第十八話
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ウォーデン・クリフタワー周辺は広い平野となっており、市街地での戦闘よりもより激しく苛烈なものとなっていた。本来であれば助っ人のサーヴァントを呼びたいところだが魔力と電力が行き交うこの場は不安定となり、既にカルデアの通信も途絶えていた。供給は来てはいるが様々なものが入り交じった故にサーヴァント達は些か身体を重たそうにしている。
「ミスター・テスラたちの電力がこの地の魔力と混じってッ、過剰摂取で胸焼けして内側から焼かれるみたい」
「全くこれだから交流はいかんのだよ!というかこの敵の数は止まらんのか!」
「聖杯、電力、魔力、供給源が多すぎルようだ」
エレナ、エジソン、バベッジは声を上げながら話をしているが敵は先程の市街地にいた機械兵と同じものであり、海岸から黒髭の『アン女王の復讐』から放たれる砲撃が敵を粉砕しようとしても敵は次から次へと湧き上がることに「無限湧きとかクソゲー!」と叫び、マシュの盾が敵を弾き飛ばし、プトレマイオスが書から放つ閃光が相手のコアを的確に撃ち抜いた。
そしてテスラもまた遠慮することなく自身の宝具を放ち一瞬でもと停止させようとするが、頭上の巨大な機械兵が彼らに立ち塞がりエクレールが閉じ込められたタワーへ接近することは至難の業となっていた。
仲間達が道を切り開き、テスラは敏捷Cであり、このメンバーの中では比較的軽やかな動きで敵陣を抜けて走るが、それを阻むように赤い雷霆が彼の前に降り注ぐと彼は右手のガントレットで瞬時に後ろに下がる。
マシュの心配した声が上がるものの彼女はマスターを守る役目があり、それ以上を強いることはできず、兎に角どうにかせねばならないと彼らは考えた、一番は電力供給源となっているタワーの機能停止であるが、複数の巨大なテスラコイルが放電し、また空からのパワーを全て吸い取るように電力供給を得ていた。
テスラはタワーの檻部分をみた。
彼女の檻は確かに電流が流れているが吸い取られていく様子はとても遅く見受けられた。それは戦闘、雷霆、テスラ同士の魔力衝突、彼女自身の観測回路、聖杯による生きたままの抽出による制御、様々な条件が重なっており、テスラは自分ならばこの状況は予想外のものであり、本来のスピードとは遥かに遅いのだろうと分析していた。
救うチャンスはある、黒いスーツの男はタワーの檻のそばからテスラたちを見下ろし、冷たい視線でその左手にはシルバーのラピスラズリの付いたガントレットを身につけていた。
「まさか───貴様はサーヴァントではないだろう!そもそも魔術師でもないはずでは!」
「魔術師でなくても回路はある、そして"私"は開き方を知っている、これも全て未来を信じた者たちの祈りと願いと懺悔から来るものだ……刮目するがいい」
───人の罪なる雷霆は此処に在る。さあ……御覧に入れるがいい!『偽りの人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)』!!
