第十四話
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性行為だ──と言われたと同時にエクレールは近くのクッションをテスラに投げつけて林檎のように赤く染った顔で彼を罵った。
「せ、せ、っあぁもう!なんですか!最低っ!変態っ!この唐変木博士っ!!真面目な顔して言うと思ったらなんて人なんですかバカぁ!」
「いたっ、こらっ、エクレールやめなさい、暗い部屋だアイタッ!」
まるで子供が駄々を捏ねるように声を上げて抗議するが当然のことだろう。テスラは彼女の身体を知らぬ間に調整した上、さらに自分の出力に合わせて彼女を作っていたのだから怒られても当然だ。
カルデアにはテスラ以上の論理感のない科学者や錬金術師などはいるが、それでも流せたのは自分の身体に触れることなどないからだ。先程の口付けに関してはあくまでもテスラが彼女に行った時同様の緊急性のものであり、ほんの少し延長したもののそれでも建前を作ることはできた。
だが口付けならまだしも肉体的接触など断じて、はいそうですか。と受け入れられる訳もなく、彼女は毛を逆立てた猫のような姿をしておりテスラは「おぉ、怒ったマチャクに似ている」と呟くとまたクッションが顔に投げつけられた。
しかしテスラも決して彼女を抱きたい為の言い訳として告げているわけではない。カルデアの通信や供給が途絶え、エクレールの魔力は以前よりもマシとはいえ彼を維持するには拙い、彼が依存しがちな電力も一時的なのか永続的なのかは分からないにしても止まっている。部屋の中のテスラコイルもチカチカと光っているが限界はどうやら近そうである。
「悪いとは思ってる、君を守るつもりだったが本来はこんな風になるとは予想はしなかったんだ、また先程の提案に対しても実際にパスの繋がりのない者たちが繋げるために行うというのは実例もあるし、論理には基づいている」
「論理だけで人は出来てないでしょ」
冷たいエクレールの言葉にテスラは言い返せなかった。
彼自身も様々な研究を行っていたが、動物実験などに関しては肯定的ではなく、基本的には自らを実験にすることもあった。論理に基づいて何事もみているテスラでも人の感情が分からないわけではない。彼は美しいものを美しいと思うし、そうではないものを否定する。今でこそ病名がついているが生前の彼はあまりにも神経質だと言われているほどで、英霊になった彼は多少マシでも、愛や豊穣の神や色慾の化身のような英雄とも違う、博愛主義者であるが彼が人類を愛するのは未来と希望と光を見出すからだ。
黙り込んでしまうテスラにエクレールはベッドに腰かけて少しだけ黙り込んだ。
沈黙はまるで電気が肌を指すように互いを痛めてしまう。
「博士の仰ることは私だって理解してますよ」
それはエクレールだからこそ理解していた。
カルデアのマスター藤丸立香は一般人だが特別だ、彼はカルデアと契約をしてカルデアを経由してマスターとなっているため普通とは違う。普通の聖杯戦争になど決して参加することさえ難しい少年だったのだ。
エクレールは反対に魔術回路を持ち、魔術師だといえなくはないが実際の魔力は一般人に毛が生えた程度で、本来の聖杯戦争に参加するなど烏滸がましい、参加出来ても直ぐにサーヴァントに捨てられるか、初戦で敗退するかのどちらかで、今もテスラという知識ある科学者だからこそ互いにギリギリを生きている。
彼が言った性行為は単なる行為ではない、彼が告げた通り『パス』を一時的にでも繋げるものだ。本来の彼のマスターはカルデア経由の藤丸立香だが、一時的にそれが消えてしまっている彼はいわばはぐれサーヴァントに近いだろう。そしてエクレールはカルデアの記録係というしがない魔術師であり、テスラは彼女の魔術回路を広げて使えるようにしていた。
本来パスはサーヴァントとマスターが繋がっていれば問題ないはずのもの、だが今二人はその関係性ではない上に、彼女は三流以下の魔術師であり他の魔術師のように二つ返事で契約できるような能力を持てなかった。
また体液による魔力供給は非効率であり、どれだけ重ねても所詮は体液でしか魔力を得られないため、魔力供給のみを目的にする場合は意味をなさない。
