第二十話
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肩に掛けたコートを靡かせて軽やかに飛び込んできたことに黒いスーツを着た男──この世界のニコラ・テスラは頭上を見上げると、先程エクレールが放った高電圧の魔力によりタワーの機能が停止してしまい、下にいる機械兵たちも半分程力を失ったように止まっており、いま動いている動力源は他の小規模なテスラコイルやウォーデンクリフタワーの地下にあるニューヨーカーホテルと同じ発電機と同じ発電力を持つ程度のもので意地は難しかった。
「貴様の『世界システム』もここまでだな、私の名を語る愚弄者よ」
「そうかもしれないな、だが"アレ"はまだ動いているぞ」
無表情のまま黒い男が告げると同時にタワーの傍に巨大な腕が振り落とされ、タワーは大きく傾いた、男は開放されたエクレールを掴もうとするが先に動いたのは英霊ニコラ・テスラであり、彼は彼女を包み込むようにその腕に抱きとめると男は眉間に皺を寄せて不快そうな顔をした。
「彼女が必要だと言っている。これがこの世界を、人々を守るための必要なことなのだ!何故わからん!」
「理解出来るものか!世界という大きな器にこんな小さな生命力を注いだところで何も変わらん!貴様が私であるというのなら歩みを止めるのが間違いだ!私の科学は人類の進歩と未来のためのもの、無辜な人を犠牲にしてえられる発展などあるものか!」
「ある!人々は戦争を繰り返してきたではないか!聖女を焼き殺し聖人に石を投げ張りつけた!人間は愚かであり、その一人で救われるのも事実だし」
「それは心の弱さを守るためのもの!実際に救われた者がいないことを理解しているはず、貴様の言い分は全て逃げているだけのこと」
そして逃げた先が人を人として扱わないのならばお前は獣だとテスラは自分に告げると男は顔を歪め、そして力を失いかけた聖杯と左腕のガントレットを重ねるとそれは一つに混ざり合い、彼はタワーの外でほかのサーヴァントと戦闘している巨大機械兵に向けて投げつけると、それはまるで溶け込むように胸元の巨大なテスラコイルに溶け込んだ。
空はまるでこの世の終わりのように暗くなり、そして雷鳴が轟くと、激しい雷霆が空から降り注ぎ、巨大機械兵は地面からは他のテスラコイルや地下の電力をすべて吸い上げていき、テスラが吸収していた電力さえ吸い出そうとして、彼は思わず身体をよろめかせるとエクレールが支えた。
向かいに立ち尽くす黒いスーツを着たこの──特異点──のテスラは静かに機械兵をみつめた、その背中は何故かとても悲しそうにエクレールは感じられたがタワーが大きく揺れる。
下からは各々のサーヴァントが対処に当たる声が聞こえるが、攻撃が一切効いていないと告げることにいつまでもそうしてはいられないと思いつつも「あの男が私なのだとしたら解明できるはずだ」といって、彼女の支えの上でタワーから巨大機械兵をみた。
「どうするんですか博士、あっちの博士は大人しそうですけど」
「静かなら放っておけばいい、それよりもマスターに繋いでくれるか?マスターに繋げることが難しいのだ」
「それって相当消費してるんじゃ……って通信機…用意いいですね」
テスラは静かにタワーの展望デッキに出ると敵を見つめて解析しているようで、エクレールはテスラから渡された通信機を手に持つと僅かな魔力を流した、この程度であれば以前より出来ていたがこれまでワット数でいえば二、三ワットだったものが明らかに跳ね上がって、普通の出力が出来ていることに驚きつつ「こちらエクレール、藤丸くん聞こえる?」と声をあげると「はい!こちら藤丸、聞こえます!」と返事と共に状況が返ってくる。
