第十七話
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ロングアイランドの海岸沿いにかつて建設されていたウォーデン・クリフタワー。
それはかつてテスラが今もカルデアでいう『世界システム』という、無線通信・無線送電などを行い全世界が全て電力を通し無線で簡易的に行えるようになるという、まさに現代の人々でさえ思い浮かべる近未来の世界へ向けた理想のものであり、かつてのニコラ・テスラは大富豪J・P・モルガンの支援により建設させられたが、最終的には相手の理解を得られず資金は援助され、夢は閉ざされる形となった。
一九一七年頃には解体をされ、現代では存在しないはずのそのタワーは彼の宝具とはまた別で、実際にその場所に建設され残っていた。
空は真っ暗で雷鳴が不気味に鳴り響き、建物の上に建設されたタワーの上の円形部分は雷を受け止めるような通常のデザインとなるが、それはテスラが作り上げたデザインにさらに手が加えられており、円形状のその場所にテスラコイルが囲うように設置され、中央部には透明な球体上の檻があり、その中にはエクレールが左腕を繋がれては必死に外に出ようともがいているのがみえた。
分厚い檻と彼女を繋いだコードのせいで繋いだばかりのパスが薄く感じられるがやはりこの地がテスラを呼んでいるかのように地面から彼に循環する魔力を感じさせた。
街中だったニューヨークのミッドタウンからショアハムまで先に転送術で転送してもらったテスラはマスターとマシュを横に控えさせていたが、その後ろから合流したほかの五人もそのタワーを見るなり、あまりにも禍々しい魔力を帯びたそれに唾を飲み込んだ。
薄暗い空からは赤い雷霆がタワーに向けて落ちる時、タワーの中にいる彼女は怯えていたのを見てテスラはすぐに助けに行こうと足を踏み出すとき、建物から真っ黒なスリーピーススーツに赤いネクタイをした紳士が現れる。魔力を感じられるが魔術師ではない、どちらかといえばエジソンやテスラに似たような科学者の雰囲気をまとった男はカルデア一行をみては客人が来たのだというような顔をしたが雷が落ちると男の顔のノイズが走った。どうやら姿を擬態しているのかと本体が別にいるのかと思うがエレナが「今回の黒幕本人よ、見た目を偽ってるだけね」といい、男は言葉を聞くと指を鳴らすと同時にノイズが走り、本来の姿を表した。
「な……」
「博士?」
それはニコラ・テスラによく似た男だった。
男は「薄々わかっていたのだろう?私はこの世界の君だと」というとき、一羽の真っ黒な鳩がやってきて彼の肩に止まる。確かに姿はテスラそっくりだが、少しだけ見た目も違い、そしてなによりも相手の目には薄暗い闇しかなかった。まるでこの世界に絶望をして苦しんだような表情であり、身構える彼らをみながら目の前の男はポケットの中を漁るため、攻撃かと身構えるが彼が取り出したのは一つの銀色のラピスラズリがついたブレスレットだった。
テスラしか外せないようにと彼の魔力を混ぜたそのブレスレットが外れたことから、どうやらテスラの目の前の男は同一の魔力基盤を持っているようで、彼は手の中でブレスレットを空に掲げてみつめた。
「本当によくできている、神性の強い不純物のないラピスラズリに己の魔力を注ぎ万が一でも使えるようにしてること、そしてその魔力が使用者の気付かぬうちに肉体に注がれて魔力回路をを弄り、広げて自分の形に合わせる。カルデアの召喚基やシステムもいくつか応用してる、完璧だ、言葉にないほど美しい」
「当然だ、私がくだらない発明品を作るわけがない、それよりも彼女を返してもらおう」
うっとりするようにブレスレットを眺める男がテスラの声を聞くと彼は重たいドロリとした聖杯の泥のような瞳で彼らを捉えて、冷たい声で返事をした。
「ダメだ、もう"接続"を始めているのでな、"観測者"の記録を抽出するんだ」