しかしパスとはいわば見えない電波のようなもの、離れてしまえばその分弱まり、近ければ強くなる。相性やパスの繋がりによれば手を繋ぐだけでも供給に繋がるのだということはエクレールも理解していることだった。
だからこそテスラの言葉は何も間違っていない、そして彼女がそう反応することをテスラも間違いではないと理解している。当然だ、彼らは魔術師ではない。
ニコラ・テスラは科学者で、エクレール・アヴニールはただの記録係、二人はあまりにも普通の"人間"なのである。魔術師という根源や世界の理を求めるために全てを捨てられるような感覚は持ち合わせてはない、普通の人間なのだ。
三三二七号室はとても静かだった、電池で動いてる時計の針が小さく音を奏で、テスラコイルが小さく青い電気を放つのみ。時間だけは刻一刻と過ぎていくのを感じ、テスラは議論は出来ないかと諦めようとした時、部屋の中に女の声が一つだけ残った。
「それで本当に上手くいくんですね」
「理論上は……あぁいや、もう少し正確にいえば私の第三スキルとなる"星の開拓者"を使用する、これは不可能を可能にするスキルだ、君の魔術回路をより私に近い形にすることで、カルデアのパスよりも強いものにはなるだろう」
「一時的に、ですよね……はぁ、それっていつから考えてたんですか」
「君のことを調べた時に、可能性を考慮した迄だ、本来はブレスレットのみで完遂する予定だった」
失敗だと苦笑いするテスラに、まぁそういう時もありますよとエクレールは返事をしてはベッドから立ち上がりカーテンを閉めていた外を見た、ニューヨークの街はやはり死んだように静かであった。ホテルにいることはまだバレていない、またはここに固有結界でも張られているのだろうと感じて小さく考えながら振り返るとテスラはやはり怒られた子供のような、叱られた子犬のような顔をしており、彼女はどうしようもない気持ちになった。
「博士、潔癖症なんでしょ?出来るんですかそういうこと」
「君となら平気だ」
「女の人、抱いたことは?」
「………なくは、ない」
か細いような声と真っ赤な顔にエクレールは呆れて腕を組んで彼の前に経つと見上げた、歳にして彼は四十代くらい、それがニコラ・テスラの全盛期だ。彼が生前から女性と深い関係であったということはあまり記述されていない。好意的に思う相手はいたことは知っているが彼は生涯独身で、その上この部屋で鳩を生涯の伴侶としたことも知っている。
「嘘つき、見栄を張らないでくださいよ」
「見栄じゃない……が、まぁ多少の虚栄心があったのは事実だ」
「構いませんよ、わかってますから、それよりテスラ博士は本当に触れますか?人の身体もそうだけど、別に私初めてって訳じゃないですよ」
意地悪ではなく、意思確認だ。エクレールとてテスラに抱かれることを嫌だとは思わない、反対に俗な彼女の考えとしてはこんなに美形の男に抱かれるなんてラッキーだと冗談だって言えるほど(もちろんそんな事は言わないが)
しかし生前の記録からみても彼がそうしたことを好まない、また経験がないのであれば男性が女性を抱く時に思う様に、女性も男性に思う気持ちがある、嫌な気持ちを味わせたくない。他の男に触れられた女を穢らわしいと思うのならそれでいいと思った。
「私の唇も君が初めてでは無い」
だがテスラは真剣な顔で答えた。
どこか堂々として自信満々な態度であり。
どうだ?と言わんばかりだった
彼女は目を丸くして、そして少し間を開けてから「ぷっ」と声を漏らしては笑ってしまう。そんなキス程度でどうしてそんな顔を四十路の男が出来るんだと笑ってしまう、なんてかわいい男なのかと感じられてカノジョが耐えきれずに笑うとテスラは顔を真っ赤に染めて「何がおかしい!」と声を荒らげるものだから、彼女は腹を抱えて涙を拭いながら謝ってはテスラの胸元に手を添えた。
「屈んでください、キスができないでしょ」
どうせ一度のことなんだから、雰囲気くらい大切にしてください。
そういった彼女にテスラは腰を曲げると二人の唇は重なった、それは暗い海の中で酸素を分け与えるような味(もの)だった。
◇◆◇
「本当にこの部屋で、このベッドでいいんですか、別の部屋にしますか?暗いですしロウソク探してきましょうか、あとえっとなんかほかに」
