第十二話
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数時間ほどで目覚めたエクレールは狭い室内が既に物で溢れかえっていることに目を丸くして驚いた、テスラは寝ている間に様々な道具を作っていたようであり彼女は「キャスターにクラス替えしたらどうですな」と思わずつぶやきながら、足場のない床に困りつつも休みなく手を動かしているテスラにどうしていいのかも分からずにコーヒーを入れて差し出すしか無かった。
テスラは研究に没頭すれば周りが見えなくなる生粋の科学者であり、彼女もそれを理解していた。現在彼は人間である彼女をどうにかしてカルデアに戻すために作業を務めており、なおのこと力添えもできない彼女は悩むとき、ふとタブレットを眺めた。
「あの博士、少しだけいいですか?」
「ん?なんだ、そのタブレットは通信はできなかったぞ、他のものも一切だ、パスもやはり遮断されてるようでな」
「それは分かってますし、お手数をお掛けするのはわかってるんですけど、私の頭と接続して、今の状況を聞いてみるのはどうですか?」
「なに?」
「私はあまり分からないですけど、ほら私の夢の奥底に初代の観測者がいるんですよね?マーリンさんとかエドモンさんみたいな」
その言葉にテスラは手を止めて彼女を見つめた。
以前、アヴニールのことを知るためにカルデアにて大体的な講演会という名の夢を鑑賞した。そこにはアヴニールという"観測者"がどのようなものなのかをみせられ、そして最後には初代観測者と呼ばれるアヴニール家を作り上げた存在、オブセル・ウァートル・アヴニールが現れたのだ。
彼は観測者たちを管理しており、その存在自体は魔術師マーリンや、マスター藤丸立香の夢に干渉するエドモン・ダンテスのような存在であり、今でこそ、その中に留まっているが短い時間で話した中でもあの観測者は全てを理解したようでもあり、さらに通信が繋げない状態でも何かしらの情報を持つのではないのかと懸念した。
いま部屋の中にある機械は偵察や防衛、さらに魔力を増幅させるための機械の数々だった。監視用の機械を設置し、その間に地下の発電室とテスラが生涯隠していた隠し部屋の中にあった資材等を調達しては作り上げているため、資材には困ってはおらず、彼女が提案したように彼女の脳に夢を映像化するためのものを作ることは理論的に可能であり、テスラは考えた末に試してみようといった。
「コーヒーを飲んだのに寝られるのか?」
「はい、深く寝られるかは分かりませんが頑張ります」
「悪い夢を見るようなら直ぐに起こそう」
おやすみとテスラはもう一度ベッドの中に入った彼女の首の後ろや胸や腕に幾つもの電流パッチをつけてそれらが繋がるコードをタブレットに接続しつつ、作業を続けた。
彼女が眠ると言って三十分ほど、心地よい寝息と共に机の上のタブレットにノイズが走るとテスラは手を止めてみつめた。そして人影は輪郭をはっきりとさせ、そしてその姿をしっかりと表した。
そこには先程話していた初代"観測者"オブセル・ウァートル・アヴニールがいたが、いつものような柔らかいベビーベッドなどのある部屋ではなく、図書館のような本がいくつも並んだ部屋に中だった。そして以前とは違う軽い青年のような態度ではなく真剣そうな顔だった。
「久しぶりだ、初代観測者オブセル・ウァートル・アヴニール、あなたに聞きたいことがあってこれを行ってることをお詫び申し上げよう、大変申し訳ない」
『やぁ博士、とんでもないことに巻き込まれたようだね、僕にわかることは限られるがどうしたんだ』
「目的は不明だが、エクレールを狙ったものたちによりここに呼び出されたようだ、カルデアとも繋がらない、何かわかることはないだろうか」
テスラは余計な言葉は省いて必要なことだけを伝えるとタブレットの中のオブセルは少し考えて本棚の本を手にしては興味深く眺めた。
そしてしばらくした後、テスラを見つめて答えを出した。
『そこは君の居た時代とは異なる時代と時間であり、観測者を失った世界だ、理由は知らないがその為にエクレールを呼んだ様子だ、また聖杯も関与してるようだね、カルデア案件だ』
「それは十分把握している、しかしカルデアとの通信が取れない今、私の現界も難しくなるだろう、短期決戦だ、どうにか力添えを頼めないか」
『無理だ、僕らアヴニールは観測の力の代わりに全てを手放した凡人だ、とはいえ見捨てられないのも事実、カルデアにはどうにか僕から言ってみよう、隣人の花の魔術師殿に手紙を送ってみるよ……おっと、魔力的にも限界のようだね」