その言葉と共に男の立つタワーの頂上からテスラが放つものと同じもの、彼のモノよりももっとずっと禍々しく憎しみと悲しみと絶望を織り交ぜた漆黒と血色の雷霆が彼らに落とされる。
マシュは前方に出ては自身の盾を地面に突き立て、彼ら全員を守るべく『いまは遙か理想の城(ロードキャメロット)』を展開した、純白の人々を守る盾と人の血で出来たような雷霆がぶつかり合う。抑え切れるかと思ったもののそれは魔力ではないのだと気付いた、それは純粋なる科学としてぶつかり、電気はマシュの盾を貫通し彼女の腕に感電し、盾は崩れるとプトレマイオスが即座に魔術を展開しシールドを張った。
「なんというパワーだ、これが科学だというのか…」
その言葉にテスラは即座に自身のスキル、ガルバニズムを展開しそれを弾き自身のテスラコイルに流すとそれらはテスラの魔力として換算されるが、あまりにも強い電力にテスラは膝をついてしまうがタワーの男はもう一度腕を空に掲げた。
「全く……科学とは、光とは…それを求める者は恐ろしいな……」
彼はそう呟いた────
────夢に落ちていた。
強い電流を流され痛みに気を失ったのだろうと理解したが彼女はそこが夢だと認識できたのはその光景が現実的ではなかったからだ。
無の空間の中央に立っていると映画のフィルムのようなものが彼女を囲うように回っていた。人々の笑顔も涙も怒りもある、神も王も人も、男も女も子供も老人も、金持ちもホームレスも、関係なく全てのデータが流れる。
幸せな家庭の映像もあれば、戦争で全てが焼き払われる地獄絵図もあり、彼女はそれが観測者が観測してきたものなのだと理解しながらも何処か他人事のように見てしまうのはそう出来ているからなのか、それともフィルムだから映像としてフィクションに思えているのか、きっと後者だった、人は自分の身に起きたこと以外を理解できないことくらい彼女は理解できていた。
「……ッいた」
それでも頭の中は焼き切れそうな程に痛かった。
人々の幸せな感情を百感じても、人々の一つの恐怖や絶望が彼女を強く支配する、人の脳とはそう出来ているのだとどこかの本で呼んだことがあり、彼女も自分がいい記憶よりも悪い記憶の方がずっと繰り返しやすいことを知っていた為、そういう事なのだろうと思った。
部屋は暗く映り変わり、裏切り、殺害、妬み、恨み、憎しみ、悲しみ、ありとあらゆる負が彼女を囲み流れていく時、彼女は顔を歪めて足をふらつかせた時、突然その場所が穏やかなクリーム色にオレンジの照明に切り替わる、紙とインクの香りに彼女の好きな柑橘系の香りと紅茶の優しい香り、それはが交わると彼女の頭痛が少しだけマシになり、回っていたフィルムがゆっくりと変わり、人々の笑顔に切り替わる。
そして背後から足音が聞こえ、彼女は慌てて振り返るとそこには一人の男がいた、老齢ほどでは無いが壮年と呼ぶには少し疲れたようにも見える、懐かしい雰囲気の男は彼女をみて微笑んだ。
「こんにちは、エクレール・アヴニール、当代の"観測者"、僕はオブセル・ウァートル・アヴニール、初代"観測者"だ」
そういうと男は何処からともなく椅子を出して彼女に座るように勧めて、紅茶を注いでいた「これは僕の家のオレンジカモミールティーだ、落ち着くといい」といって。しかし彼女は外の状態や目の前の彼について疑問を感じた。
オブセルが初代観測者であり、アヴニールの祖であることは理解しており、以前カルデアでアヴニールについて詳しく知る為にと夢の中を見るということに及んだ際、オブセルが現れて、彼女の夢の奥、所謂観測者の管理している管理者であることは知っていた。声だけなら夢の中で聞いたことはあったが姿を表したのがそれが初めてで、声を聞いたというのも彼から『観測者になってほしい』という言葉を受けたからだ。何もすることはなく生きるだけでいいと言われて二つ返事をした時に彼女は観測者になったがこうなる事は予想していない事だった。
「なにをしに「ごめんよエクレール」……え」