「君の方がずっと落ち着きがないではないか、慣れてるのでは無かったのか」
「慣れてるのと経験があるのと、あれのそれとこれは違うでしょ、私だって緊張してるんですよ!」
死んだ街ニューヨーク、その街の一流のホテル、ザ・ニューヨーカーホテルの三三二七号室にて男女の声が小さく響いていた。狭いシングルベッドの上には巨躯の男に組み敷かれた女が一人、二人は服を脱ぎ去り、まるで性格が出たように服を綺麗に整えて近くのソファに置かれてあり、下着姿の彼女と白いインナーとグレーの下着と白い靴下にメンズのソックスガーターを履いたままのテスラがいた。
「靴下脱がないんですか」
「寒くなるだろう、万が一があった際に靴を履かねばならんが靴下を履く手間が省ける」
「靴下履かずに靴を履いたらいいでしょ」
「マヌケめ、アホめ、そんな不衛生極まりないことをしてみたまえ、あのライオンヘッドのように不衛生になるではないか」
「ベッドの中でもエジソンさんのこと言うんですね」
「他の男を口に出すな!雰囲気を分かっていないようだな」
どちらがだと彼女は思いつつも、こうして軽口を叩けるだけでもマシだと思った。ニコラ・テスラが亡くなったベッド、そこに彼女は横になり、ニコラ・テスラに触れられようとしているのはあまりにも不思議だった。
だがニコラ・テスラが亡くなったというのは彼女は紙の中でしかしらない、彼がどんな最後なのか、本当に亡くなったのか、ベッドの上にいてもそれを感じられないだから不思議なものだ。
くだらない軽口を終えるようにテスラが彼女の頬に手を添えると、薄い暗闇の中でも彼の夜を照らす光のような蒼い瞳が彼女を捉えて、彼女の瞳もまたその光を見つめると、触れるように唇を重ねた。
魔力供給──パスを繋げる──それは特例処置であると互いに理解していてもなお、そこに情を抜くことは出来ないのは互いを思いやる気持ちがあったからだ。
「君の肌は美しいな」
「恥ずかしいこと言わないでください、普通でいいですから」
「思ったことを口にした迄だ、それに普通は生憎と分からない」
触れるのは初めてだと告げるテスラに彼女はいいのだろうかと思った。
まるで聖者を穢すような気持ちになってしまえた。男が女に夢を見るように、彼女はテスラに夢を見ている。女も知らない天才科学者に自分という女で本当にいいのかどうか。彼の気持ちが分からないわけではない。反対に嫌という程理解しているが互いの関係性から認められなかった。
マスターとサーヴァントでもない、サーヴァントと記録係、何処にでもいる人間でしかないのだと彼女は自分が狙われようとその役割を伝えられようと思った。普通の感性を持つからこそ、テスラに触れられるのは心地よくて、彼が頬に触れる手をゆっくりと下ろしてピアノの旋律をなぞる様に繊細に彼女の肌の上に日頃の研究や開発で使われた節くれだった指先が触れるのが心地よく感じた。
部屋の中は薄暗くテスラコイルの電気が時折部屋を照らして、二人以外この世界にいないように静かであり、オゾンやコーヒーにシャンプーの香りが混じって、まるで二人きりの家だと思えてしまう。
彼の手が少しだけ震えて彼女の胸に置かれる時、互いにこの行為が不要だと理解しているのに、恋人のような行為を甘んじて受け入れて、テスラが彼女の首筋に顔を埋めて息を吸い込むのがわかった。部屋のシャワーを借りたばかりだが緊張で汗ばんでいるのではないかと彼女は思った。
「フェロモンの香りだ、首筋やうなじは強い香りを放つというが、今日の君はいつもよりずっと蠱惑的だ」
「博士もいい香りがしますよ、いつも清潔感があって、シャンプーの香りがして、なんだかとっても安心します」
「他の者たちの衛生観念が足りてないだけだ、私は至って普通…あぁいや、科学的には解明されている、君が私の香りで安心するのはHLA遺伝子のせいだ」
自分と免疫タイプの遠い相手ほど、体臭などに安心感を抱くことや、思う気持ちがあるためにオキシトシンが溢れたり、匂いを記憶する大脳辺縁系が普段の行動や記憶から安心感を与え……
「博士、そういうのはいいんです、私も博士も相性がいい、それでいいでしょ?」
「…あ、あぁ、パスを繋ぐには相性が一番だ、私と君はそういう事なのだろう」
