第二話
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とはいえ、彼女の給与はカルデアから与えられるものであり、衣食住も全てカルデアからである。その旨を彼に強く抗議した際にテスラは「それはそうだな」と納得をしたようにみえて次に言った言葉はこの通りである。
「では新しい特許をいくつか取ろう、そしてその権利を君に授けよう、安心したまえ、実用的なものかつ国に必須となるであろうものを用意するさ、さぁそれで生活には困らないだろう」
二十一世紀になってもテスラの考えや発明の数々というのはやはり人々を凌駕するに値するものだろうと彼女も、カルデアにいる人類一同も思っているため、彼の発言に関しては注意したいとされた。
そして話し合いの末、彼女の仕事自体は管理や記録担当の一人でもあり、以前よりサーヴァントを主に担当していたのであればテスラのそばにいても問題は無いとされた、仕事に関する問題もテスラの近くに入れば他のサーヴァントとの交流も増えることや、万が一があれば守るようにという約束を書面上でも取り付けた。
比較的現代寄りの人間であるテスラはそうした契約書についての話に関しては特にすんなりと飲み込んでくれたためエクレールは安心したもので、反対に「他に必要項目はないのか」と聞いてくれる次第で、それられに関しては都度更新で話に手を打ってもらい、所長に許可を貰い関係性は他のスタッフとは少しだけ前に進んだ特殊な関係となってしまい、エクレールは彼の正式な助手という名のカルデアのスタッフとなった。
もちろん、完全にカルデアの仕事を放棄する訳では無いこと、テスラも毎時間彼女に構っているわけでは無いこと、なとがあるためあくまでも彼女の仕事先がスタッフルームではなく、テスラの工房になったり、彼の言葉をよく聞くことになったというだけのことだ。
「それでも毎日本当に博士ときたら……」
はぁ……とため息をつきながら図書館にいた彼女は勉強のためにいくつかの本を読み漁っていた。サーヴァントの勉強のために常に本を読むことが多いのだが、近頃はテスラとの関係性から彼に関連する書籍はもちろん、それは伝承や神話などを読むこととは違い、完全に勉強の一種でもあり、彼女は手の中の児童向けの電気の基礎知識の本を手に持っていた。
「あら今日も随分と疲れた顔をしているのね、かわいい顔に似合わないわよ」
「エレナさん、あぁすみません」
「よくってよ、それにしても随分疲れた顔をしているわ、睡眠不足には見えないけどどうやら心労の類かしら?」
ちょうどそんな彼女に声をかけたのはカルデアにおいてニコラ・テスラともなにかと縁のある神智学の代表者とも呼ばれる女性、エレナ・ブラヴァツキー女史であった。彼女はエレナのことを夫人や女史とは呼ばずに名前を呼ぶと愛らしい少女の姿をした彼女は愛想良い笑みを浮かべつつ、彼女が疲れている様子を感じ取り心配そうにしていた。
彼女はエレナの言葉に対して曖昧な返事をするものの、エレナ自身も彼女が何故その様に疲れたような態度であるのか理解していた。
何せこの神智学の提唱者である彼女自身も度々あの雷電博士ことテスラ、そしてそのライバルであるエジソンの争いの仲裁役を務めてくれており、エクレールはその兼ね合いからエレナには頭が上がらないと思うこともしばしばあり、時折彼女に愚痴を聞いてもらうこともあったほどだ。
「本当博士って身勝手なんですよ、午前中も私もスタッフとしての仕事があるのにちょっと声も掛けずに工房から出てスタッフルームに行こうとしたら突然緊急用の扉で締め出されたりするし、勢い良すぎて危うくギロチンになるかと思いましたよ」
「あらそれはダメね、流石に助手の危機を博士自らがするだなんて」
「今の研究についての素材が欲しいから申請書を通せだとか、バベッジさんとの共同開発の予算を増やせだとか、私は普通のスタッフなのに助手というか秘書というか好き勝手扱われますし」
「まぁでも彼ってばあなたのことを気に入ってるものね、横柄に見えるところもあるけど信頼ってところにみえるわね、男の子なんてそういうところがあるもの」
男の子──なんて軽い言葉で済みませんよ。と彼女は呆れたように伝えつつもエレナは本当にダメだと判断する時はテスラにしっかりと注意してくれるため彼女は安心して話をした。実際問題テスラはそうして強引かつ横柄な態度を取るようにも見えるがエクレールにとって驚くことは彼が彼女に求めることは何もないということだった。
全くと呆れながら彼女は髪を耳にかける時、エレナは彼女の左手首に目を奪われた、細い女性らしい手首にはシンプルな銀のブレスレット、そして落ち着いた瑠璃色の石、それはよく見るととても質のいい神秘的な色をしたラピスラズリだった。複数の鉱物が混じり合い完成される自然の美しさを誇るその石はエレナが鉱物に詳しくなくとも不純物のない天然物だと感じられた。
魔術と鉱物は古来より縁の深いものとされており、それこそエジプトやファラオ達にも縁深いものであり、エレナも中々にその宇宙の真理を秘めたようなものを美しいと感じた。