「本当にすまない、こんなことを言って許されようとは思わない。だが今の状況となったのは僕の責任だ、いいや観測者なんていうものを作った時点で僕は禁忌を犯したね」
ここは夢の中、魔術師マーリンや、巌窟王エドモン・ダンテスのように繋ぎ止められた場所なのだと彼は語る。
責任逃れもいい訳もなく、オブセルは深々と真剣に謝った、これまでの観測者についても必要であれば彼はそうしてきたのだろう、しかし彼は反省も後悔もしていない真っ直ぐとした瞳でみつめており、周囲のフィルムは赤子と女性の映像が流れた、女性はよく笑い赤子を抱き上げてはカメラに向けてくる、時折カメラに接触しては楽しそうに笑っているが、そのカメラが観測者の目であり、その女性と子供を抱きしめる手は目の前の男のものだった。
「僕は愛する人たちが消えるのが怖かった、妻も子も、自分が仕えた王も、その国も人も、全てを残したいと思った」
それはより自然に、それはより様々な形で、観測をするだけなら機械でよかったが彼は五感全てを感じていたかった。妻を抱きしめる温もりも、赤子が生まれた時の感動も、その全てを残したいと思ったからこそ、観測者を人間のままにした。
オブセル自身の魔術回路は焼き切れ、魔術刻印さえ消えた、それは世界を変える力だったから当然で、夢の中だと言え彼が残っているのは奇跡であるが、彼はそれを罪と責任だと告げた。
「罪は僕がしてしまったことだから、責任は観測を始めると決めたから」
その途端に足元の映像が切り替わる、それはテスラたちが今現在戦っている姿であり、赤い雷霆がテスラたちを襲っているのをみてエクレールは思わず椅子から立ち上がって「博士ッ!!」と声を上げたがオブセルは彼女を静かにみつめた。
「君はどうしたい?彼らを守るために戦うか、それともこれを終わらせるために"観測を終了"するか、観測の終了はいわば僕が君を殺すということだ、君はいまこの世界のニコラ・テスラの条件に一致してしまっている、強い魔力に観測者としての能力にサーヴァントの彼と繋がったパス、それはこのシステムを完成させるものだ」
もちろん『世界システム』を受け入れるという選択肢もある──とオブセルは冷静に告げると地面の映像は無くなり、また白い空間にもどるが彼女は目の前の男が何を言っているのか分からなかった。
「た、戦うなんて無理ですよ、それにほかの二つは結局死ぬってことでしょ?戦って死ぬか、あなたに殺されるか、世界のために死ぬかって」
「そうだよ、可能な限りの選択肢だ、選ぶのは君の中」
「無理に決まってます、そんなの受け入れられるわけない!!」
エクレールは自分がどれほど無力か理解している。
テスラとパスを繋いで魔力回路が開通したといっても彼女は自分が何故ここにいるのか知っていた、ニューヨーカーホテルの三三二七号室で前線に立てないからと安全のために待機していた。そのとき彼女は心から安心したのだ、魔術師としての魔力があるからといって戦わなくていいことを。
それは人として当たり前のことだ、無鉄砲な人間や英雄になりたい人間、なにか大きな理由がない限り人は無闇矢鱈と命を落としたいと思うわけがない。
「大丈夫だよ、僕は観測者に手をかけることは何度もあった、死に方は選ばせてあげるが楽なのは記録を読み取り脳を焼くことだ」
オブセルの声色は変わらない。
彼女が動揺しても彼はオレンジカモミールティーを飲んで、まるで普通の会話をしているように告げるだけ。この世界の観測者たちは実際彼がそうしていた、記録を奪われないように、拷問のようなパーツの採取を味わった時に楽にするために、それがオブセルの責任である。彼は善人ではなく究極のエゴイストで罪人だ、だからここにいる。
「そんなの……こんなの……嫌!!」
エクレールはまるで子供が駄々をこねるように地団駄を踏んで自分の身体を抱きしめて泣きながら叫んだ。
「痛いのも怖いのも嫌!死ぬなんて絶対に嫌だ!!出来るわけない!!」
───私はマスターじゃない、彼のようなヒーローでも覚悟を持った人間でもない。当たり前に明日があると思って生きていて、普通に生きているだけ、理不尽すぎる。