テスラは自分の思考がまた独り善がりになったのを感じて、手綱を握る彼女にハッとして手のひらの中の感触を味わっては、あまりにも柔らかい男とは違う女性の肉体を感じては固まるように眺めるため、彼女はしばらく見つめたあとテスラの首に手を回して胸に抱き寄せては心臓の音を聞かせた。
ニコラ・テスラは母親を愛していた、発明家で勤勉で誰よりも尊敬できるその人、兄を失い悲しみに暮れる両親を見て、彼は両親の為になりたいと思った、甘えられぬ日もあったが沢山の愛を与えられ、そしてまた彼もそんな母を深く愛したのだ。彼が鳩を愛したのも幸福やその母の温もりを感じたからだと言われており、エクレールは自分の胸に顔を寄せたテスラの髪を撫でた。
「君はいつもずるい人だ、私の理論に何一つ当てはまってくれない、感情論ばかりだ」
「私だって博士にそう思いますよ、どうして感情を分かってくれないのかって、お互い様です」
「そんなことはない、私は君の感情をよくわかっているさ」
心臓の音を聞いていたテスラは顔を上げて彼女を見つめるとその左手を取り手の甲に唇を重ねた。
「私を想ってくれていると」
真っ直ぐとしたテスラの言葉に彼女は言い返せずに視線を逸らしても頬の熱は冷めない。首筋を優しく撫でられて背中に腕を回されるとシンプルなブラジャーのホックが外されて、テスラは丁寧に脱がせてやると近くの椅子に丁寧に畳んで置いてやるのは律儀だが彼らしいと思えた。
心臓があるその胸を眺めては、彼女はやはり特筆すべき点はなかった、カルデアにいる英霊をみていれば、傾国の美女も女神も女王も芸者も、古今東西ありとあらゆる女性がいる。テスラにとっても美しいと思う女性たちはとても多いが、それでも目の前の平凡な彼女が美しい以上に彼の心を満たしてくれる。
その肌に手を添えて、柔らかな乳房を掴んで形を歪ませるとまるで粘土を捏ねるような気持ちだが、人体であることや触れ慣れない異性の肉体に緊張して優しく触れながら舌を伸ばした。
赤子が母の乳を飲むように、不器用な男が女に甘えるように接すると、彼女はテスラのブルネットの髪を撫でた。一瞬テスラの目が彼女に向けられるが彼はそれを甘んじて受け入れる。
他人に触れられることも、触れることも、彼は決して好まない、それも布一枚の隔たりもない行為など有り得ない。服を着て行おうとエクレールは提案したがテスラは汚れるからといったあと訂正して「君を見たい」と告げたのが、彼女にとってどれだけずるい言葉なのか、彼は分かっていないだろう。
乳房を味わい尽くしたテスラは彼女の胸から腹を撫でた、薄すぎない健康的な肉体は彼を好ましく感じさせて、指先がショーツの中心部に向かうと彼女は足を薄く開いた。
熱がそこにはあり、既に彼を受け入れようとしているのがわかると彼女は顔を背けシーツを小さく指先で握るため、テスラは静かにそれを脱がせた。絵画などで見たことのある女の裸体は、宗教画よりも美しいと感じられた。男とは違う身体の曲線、自然についた健康的な肉付き、テスラは人の身体を血と肉と骨としか認識していなかった、女性の肉体は魅力的であれども、彼がいまエクレールの肉体を見て感じたような感動はないだろうと思っていたのだ。
「本当に君は綺麗だな」
「博士もインナーを脱いでくださいよ、私ばっかりズルい」
「それはそうだな」
納得したテスラは重たかったコートやジャケットを脱いだ時のようにインナーを脱いで丁寧に畳むと、互いの服の上にまたそれぞれの服を置いた。英霊だから多少はと理解していても、テスラは生前からこう身長でスラリとした体型だった。恰幅が良くて肩幅もしっかりしており、アーチャークラスなことも相まって頑強さが伺える肉体は他の科学者サーヴァントよりもずっと屈強に見えたものだ。
彼がベッドの上で動くとスプリングが軋んで少しだけ身体が揺れた。
もう一度また見下ろされると、続きだと言うようにテスラは優しく唇を重ねながらその手を彼女の下着を取り払った秘所へと滑り込む。
薄い茂みに彼の指が触れる時、妙な緊張感がありつつも、テスラはそこに本当に薄い潤滑液が溢れているのを感じて、中指で掬うとゆっくりと広げるように撫でた。
「っ、ぁ」