観測者の記憶──それはこの地球が始まり人間が生まれた時から今ある時期まで記録したものであり、通常普通の人間には扱えないものであり、観測者たちはそれを引き継いでいるとしても全ての記録をみることは不可能に近い。何百万年という記録を人間の体で呼び起こそうものなら脳が焼ききれて死に至る。
それはカルデアの面々も知っていることであるが、男も理解していたため、彼はしっかりと彼らに説明した。
「だから"聖杯"を用意した、これがあれば彼女の肉体が崩壊する前に、その観測能力と記録だけを綺麗に摘出し、あの機械に閉じ込める。そして完成したこの電波塔から、彼女の観測能力を『交流電波』に乗せて世界中へ放射するのだ」
「あのタワーは私の設計だ!そんな悪趣味なものを組み入れる気はない!今すぐ中止しろ!」
テスラの右手のガントレットがバチバチと火花を散らすが男は彼らを見て呆れたような目を向ける。
「この世界は間違いを犯した、それは認めよう、だが私は今いる人類を守らねばならない。この世界では魔術師と科学者が手を取り合い、観測者のいない世界でどうすればいいのか考えたのだ」
観測者と呼ばれる人間は価値あるものだが、あまりにも平凡であった、彼らは観測者をもっと知性があり、もっと優秀で、もっと完璧でなくてはならないとした、つまり彼らは"観測者"を神聖したのだ。
それ故に本来の性質ではダメだとして捕まえてパーツを奪ったが上手くいかなかった、次第に話は大きくなり国家レベルで観測者を捕まえてその記録や観測者の能力を得ようと模索した。観測者は認められればいいだけなのだから次々と現れた、女も男も子供も老人も問わずに同じ魔力を宿しており、全員がのんびりと過ごして世界を観測しており捕まえることは容易だった。
「在庫切れが起こるとは思わなかった。なにせアヴニールは血筋ではなく初代観測者の"契約"に基づいているからだ、名前を継ぐものアヴニールに関わる者が順番に巡って行った、この世界に人間が何億人いるとおもう?だから問題ないと我々は思ったのだ」
研究者でありながら資源が無限だと思ったのはあまりにも高慢であると男は自嘲気味に笑うが、それらを聞く彼らは歯を食いしばったり心から嫌悪したような表情で目の前の男を見たが彼は気にせずに話を続けた。
異変を感じたのはそれまで記録にあったものが消えていること、自分たちの記憶も朧気になっていることからだった。
そして人がゆっくりと消えていった、まるで都市伝説にでもあったように消えていき、魔術師や観測者について関わった者たちが残されていくことにより、彼らは本格的に観測者がいかにこの世界に必要なものだったのかを理解した。例え観測者が全ての人間の隣にいなくてもその世界にいるだけで職務を全うしているということだと気付いた時には遅く、観測者は完全に途絶えてしまった。
彼らは早急に過去未来を探し求めたがどの世界も"観測者"はいなかった、世界はなかったことになろうとしており、悩み始めた時、彼は小さな星を見つけるようにカルデアにいる"観測者"をみつけた。
ほかの観測者よりも特殊な場所で過ごして、さらに魔術回路がほかの者よりも広がり、魔力も濃くなっていた、そして彼はその世界のニコラ・テスラと共にいるのだと知り歓喜した。彼が観測者を管理しているのは好都合であったからだ。
何も力を持たない観測者よりも、魔力のある観測者の方が器にずっと見合う、安定と安全性があり、胸を張って利用できるのである。
「このまま"観測者"を抽出し、ひとつの機械にして電波に乗せて世界に広げれば世界は観測される。そして滅びゆく世界は救われる!!そして素晴らしいことに、人間という種はこれから百年、いや千年、いやそれ以上か?そうきっとそれ以上に電力を求めて使い続ける!聖杯の力も含めて完璧な機械化された観測者はその電波が流れる限り永遠に"観測"し続ける!!」
──そうすれば世界は、この地球は、永遠に安定される!!