できる限り最善を尽くすから無理しないように、といってオブセルとの会話は切れてしまうがテスラは結局、詳しい内容は何も得られなかったかと予想はしていたが残念な気持ちになる。
眠っている彼女の寝顔を眺めながら、彼はタイムリミットがあることを十分理解しており、砂時計をあと何度回せるのだろうかと考えていればエクレールはゆっくりと目を開き、話が出来たかとテスラに聞くため、彼は素直に観測者がいないこと以外は分からなかったと告げると彼女は「そうですか」と返事をした。
焦りを持っているのはエクレール以上にテスラであることは明白で、彼女はもう一日半が経過しているのだと気付きつつ、一度食事をして作戦を練ろうと伝えては備え付けの冷蔵庫を開くとブリトーがいくつかあり、彼女はテスラと自分のものを二つ取り出して、部屋に備え付けのオーブントースターで焼き上げるとまたコーヒーを淹れた。
微々たるものだが食事もまた一つの魔力補給であ、二人は狭い部屋でどうするかを検討した、まず初めにテスラは現在外にいくつかの観測機を放っており、外には人が見られないこと、魔力の気配もないということが確認できていた。人という人はいないとさえ感じるが、仮に魔術師が身を隠しているのならば相当な術者たちになるだろうとも告げる。
「博士、魔力はあとどれ位なんですか」
「凡そ二日くらいだ、思ったより消費している、ここに設置したテスラコイルなどでも回復できるがカルデアのシステムと比べればとても遅いものだ、改善が必要だな」
「そうですか……ねぇ博士、今外に人が少ないなら情報集めに行きましょう、博士の発明品もいくつかありますし、近場だけでも調べてなにか情報を得ましょう。初代観測者のオブセルさんがカルデアにいうと言ったのなら大丈夫ですよ」
私たちは私たちで帰り道を探しましょう!と珍しく声を上げた彼女にテスラは少しだけ驚いてしまう。何せ彼女はこの立場になれば怯えて動けなくなってもいいはずなのだ。だが帰る場所を探そうとしており、その二つの足で立ち上がっているから。
安全面を考えればホテル内にいるのが確実、しかしカルデアとの通信は未だに繋がらないまま、ホテル自体も安全が確約されているわけではないため、いつ襲撃を受けてもおかしくはなかった。霊体化したテスラが情報収集するのが得策であり、エクレールが残るのが最前のはずだったが彼女は観測者としてもしかしたら何か役立つかもしれない、といい自らが前に出ることをいえばテスラは考えたあと、そうしようと話し合い一応の為にと彼女の服装がカルデアのスタッフであると分かりやすいものであるため、ホテルにあったスタッフの替えの制服のシャツとスカートを借りて、その上に白いローブを被った、魔術師たちからすれば魔力の痕跡などですぐに分かるかもしれないが多少見た目を偽るのは重要だとして、テスラは霊体化の上で隣に控えて探索を決行した。
「凄いですね、このホテル」
『一九二九年に出来たホテルでその当時は最新鋭ホテルだった、何よりこの大きさで自家発電ビルというのは類い稀に見る建物だ』
「本当このホテルに住んでたんですね、私一人じゃあ迷子になってますよ」
『あぁだから人を撒くのにもちょうどよかった』
追われてたんですか?と驚けばFBIやOSS(今でいうCIAの前身組織)からの目があった──といわれている、と彼はいうため真偽はこの英霊ニコラ・テスラにも不明なようで彼女は監視は嫌だなぁと笑いながらホテルの地下を進んだ。ニューヨーカーホテルは一〇五〇室ある大型ホテルで、そのホテルは地下三階まであり、貸金庫や発電室など様々な場所があり、さらに客室よりも複雑な迷路のような道をしていた、そしてホテルにはトンネルがあり、二十四時間の地下鉄と繋がり他のホテルとも繋がっているものであり、彼女は冒険をした気持ちだった。
ホテルの地下から地下鉄へ、そこから地上へ上がると、大きな建物ばかりがある。エクレールは道が分からないもののやはり誰もいない死んだ都市のような街を歩いた。地下鉄から目指したのはニューヨークの一つの主張となるエンパイア・ステート・ビルディング、それは彼女が知るビルよりも真新しく感じられた。
『このビルは一九三一年に完成してるはずだ、ともあればやはりその時期に考えるといいかもしれないな』
「二十世紀ですか、でも博士が知ってる姿とも少し違うんですよね?」
『オブセル曰く別世界線らしいが、そうなるとカルデアのレイシフトが正常に作動するか…まぁそれは杞憂であるかもしれんが』