時折掠める彼の指にほんの僅かな声が漏れる、テスラは動物的本能や多少なりとも得た知識を元に彼女に触れた、キスをして美しいと言葉を告げていくと時代に潤滑液が溢れる素直さに心が満たされて、決して拒絶されてないのだと思いつつも彼女の顔色を伺ったあと、その長い指を沈めた。
正直なところ、その感触は内蔵でしかない。何もロマンもときめきもなく、反対に人間の身体で生きたまま内蔵に触れるなど不思議だと彼は思うが、彼女を見つめれば重たい息を吐いてねつっぽい支線でテスラを見返すことに、彼は異様な熱を感じた。
「ッ……ぁ、はか、せ」
「痛くはないか、苦しかったり嫌だったりするようなら言ってくれ、難しければ私の手を握るなり背中を叩いたりでもいい」
「平気っです、久しぶりだから……ちょっと、慣れないだけで」
「そうか、ゆっくり進めよう、回通を急いても仕方無いからな」
魔術は理論に基づいているのに感情や相性というどうしようも無いものを求める時がある。非効率でまったく理にかなわないというのに、それだけで収まらないのが人の常なのかもしれない。
テスラは自分の指で次第に普段とは違う吐息を漏らして、ゆっくりと内側を濡らして和らいでいくその場所を感じながら指を増やした、彼の指先に粘着質な体液で汚される時、彼はその高濃度の魔力の塊のようなものに酔ってしまいそうなった。二本、三本と指を増やしていくと十分だと察するテスラは指を抜いたことに彼女はながめると彼はその指を口に含んだ。
「なにしてるんですか!」
「体液は高純度な魔力を宿してるだろう、今は一滴でも無駄にするのはよくない、それに私の魔力を君に一部注ぐんだ、パスを開通させるとはいえ貴重な魔力なんだ、少しでも貯めておかねばな」
「でも、その……あっ、ちょっと博士!?」
「嫌なら目を閉じればいい、素数でも数えて現実逃避でも構わんさ、だがこれは君と私の契約(儀式)だ、我慢したまえ」
「それでも、嘘でしょ、博士本当にやめた方がいいですよ、あなたそんなのするタイプじゃないじゃないです……か、ぁ」
テスラは指を綺麗に舐め終えたかと思えば彼女の足を掴みその熱を穿つことはなく、その薄い濡れた茂みに顔を寄せようとするため彼女は真っ赤な顔で抗議するが彼はあくまでも効率のためだといい、彼女も嫌というほどそれを理解していたが彼がそれをすることを受け入れ難かった。
彼が行う行為を決して嫌がっているわけではない、だが"あの"ニコラ・テスラなのだ、潔癖で強迫観念を持つと言われる男、そんな彼にそのような行為をされるというのは信じられないと言うのに、テスラは彼女の太ももの裏を大きな手のひらで掴むと足を広げてその通った鼻筋に彫り深い顔をそこへ向けて、赤い舌を這わせた。
甘い魔力と女の塩っぱい味が広がる、官能的で濃厚なそれを舌で感じるテスラはシーツを握って必死に耐える彼女をみつめながら、どれだけ自分が卑怯な男だろうかと感じざるを得なかった。
恋人でもなければ友人でもない、一方的には彼が押し付けた関係であることはエジソンの言葉でいわれなくとも分かっていたのだ。それでも彼女を隣に置いて見たいと思ってしまった。手の届くところで目に入る場所にいて欲しいと、そしてそれは他の人間に向けるものとは全く違う、彼が過去に愛した人へ向けた感情に似ている。それどころかもっと深くて濃いものなのだ。
「はぁ、ぁ……博士」
普段の声とは違う、泣きそうな甘えた声がテスラの胸を締め付けドーパミンが溢れるのを感じつつ、テスラは溢れる魔力を求めるのではなく、彼女の蜜を確かめるように唇を濡らした。
「はか、せ、だめ……ッ気持ちいいの、あ…」
頭上から聞こえる彼女の声にテスラは男として満たされて、舌を這わせて指で撫でて彼女の身体に触れる。ピアノの調律を整えるような優しくも丁寧に快楽を少しでも与えたいという願い、ベッドの上にいる二人は決して魔力供給という建前から離れていた。
ただ愛し合う男女として触れ合い、彼女の奥が震えて甲高い声が上がり、高濃度な魔力が溢れるとテスラは顔を離して彼女を見下ろした。
それはあまりに美しいヴィーナスのような姿だろうか。