男が声高に宣言すると落雷がタワーを揺らした。
それを聞く彼らは絶句した、自分たちのエゴからここまで一つの一族を、一人の人間をめちゃくちゃにしてしまうのかと思えたからだ。
ニコラ・テスラはその額に青筋を浮かべては火花を散らして相手の意見を受け入れることを許さなかった。
「ふざけるな!!彼女は人だ、泣いて笑って怒って平凡な当たり前の一人の女性の人生を歩んでいる、それを無視して論理も無くしてすることなど科学者の風上にもおけん!」
「勘違いするな、彼女は人ではない」
ハッ────とテスラの声が漏れるが、男は無機物を眺めるような目をして、まるでバカにでもわかるように説明しようと言いたげに答えた。
「考えればわかるだろう、あれは一種の"バグ"だ、数世紀前の大魔道士オブセル・ウァートル・アヴニールが勝手に作り出したものだ」
オブセル・ウァートル・アヴニール──それはエクレールたちアヴニールの名を継ぐものの祖となる大魔導士。かつて妻と子を失い消えゆく人々の記憶を記録するために自分の全てを使い"観測者"を作ったことが始まりだった。
それもまたエゴであるが、愛があるとテスラは認めていた。
しかし男はウンザリしたような憎らしそうな顔をしていった。
そもそもオブセルが"観測者"を作ったことが間違いであり、それを許したのは人類である、しかし時代が進化すると同時にその仕様は古くなり欠点が現れる。
それは時代の進化として当然で、猿が人になったように、人々がペンではなく電子機器を持つようになったしたのと同じであり、この世界の彼らは観測者に不要なものを取り除き、機械化すればより安定した観測を得られ、怠惰な観測者自体も永久的に仕事を与えて貰える。
どれだけ世界が機械化されて人々が機械に仕事を奪われても観測者は仕事を得られるのだから幸せな身分であるだろうという。
「感情など不要だ、手足を使ってフィールドワークのように観測を続ける必要もない、平等で安定、それこそ貴様も理解できることだろう」
「分からんな、彼女は一人の人間で女性で、私の助手だ」
「……だから貴様は夢を叶えられなかったんだ、人々に搾取され、下らない苦しい人生を歩み、嘲笑される、夢に破れたのと同じだ、形はどうあれ、私は君の夢を叶えてやる『世界システム』を完成させよう、この聖杯と'観測者"を持って!」
赤い雷霆がタワーに落ちる時、青い雷霆がそれを阻むように落ちた。檻の中のエクレールは既に抽出が始まっているようで痛みに顔を歪めて苦しんでいるのが見えるとテスラは血が出そうな程に拳を握った。
「私の『世界システム』は、人類に無限の光と未来を与えるためのものだ。誰一人として、一人の人間の命を踏み台にするような、そんな醜悪なシステムを私は断じて認めん! 貴様が語るものは科学ではない! ただの傲慢な略奪だ!」
「貴様は一人か多数かを選ぶ時、両方を救うという愚か者か、同じ私なのだからもう少し賢い男だと思ったのだが」
男がブレスレットを装着するなりペンを取り出し、それを描き始める、まるでキャスターの詠唱のようなことを始める彼に驚くがマシュが「魔力反応多数!市街地と同レベル、いえそれ以上です!!」というなり雷霆が何発も地面に落ちて、タワーの地下から溢れ出てきた機械兵たちが数百体規模で現れ、さらに空を覆うような巨大な機械兵が現れる。胸には心臓のようにテスラコイルをつけており、空は荒れて神が怒りを表すようだった。
戦闘態勢に入る中、テスラは火花を散らして青い雷を撃ち落としながら右腕のガントレットを前方にやり、出力制限もなしに目の前の機械兵を電磁砲で打倒した。
檻の中の彼女は必死に出ようと藻掻くが赤黒い雷霆が落ちると、檻の中に直接降り注ぐようであり、彼女が痛みに声をあげるのがテスラの耳には届いていた。
男は背を向けてタワーに向かうのを見て、テスラはただ目の前の敵を排除することに専念しつつ、その大地自体が彼に力を与えてくれる理由を理解した、ここは別世界の自分の場所であるからだ、皮肉にもエクレールから得られた力と周囲の電流が彼に力をさずける事にテスラは背後の藤丸をみた。
「マスター、今日の私は紳士ではないぞ、高出力高電圧にて対処する、何せ私の助手が下らない者の妄執に付き合わされようとしているからな」
「もちろんです、博士!カルデアからの供給もあります、遠慮せずぶちかましてください!」
その力強い返事に人間の強さを味わうテスラは口角を上げては雷霆を放った、それは神の怒りにも似た青い光、ニコラ・テスラはいま目の前を見据えた、正しい未来(光)を取り戻すために。
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