そうして話をしながらエクレールは足をニューヨーク・タイムズ方面向けて上がっていくと、ひとつの公園があった、そこは緑豊かでビルに囲まれていながらも都会の喧騒から離れたような姿であった。公園の入口には"ブライアント公園"と書かれており、彼女は足を進めるとその空気の心地良さに思わず背伸びをしてしまう。
しかし公園の中央に行くと、誰もいなかったニューヨークの街並みで鳩が何匹もいた。そしてその奥には鳩に餌をやる一人の疲れたような男がいた。彼はスリーピースのスーツを美しく着こなして、片手にはパンくずがたくさん入った袋を持っており、鳩に熱心に餌やりをしている様子だった。
魔力などは全く感じられずテスラは「普通の人間のようだ」と小さく耳打ちをして姿を見せぬように霊体化のままで控えていればエクレールは勇気を出して足を踏みしめる。
男は四十代ほどだろうか、少し疲れた顔をしており、高身長でしっかりとか骨格をしていた。彼女が足を進めて男に近付くも鳩たちは警戒心もなくその場でパンくずを啄んでおり、彼女は男の前に立つと「こんにちは」とまるで普通の様子で挨拶をするため、男は顔を見ると「来てくれたんだね」と言ったことに彼女はどういう事なのかと小首を傾げると男は鳩に餌をやってみるかと聞くためエクレールは遠慮した。
「失礼ですが、何か知っているんですか?」
「あぁ人類は間違いを犯した、この世界にはもう"観測者"がいない、人類は観測者を道具として欲してしまった。観測者がおらずとも人類は進んで行けると思ったんだ」
男はどうやらこの世界の事情に精通している様子だった。
観測者を道具に──つまりは、観測者を生きたまま殺してその脳や目を奪おうとしたということなのかとエクレールは気付き、思わず身構えるが男は「君にそんなことを私はしない」と告げた。
初めはアヴニールという観測者の魔術家系があり、それに価値を見出した者たちが捕えた。そして人類までも観測者という存在を知った時、利用価値のみを見出していなくても人類は前に進めると決めつけた。しかしそれは違った、気付く時には遅く、観測者のいない人類はゆっくりと衰退し始めた。
世界はそれを危険視し、別世界から観測者を呼び出そうと決めたが過去の観測者たちは既に死んでいる、未来の観測者たちも彼らが起こしてしまったことから消えた未来へとなった。
「君は特別な場所にいた、人理焼却されたのだろう?人理漂白もあった、その中にいた君は私たちの理の外にいたから残っていた、いわば唯一の観測者だ」
「私に何を臨みたいですか」
「ここにいて欲しい、そして観測者になって欲しい。我々は君を傷つけたいわけではない保護するんだ、この星は観測者を失い死滅してしまう、運命ではなく意図的に殺してしまったからだ」
まるで絶滅する動物のようだとエクレールは感じた。
当たり前にいる動物だから狩りをしたのに、居なくなればそれを守ろうと保護するかのようなであった。
「カルデアとの通信も繋がらない、初代観測者に関しても魔力の兼ね合いからもう話せないだろう?そばに居る英霊もいつまでここにいられるか」
何故そんなことをと思うが相手の視線が彼女の左上のブレスレットに向けられたことにより、彼女はそこに宿る魔力を見られたのだろうと理解する。相手は普通の人間であるといっていたがアヴニールや観測者にカルデアをよく知っている様子で普通では無いのは明白だ。
「時間の問題だ、一人になるのは、どの道は君はここに残るのだから安全な方がいいだろう、観測者としての仕事は変わらない、敵対して彼を無理やりカルデアに戻すのは得策では無いはずだ」
「で、も……そんなのしたら私の世界の観測者が」
「問題ない、どうせあちらの世界にはまだアヴニールの血があるんだから繋がれるはずだ、そうされてきたはずだ」
私たちの世界を救ってくれ──男は手を差し伸ばして求めた。それは大切なものを失ったような悲しい瞳でありエクレールは今の自分の状況やこの世界自体についてを考えた。彼女は大層な人間では無い。だが善人ではあった。
ゴミが落ちていれば拾う、困っている人がいれば助ける、それは当たり前にしてきたことで、目の前の男やこの世界が確かに薄暗い闇に飲み込まれて消えてしまいそうなことは肌で感じていた。
「君のサーヴァントの安全は保証する」
その言葉を聞いた時、エクレールは昨日から何もかもをテスラに任せてしまい、英霊であろうと魔力の兼ね合いから疲れきった顔をしていた彼を思い出して思わず暗い顔をした。自分が何も出来ない存在であることは知っている。観測者は何者にも縛られず普通に生きるだけでそれが世界のためになるならいいのではないのかと自問自答をした。