しかし気になったのはその点ではなかった。
そこに宿る魔力の流れや込められた魔術に対してであり、エレナは一体これをどこから手にしたのだろうかと不思議に感じた。
「ねぇエクレール、マハトマをとっても感じるこのブレスレットはどうしたの?」
「これ……ですか?あぁ先日テスラ博士から助手祝いとして頂いたんです」
色々と困らせられるもののセンスはいいんですよねと笑って言う彼女にエレナは納得したような顔をした、ラピスラズリはどれも形を丁寧に整えられているが決して球体上のものはなく、何処か華やかで鋭利にも見えるデザインであり、それはテスラが生前より伝えていた好みによく反映されているからだ。
彼女はそんなことも知らず、左手首のブレスレットを見つめては嬉しそうにした。
助手になってはや数週間、テスラの性格や態度にも少しずつ理解をしていこうと思いつつも天才に付き合う凡人というのは苦労が止まず、正直なところ鬱憤も溜まる時があった。たかだか数週間でとも思うもののサーヴァント相手という時点で気を使うのはもちろんだが、あまりにも性格が合わないと彼女も感じていたが彼は助手として隣を離れることをやはり許さなかった。
そんな時、彼女は一日の業務も終えて流石にもう帰ろうとした時、テスラの背中に声をかけても何も返ってこず、夢中になると存在さえ気付かない彼にどうしてここにいなければならないのかと呆れながら思いつつ工房を後にしようとした時「待ちたまえ!」という大きな声に呼び止められた彼女は肩を震わせた。
テスラの声はとても大きくそして響く、まるで共振してしまうかのようだと感じつつ足を止めて振り向くとテスラは何処かひとつ仕事を終えたようで嬉しそうな顔をしており、彼女を呼び立てるため、早く終われせようと彼の傍にいった。デスクの上にはいくつもの設計図やらメモ書きやらいくらでもあるが彼女はそこに興味を抱けなかった。昔から科学も数学も苦手なのだから無理はない。
「これを私から君へ贈ろう」
「……これは?」
「助手になってくれた君へのプレゼントだ、設計から作成までは当然私一人だ、デザインの修正を希望は受け付けないぞ、なんといってもそのラピスラズリを入手から加工までするのはとても大変だったのだからな」
「ラピスラズリ?どっどこから貰ってきたんですか」
「あぁ太陽王オジマンディアスからだ、事情を伝え素材提供を頂けないかと聞いてみたところ直ぐにご用意頂けた、それも彼の時代に採れた純度の高いラピスラズリだ」
彼女はその言葉に目を丸くしてその小さな瑠璃色がいくつか加工されて装飾されていることに目を丸くした。夜の空のような瑠璃色の中に星空のような金が混ざっているがそれは本来の質の良さを伝えるものであり、それを譲り受けたことや、譲ってくれた相手を思い浮かべては卒倒しそうにもなってしまいつつもあくまでもサーヴァント同士の交流であるため深くは言及しなかった。
そしてそれとは別にテスラが彼女に対して"助手になってくれた"という言葉が彼女の心を満たしていた。何せ彼女はこれを貰うまでは無理やりに縛り付けられてワガママの限りを尽くされていたと与えられた神からの理不尽のようなものに対する怒りを抱いていたに近かったからだ。
彼が作ってくれたということもだが、純粋にそのブレスレットは美しいとも感じた。銀色のシンプルなデザインに瑠璃色のラピスラズリが幾つか綺麗に計算されたように並んでおり、それは職人技であると思い差し出されたものをみては感心したようであった。
「受け取らないのか」
「え?あぁ違いますよ、綺麗だな……って思って、本当博士って凄いですね、こんなの作れるだなんてアクセサリー職人にもなれちゃいそう」
「ムッ、私の本質は科学者であり人類に光を届ける天才である。そんな一つの狭い世界に閉じこもるなど光を閉ざすこととなる、しかしまぁその賞賛の声は悪くない。素直に受け取らせて貰おう」
さぁ着けたまえ。とテスラにいわれた彼女はブレスレットを手に取っては左手首に装着するとそれは吸い付くように滑らかで、テスラが彼女のために作ったという言葉が嘘では無いのだと感じざるを得ない程にピッタリだった。
バングルタイプのブレスレットをはめて金具をカチッと音を立てて止めた時、彼女は妙な感覚を感じた、まるでブレスレットが強い鍵で閉められたような感覚であり、彼女は小首を傾げてブレスレットの金具に手を触れてみようとしたがまるでそれは初めから無かったかのように金具部分が見当たらず、彼女はブレスレットを数周させて確認するがそのデザインは最初の金具部分がなくなり、元々そういうデザインだと言わんばかりである。
「あの博士、これ金具部分が消えたんですけど」
「ああそういう仕様だ、一度着用者が身に付けると外れない仕様にしてある、だが安心するといい、ちゃんと防水だし錆びたり傷がつかないように多少の手は施してある、それにメンテナンスをしたい時は私がするのだから問題ないだろう」