「どうして私なの!!」
しかしオブセルはその言葉を聞いて怒ることは無い、反対にそれこそが正しい反応なんだと眉を下げて微笑んで立ち上がると優しく彼女を抱きしめ頭を撫でた。
エクレールは涙を流して「いやだよぉ」と子供のように呟くことに「うん、そうだね」といったあと、彼は付け足した「それでこそアヴニールだ!」と。
「へ?」
「観測者は英雄じゃない、世界を救う英雄でも、ましてや神でもない、ただの人なんだ、だからこそ人の傍で観測できる」
部屋の中の映像が移り変わる、そこにはエクレールがカルデアで見た事のある英霊たちと知らない人たちがいた、アルゴノーツの船に英雄たちと並ぶ平凡な男、円卓の騎士と並んだ平凡な少年、新撰組と並んだ平凡な女性、ウルクの王と民と並んだ少女、様々な映像が流れ、それは様々な時代にいた観測者とその周囲の観測した人々だった。どれもが波乱万丈でありながらも観測者は楽しそうに笑い、困り、泣いて、怒って、エクレールと何も変わらなかった。
「それこそが君達の力だよエクレール」
「……でも私」
「大丈夫だ、君の先祖は僕が最初に選んだ"観測者"であり、大魔道士の一番弟子だ!!」
彼はとっても人のいい男で優しくて朗らかで太陽みたいな男で、罪を犯した師匠を夢まで追いかけてきて、自らも罪を分かちたいといった。もちろん罪はオブセルが受けるものあるがオブセルはそれなら観測をして欲しいと願った。オブセルの血を持つ過去の人間には自分から言うが、ここから先の観測者は君であり、そして紡いで欲しいアヴニールという未来を願う者を。
「そんな人の力を継いでる君だから出来る、それに君は彼が好きだろ?」
その途端に部屋の中の映像が切り替わり、カルデアで過ごしていたテスラの姿が流れた、いつでも自分の隣でうるさくてどうしようもない彼、映像が移り変わりこの特異点に来てからパスを繋いだ時の映像が流れるとエクレールは必死に身体で隠すがオブセルは笑った。
「大丈夫、君は普通の人間だ、どこまでも普通の女性でしかない、泣いて笑って怒って恋をして……そんな人が一番"人間"じゃあないな、だから心配しなくていい」
君は一人の人を愛する女性なんだというオブセルの言葉にエクレールは迷いを抱きながらも映像をみつめた、そこにはテスラがいつだって不器用に自分に慈しみと愛おしさを重ねた目で見つめてくれる姿だった。
触れられた感触も、感じた熱も、吐息も、声も、何もかもはっきりと覚えておりエクレールはオブセルの手に自分を重ねると彼は「僕の言葉に続いて」と優しく招くように告げる。
「『時の狭間に──未来の光──星の輝きに人々の心。全ての刻と全ての生命に祝福と感動を。我らは観測する。───この世全てに未来の光を!』」
それは強い魔力放出であり、全員の視線がタワーの檻の中に向けられた。
そこには二本の足で立つ凡庸な人間がいた。
彼女は伏せた瞼を力強く開けると、未来の光を抱いたその瞳で告げた。
「『未来を抱く観測者の祈り(アヴニール・オブザーバー・プレアー)』────ッ!」
その言葉と共に彼女の左腕の巻き付けられたコードから放たれるように高出力の魔力が雷霆のように頭上に撃ち放たれ、それはウォーデン・クリフタワーに直撃し、それまで稼働していたコイルやメインの出力が停止し、彼女を囲う檻も破壊された。
「貴様っ───どこにそんな力を……
「わ、私もわからな「ウオオオ!ヒロイン覚醒展開ktkr!wktk!最高の王道展開でござるなぁ!おっしゃあ!俺もやる気が湧いてきたぜ!」
驚く黒いスーツ姿のテスラにエクレールは困惑したがその雰囲気を壊したのは遠い海岸から大砲を放つ黒髭であるが、彼の放った大砲はまるで祝砲のようであった。そしてそれと同時にタワーに駆け上がってきたのは蒼い雷電。
「いや、天才ニコラ・テスラだ───」
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