毎度の事ながら全くこんな状況に慣れすぎだと呆れつつ彼女はテスラを見ると、彼はデッキに膝をついており何かを指でなぞるように書いていた。
「Q.E.D.─証明終了だ、そのデカイだけの凡骨機械兵は各部位にコアがある、君たちであれば電力源を検知出来るだろう、そこを抑えたあとメインコアとなる胸元のコイルを破壊すれば止まるはずだ!攻撃特化宝具の四名でそれぞれの場所を破壊してくれ!」
『わかりました、でも魔力消費が激しくて五人は無理ですよ!』
「それはこちらで何とかする」
テスラの言葉に始まるはすぐにそれぞれの担当部位を決めて指示を出すと、エジソン、エレナ、バベッジ、黒髭が攻撃担当をし、プトレマイオスとマシュが周囲の敵の排除となった。まるでそれは文明が滅びるような、ニューヨークの街の最後、テスラの発明の最後を見届けるような気待ちになってしまうエクレールは宝具の準備に入る姿を眺めては最後をどうするのかとテスラを見つめた。
「私の助手というのは名誉ある立場でありながら、本当に大変な役割だ」
「今更ですよ、それで博士、私に何を頼む気ですか」
「迎えに来るために魔力を消費しすぎた、そして君とのパスも弱まってる。だから私と本契約を結んでくれ、ブレスレットは……ないな、あぁだが、予備で用意してあるものがあるんだか、貰い受けてくれるか」
それは指輪だった。
ラピスラズリ──幸運のパワーストーンとされるそれのついた銀色のシンプルな指輪をみて彼女は心からどうしようもない人だと苦笑いをして、自分の左手を差し出すとテスラも苦笑いをしてその左手の薬指に指輪をはめるとパスが再度強く繋がるように感じた。
「問おう、エクレール・アヴニールよ、我が助手となってくれるか」
真っ直ぐな光のような瞳が彼女を捉えた。
「───はい、ニコラ博士」
その瞬間に二人の繋がれた手から、正確には指輪から小さな火花が飛び散り、暗いその世界に小さな光が現れた、そして下にいた面々がそれぞれの宝具を発動するのみて、通信機から『各パーツ破壊確認!』と藤丸立香の声が聞こえた。
エクレールとテスラは互いの額を重ねてはその熱を感じて、彼女はテスラに魔力を注ぐと彼は彼女の腰を抱いて立ち上がった。
「さぁいくぞエクレール」
「え?待ってください、私も!?」
「私一人では出力が安定しないのだ、バッテリーを持ち歩くのは当然のことだ!」
そういうとテスラはタワーのデッキから彼女を抱きしめて宝具を発動する為にフワリと空中浮遊を始めた。膝をついている巨大機械兵は四肢の動力源を撃ち抜かれているがそれでも藻掻くように動いており、この世界の崩壊から抗おうとする姿のようでエクレールは悲しい気持ちになったがテスラはそれを理解して彼女の肩を強く抱いてガントレットのない手袋をした左手で、彼女との繋がりの強い魔力動力となる左手に重ねた。
そして宝具を発動しようとする時、その印は彼女の左手の甲に現れる。それは稲妻のような形をした歪なものであり、エクレールは「は?」と目を丸くして驚くがテスラはとても楽しそうに笑みを浮かべた、まるで予定通りと言わんばかりに。
「さぁ共に詠唱してくれエクレール」
「覚えるかな、間違えたらどうしよう」
「問題ない!君は私の隣でずっと見て聞いていたではないか、君の記録力だけは確かだ」
「記憶力だけ、ね……ええ、もう…そうですけど」
包み込まれた左手に彼女は小さな笑みを浮かべると下から視線を受けるのを感じつつも声を出した、それは互いに一ピコの狂いもないほどに同じタイミングで声を発していた。
───刮目せよ!
───神の雷霆は此処に在る。
───さあ……御覧に入れよう!