そして悩んだ末に彼女は男の手を取ろうとしたがそれを阻んだのは彼女の肩と伸ばした左手をブレスレットごと包んだテスラだった。彼は相手を心底嫌悪するような目で見つめており、あからさまに敵対した顔をみせるのは珍しいものだった。
「全く嘘も甚だしいな、貴様の言葉は全て偽りだ、自分達で破り捨てて燃やした本を取り戻そうというのか?それも取り戻したあとどうするか、同じ科学者の私に分からないと?」
「博士……?」
「騙されるなエクレール、この男は魔術を知る科学者だろう、この男が言ったこの世界については間違いではないはずだ、だが君の安全は保証されない、この男は君を贄にするはずだ」
その言葉にエクレールは目を丸くすれば男はパンくずの袋が空になったのをみてポケットの中に直しては「やはりわかるか」と肩を竦めた。
「アヴニールが人だからダメなのだ、感情を持ち自由に生きる、そんなものが観測者であれば人は求めてしまう。だから君の脳を目を耳を、観測者のパーツを貰い受け、完璧な観測基にする、それが我々の目的だ」
その為に聖杯も用意したのだと告げる男の言葉と同時に周囲に機械兵が洗われ、鳩は一斉に飛び交った、エクレールはテスラの腕に抱かれ戦闘態勢に入ろうとする時、男は「私は待っているよ」と告げて去ってしまうと同時に二人に機械兵が襲いかかった。
テスラはすぐに戦闘を開始するものの、機械兵は対テスラ用に改造したようであり、頑丈であり頑強だった。エクレールを手放せばすぐに連れられてしまう可能性があるとしてテスラは彼女を片手に抱いては何十機も襲い来る敵を見て、右手のガントレットを掲げた。
「全く、人類というのは本当に愚かだ、自分達で未来を切り開けないとはなおのこと、だが仕方ない……今はこれしか方法もない」
そういったテスラが何をするのかを理解してエクレールは彼の腕にしがみついた、しかし今それをするのは得策ではないのではないかと思いつつも生きるには見届けるしか無いのだ。雷鳴が轟くような彼の声がして、そして雷が落ちるように声高に真名解放の後に彼は宝具を放った。
「刮目せよ!神の雷霆は此処に在る。さあ……御覧に入れよう!『人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)』」
空に雷霆が轟き、そして轟音と共に機械兵に向けて放たれたそれは瞬時に彼らを焼き切るが、それの反動を強く受けたテスラもまた地面に膝を着いてしまう。
「博士ッッ!!」
明らかに魔力消費が激しいとしてエクレールはテスラを支えようとするが、さらに奥から機械兵達がやってこようとするのが見えてはどうすればいいのか分からなくなり、ただ彼をみつめた。
「ど、どうしよ、博士?博士どうしたら」
「逃げ、るんだ……ホテルならまだ安全のはず、とにかくそちらへ」
「あぁ消えないでくださいよ!霊体化だけにしてください、敵も…あぁどうしよ」
エクレールは慌てふためいて迫り来る敵と魔力消費により維持が難しいテスラにどうしていいの分からない時、左腕のブレスレットが光るのを感じた、先日調整を終えたばかりのブレスレットの機能を思い出しては彼女はどう使えばいいのかもわからずにラピスラズリを指でなぞると、それは彼女に反応するように光った。
敵は立ち上がり、また何十機も襲いかかろうとするのを見てエクレールは倒れて身を寄せるテスラを腕に抱き寄せては「本当信じてますからね博士」といって左腕を相手に向けた。ガンドは撃てないが魔力を濃縮して放つということだけは理解している。自分のほんの僅かな魔術回路を辿るように彼女は思い浮かべて力を込めると、覚悟を決めて祈るように呟いた。
「ガンドッ────!」
それは正確にはガンドではなかった、テスラの雷霆のような電磁波が銃弾のように放たれた。実際に彼女の魔力に反応してテスラの電気が反応して放たれる超電磁であり、放たれたそれは瞬時に機械兵を破壊し尽くしたことに驚き「うそぉ」と声を漏らしたが、自分にもたれ掛かるテスラを見つめては慌てて彼に霊体化を命じてホテルに向けて走り出した、公園からビルへ、ビルから地下鉄へ、地下鉄からトンネルをくぐりホテルに戻ると現界したテスラがベッドに倒れ込むため彼女はただ苦しそうにしている彼を見つめてはその胸に顔を埋めた。
「お願い、お願いします博士、離れないで……」
それはサーヴァントという強い力を持つからではない、彼に向けての言葉であるがテスラは眠りにつくように瞼を閉じた、三三二七号室、そこはテスラの最後の部屋だった。
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