくつか見繕いハデスは会計をしてやれば腕に抱きついたバルゼミアは「いつ着てほしいですか?」と小悪魔に問いかけるため「風邪をひくから暖かい日にしなさい」と冷静に返事をしては買い物を終えた。
「この公園懐かしいですね」
「そうだな、お前もバーモットもよく連れてきたものだ」
「デート中に他の女性の名前を出すのはマナー違反ですよ」
「ふふっすまない、つい...な」
ようやく落ち着いたハデスとバルゼミアはハデスがよく来ていた公園でゆったりと歩いており、すっかりと遊びきって時刻は夜に向かおうとしており、ハデスの腕にべったりとくっついているバルゼミアはすっかりと歩幅も同じで大人であるのだと感じて散歩をした。二人は城の話もこれまでの話も話題が尽きることはなく、穏やかで心地よい時間を過ごし、ハデスの目にはどれだけバルゼミアが背伸びをしても昔と変わらぬかわいい姪のようだと思った。
自分が出会わせたベルゼブブとバーモットという二人の友人が心から愛し合って出来た愛の結晶を彼は自分の弟へ向ける愛とは違う形で守りたいと思っており、彼女が自分を求めることもまたかわいい叔父への甘えのようなものだと受け取るようにしていた。
そうして二人が過ごしている時、向かいから現れた一人の若い男神が足を止めてバルゼミアの名前を呼ぶことに二人は足を止めた。
「バルゼミア知り合いか?」
「はい、学生時代の友達です、こちら父のご友人のハデス様です」
「どうも」
「あぁいつも世話になっているようだな、二人で話したいこともあるだろう?飲み物を買ってくるから話しているといい」
ハデスはバルゼミアの学友であると知ると微笑ましく思い、彼女もその言葉に甘えて懐かしむように話をし始めて、ハデスは近くの自販機で水でも買おうとその場を離れて遠くから見守った。
そうして並べばよく似合っていると思えた、奔放であるバルゼミアではあるが同じ年の友人に見せる顔はあれなのかと思う時、ハデスは妙な胸の違和感を感じた。それは以前から知っているものでありながらも抑えているものであり、ハデスは知らぬふりをして適当に待っていたものの十分以上経とうと会話の終わらない二人に話に花が咲いているなと思う頃、相手の手がバルゼミアの髪を撫でるのをみてしまい、バルゼミアも照れくさそうに笑ったことにハデスは思わず足を進めてはバルゼミアの手首を掴んでしまう。
「おじさま?」
「そろそろ暗くなる帰るぞ」
「はい、あっごめんね、じゃあまた!」
既に夜になろうとした冥界は更に暗くなっており、ハデスは彼女の手首を掴んで進んでいくがそこは表通りではなく、ハデスは人気のない道に向かいバルゼミアはなにか緊急事態なのだろうかと思っているのもつかの間に、公園の奥の木々の中で足を止めたハデスに背中を木に押し付けられ「ハデスおじさま?」と声を上げるまもなく、ハデスはその唇に食らいついた。
うんざりするほどに甘いアンバーとムスク、そしてはちみつのようなドロリとした香りはハデスの思考を奪い、苦しそうに声が漏れるとハデスは角度を変えて何度も重ね、薄く開いた唇から舌を伸ばして彼女の腰を強く抱き寄せた。
頭の中ではバルゼミアが他の者に触れられること、その上彼女が自分を叔父でも好きな相手ともいわずにただの”父の友人”として紹介したことが反復しており、ハデスの内なる欲望は溢れ出した頃、彼女がハデスの胸を小さく叩いたことに、ハデスは唇を離すとバルゼミアのリップグロスが乱れていた。
「バルゼミア」
「...っわ、私...ぁ、おじ、さま...ごめんなさい」
そういって逃げ出したバルゼミアに残されたハデスはただ立ち尽くした。
ハデスに口付けで乱されたバルゼミアは隠れていたはずの角がすっかり大きくなってしまい、さらにはその瞳が完全なる山羊の瞳に変わっており、その姿は初心な女の動揺であり、あれほど求めていながらみせた彼女に姿にハデスは自分の立場など忘れてしまい、自分の唇に残ったグロスを拭うと指先には大粒のラメが残っており思わず笑ってしまう。
「もういい顔をするのも終わりか、花嫁修業といったのはお前だろうバルゼミア?」
ハデスはずっと思っていた言葉を口にしては微笑んだ、あの娘はもう子供ではないんだとよく理解する。砂糖のように甘い香りを思い出しながら。