自信満々にそういったテスラに彼女は顔を青ざめさせた。
「そんなこと大事じゃなくて外れないってどういうことですか!外したい時どうするんですか!」
「?……外す理由がないだろう、それは君が私の助手だという証だ、それを外すというのは私の助手を辞めるということに繋がるが、それは君が死ぬまでないのだから問題ないはずだ」
「問題しかないでしょ!!」
ふざけないでくださいよと彼女は必死に外すように頼むがテスラはそれを考慮してシンプルなデザインにしているし、ニコラ・テスラの第一助手なのだから誇るべきだと言われ、二時間の論争の末にやはり彼には何を言っても無駄だと思いつつ、ブレスレットをみてはデザインだけは何処でつけても問題ないとされる上に彼女自身も好みであるため文句を言うのも諦めた。
「君のためにこの私が作ったんだ、唯一無二だ、堂々とつけるといい」
「……外れないんですよ」
そう言って彼女はその日からテスラの所有物──助手である証をつけ続けることとなったが、今ではもう慣れてしまい、反対にそれを気に入ってもいた。
そんなことを思い出しながらエレナに左腕ごと差し出してブレスレットをみせては、エレナは興味深げに、しかしながら少し眉間に皺を寄せて難しい顔をしたあとエクレールを見上げた。
「とっても似合ってるしミスタテスラのものだから安心だけど、もしこれを狙う人がいたら気を付けるのよ、もし危険がある時はあたしでもいいから必ず助けを呼ぶこと、よいこと?」
「え?えぇまぁ、わかりました」
「ふふ、いい返事ね」
いい子と頭を撫でられるエクレールは気恥ずかしくしていた頃、背後に大きな影が差し込み、何事かと振り返るとそこには獅子の姿をした英霊トーマス・エジソンが立っていた。
彼とは以前から交流する機会があり、彼女は比較的話のしやすい彼を好んでおり気さくに挨拶をした。テスラの助手になってからは何かとスカウトをしてくれるようになったものの、そんな彼がちょうど彼女の左手のブレスレットをみては「やぁエクレールくん、少しそのブレスレットを見ても良いかね」と声をかけるため彼女は左手を差し出すがエレナは少し嫌な予感がした。
何せエジソンもテスラも犬猿の仲、水と油のような関係性であり、テスラの発明品を見るとなれば評価をしてしまうのが常だが、彼女のそれを見てはエジソンは鋭い牙を見せて大笑いをした。
「ハーッハッハッハッ、あのピタピタスーツ男め、こんなものを自分の助手にあたえるだと!?こんなもの呪いではないか!科学者ともあろうものが宝石魔術の類に足を踏み入れるような真似をしている?いや違うなもっと科学的にシールドや管理に……ふむ、ふむふむ」
大きな手のひらに包まれるように左手首を掴まれてブレスレットを入念に確認するエジソンに一体何かと不思議がっていたものの、図書館のドアが大きく音を立てて開くなり激しい足音と共に三人の前に現れたのは当然テスラであり、彼は自分の助手とその彼女の手を取る憎い獣を睨みつけるように火花を物理的に散らした。
「怪しい電波をキャッチして来てみたと思えば貴様ァ!我が助手になにをしているのだ、その作品も私が彼女に自ら贈ったのだぞ、気軽に触るんじゃあない、このアホライオン!」
「なんだとこの素っ頓狂交流不器用男め!交流だと言っておきながらこのブレスレットはなんだ!一方通行の魔力に電波、これではまったく私の直流ではないか!これはついに認めたという事だな、自分の敗北を!」
「はぁー?誰がそんなことを言った、そのデバイスが直流だと?バカを抜かすな単純思考の単細胞猫め」
それまで静かだったはずの図書館はまるで爆発でもしたかのように騒がしくなり、彼女は自分の左手を取っていたエジソンから奪い返すようにして左手を掴んで引き寄せたテスラと彼に対していつものように言葉を発するエジソンという、二頭の騒がしい男たちに挟まれては言葉の真意も分からずにただ揉めている二人に何事かもわからず、それどころか静かな図書館で騒いではついに話がいつものように飛んで物理的に電流戦争という名の物理喧嘩を始めようとすることに困り果てる頃。
ちょうどテスラとエジソンたちの上には小さな空飛ぶ円盤がいた。
「あなたたち二人ともエクレールを困らせないの!!」
そう言って丁寧に二人にだけ落とされたマハトマ(エレナの雷)に助けられた彼女は深い反省をする男たちにハァ……と困ったようにため息を零しつつ、最終的にこのブレスレットはなんなんですか?とエレナに聞けば彼女はうーんと悩んだような顔をした末に彼女のための回答をしておいた。
「まぁGPS付き多機能防犯ブザーとでも思えばいいわ」
といわれてしまい、まぁその程度ならテスラがしそうなことかと納得しつつも返事をしたものの、エレナは事実を伝えるのもあまり良くは無いかと思い、視線の先で反省する雷電博士に本当に困った男だと思いつつも微笑んだ、何せ今はまだ何も言わないで欲しいという顔をしていたのは彼だったから。
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