溢れた涙が彼女の目頭に溜まって、紅潮した頬は美しい夕日のようで、魔力に反応したように部屋の中のテスラコイルが電気を散らして部屋に明かりを灯す。彼が触れてきた指先や舌を彼は深く覚えており、彼女の身体を自分が辿るように触れたんだと胸の内の中で感じながら自身の膨張したもので苦しくなった下着を感じながら脱いでは乱雑にソファに投げ捨てるように置いて、彼女の上に戻り見下ろした。
熟れた果実のような彼女を見下ろしてテスラはこれが最後の工程だというように見つめると互いの視線が交わり合う。それは一人の男と女のものであり、彼をみつめたエクレールは微笑んだ。
「全てをあなたに委ねます、だからお願いします、ニコラ博士」
「あぁもちろんだエクレール、必ず君を傷付けないと約束する」
愛する人に触れるようにテスラは鼻先や頬や顎先にキスを落として、そしてもう一度見つめ合うと二人は一つとなった。
強い電気が流れるようなその感覚に二人は確実にパスという目に見えない繋がりが結ばれのを感じられた、深くまで繋がるとテスラは肩で大きく息をして、眉間に皺を寄せるものだから下から見上げる彼女は彼が本当に女を抱いた経験がないのだと感じた。上辺だけではなく本当に彼に抱かれたのだと思うと胸が満たされてしまう。
「エクレール、待ってくれ…ッ、今その圧力と高純度の魔力を流すのはッ…困る」
「別に意図して、ませんっ…博士こそ、っ熱くしない、で」
「博士じゃない、ニコラと呼ぶんだ…ッあぁクソ…こんな高出力だとは、想定外だ」
互いに予想していない熱量だった、経験のあるエクレールでさえ魔力が交わるというのがこんなにも熱くて互いの身を焦がす行為なのかと余裕を失ってしまいそうであり、指先の色が変わるほどシーツを強く握ると、テスラがその手を優しく掴み左手のブレスレットが二人の交わった魔力に反応するように微かな光を宿すように二人が気付かぬ間に光った。
テスラは呼吸を整えて「動くぞ」と低い声で呟いては彼女の足を自分の腰に絡めさせて覆い被さるように腰を深めた、ゆっくりとした拙い動きから次第に慣れていくと互いの声や吐息が交わり、部屋の中では二人の男女とベッドの軋む音が響く。
魔術回路が開かれていくからか──
互いのパスが繋がろうとするからか──
二人は互いの記憶が交わっていくのを感じた。
エクレールの頭の中にはテスラの人生が流れる。少年が猫を愛し、そこから生まれた疑問を広げたこと、渡米して発明王に出会い衝突し、様々な苦難を重ねて、彼は静かに公園で鳩に餌をやり、あまりにも悲しく貧しい最期。
けれど彼は最後に光を得ていた、真っ白な鳩との最後の別れ、それは彼の最後がもう近いことと、幸福と未来を主張するようなもの、一人静かにベッドで横たわり瞼を閉じた彼。
それを感じたエクレールは自然と涙がポロポロと零れていた。
テスラの頭の中にはエクレールの人生が流れる。何処にでもよくある家庭の少女、平凡に生きて平凡に生きて、当たり前に人を好きになり、当たり前に人に傷つけられて、悲しんで笑って泣いて、普通すぎる人生であった。
だがカルデアに彼女はいた、召喚室のテスラを捉えて仕事の顔をして、二度目の時に名前を聞かれてテスラが彼女を助手にすると言った、毎日彼女を困らせるような態度だった、それでもあまりにも彼女の映像には彼が多かった、愛おしむような呆れたような困ったような、誰よりも求めるような目を彼女が向けていたのだと感じた。
腕の中で涙を流す彼女を見下ろしたテスラの胸には論理や科学や数字はなかった、ただ目の前の彼女に一人の男、ニコラ・テスラとしてのみで見ることしか出来なかった。
「……エクレール、君は本当に素敵な人だ」
「……ニコ……私、あなたが…」
互いを強く抱き締めて求めた「愛してる」と言葉を口にすると満たされて、「愛してる」と耳にすると胸の内が溢れてしまいそうになる。
そしてテスラは彼女を包むように抱きしめたあと、最奥へと自分の熱を注ぐとき、互いが深く繋がったのを感じた、足先まで感じる電流のようなものだったが、それが二人を繋ぐものだと強く感じて二人は目を見つめてそして小さく微笑んで瞼を閉じた、ラピスラズリのブレスレットはテスラコイルに照らされて光る時、世界は照らされたように感じるのだった。
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