『人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)』!!」
それは崩れたウォーデン・クリフタワーから放たれるように鋭い雷霆が神の放つ力のように激しく落ちては、巨大機械兵のコアとなるコイルに放たれ、それはあまりの強い電圧に耐えきれずに全体に回り、痙攣するかのように動いたかと思えば焼け焦げたように音を立てて完全に起動停止をしてしまう。
エクレールは後ろのテスラを見れば彼は当然と言いたげに笑い、下にいた仲間たちも残党を倒しつつも笑みを返し安堵する。
テスラはみんなのところに戻ろうとするがその前にとエクレールはタワーに戻して欲しいというため、テスラは何事かとわからずに元の場所に戻ると男が壊れた聖杯を手に佇んでいた。
その背中は彼女の目にはまるでニューヨーカーホテルで最後を遂げたニコラ・テスラの寂しさを感じさせた。
英霊のニコラ・テスラは後はマスターに任せるように言うが彼女は男の傍に近付いて「あの!」と声をかけると、すっかり意気消沈したような彼は隣に並んだ彼女を見て、疲れたように肩を竦めた。
「完敗だ"観測者"、君の方が強かったな」
「どうしてこんなことしたんですか、貴方はこんなことする人じゃないでしょ」
仮に彼がニコラ・テスラなら決して人類の歩みを止めることはない、他の世界を狂わせることなどないと彼女は理解しており、それがずっと不思議であった。
彼は世界が変わろうと決して人類を見捨てない、いや、実際にこの特異点の彼は見捨ててはいなかった。どうにかしたいと願ったからこそ、英霊ニコラ・テスラとは違う形で彼は人の身でありながら、科学のみならず魔術を利用し、どうにかしようとしていたのだ。
エクレールが問いかける時、下も終わったようで全員が集まって黒いスリーピーススーツを着たニコラ・テスラとみていた。彼の服装や雰囲気はまるで喪服や葬式のようであり、間に入ろうとエジソンがするのを手すらが静かに止めて見守った。あの男にはもう電力がないことはわかっていた、万が一があっても動けるため眺められた。
「私が"観測者"を知ったのは、自分の恋人だったからだ。彼女は私とは正反対だったし、何故惹かれたのか私もわからなかった」
正直なところ頭は良くないし顔だって平均的、何を取っても凡庸で不快感さえ感じていた。けれども彼女は何があろうと隣にいて笑って泣いて、特許を取られたことには怒って裁判をして負けたりもした。
無一文です何もないという状態になれば周りの女性も去り、周囲はテスラを嘲笑の話題にするばかりであったが彼女は隣に残った。追い出しても怒鳴っても、自分の神経質で強迫観念に縛られて生きづらいというのに、彼女は努力で歩むことを拒絶することはできなかった。そして小さな光となった。
「彼女と過ごしていた時、ある日魔術師や政府が現れた、何事かと思えばこの世界が危機的状況にあり、彼女が救いなんだといわれた……」
意味がわからなかった、オカルトチックな話は理解していたが全て理論で解決出来たため、テスラには彼らが言う"観測者"や"世界が危ない"などという非常識な話はそんなわけが無いと跳ね除けた。
「だが彼女は『この間"観測者"に選ばれたんだ』と笑ったんだ、意味がわからなかった、この間とは?と聞くと先週くらいといった、ちょうど前の週に観測者の"摘出"に失敗したようで、彼女がこの世界で最期のアヴニールだった」
彼は呪った、神を恨んだ、アヴニールなんて名前なんていくら出るだろうと、そんな訳ないだろうと抗議しても彼女はこの世界が危険なのだと知っていた、そして既に魔術師の話を聞いた政府は過去のアヴニールが他の者たちに狩られたことにより、一部の記録が消えていることが判明した、未来を繋いでも過去がなければ意味が無い、過去を観測させるにもその時間が無になった以上は記録をどうにか作らなきゃならない。
人体実験をすることになった、失敗など許されない行為。
「彼女は『それが私たち"観測者"の役目なら仕方ないね』といった、だが私は彼女を誰の手にも委ねたくなかったから私が行ったんだ」
時間はなかった、いくつもの提案をしても魔術師や専門家の言う方法以外は認めない、そしてそれが出来ないのならば外すといった。
「それは…生きたまま取り出すという行為か?脳や、目や、耳を」
サーヴァントであるテスラの声が震え拳を握った、つまり目の前の男に選択肢は与えられなかったのだ。そしてテスラ自身も生きていた中で選択肢というものが選べない時があることを知っていた。
「実験の前の日、彼女は震えて泣いた『どうして私なの?死にたくないよ、一緒に生きたいよ』と」
トランクをひとつ持って逃げ出した、きっとなにか方法があると思ったから、もっと偉大な魔術師を探せばいい、新しい"観測者"をみつけようと二人で深夜に抜け出したが、それは叶わなかった。
彼女は捕獲され、政府の人間は「残念ですよテスラ博士、あなたなら彼女を救えると思ったのに」といった、だから頭を地面に擦り付けて担当させて欲しいというと許可された。医者ではなかったがオートマトンの作成をしていたことから人体については詳しく知っていた。頭の中には立体映像を完璧に出せて間違いは起きないと思っていた。
台座の上に横になる彼女は魔術で朦朧としていた。
これまで二名の観測者を発見したが失敗したため、今回は理論的に間違いがないといわれ、説明を何度も受けて理解して、手術室に立った。
愛する人にメスを入れて頭の中をみたとき嘔吐した。
こんな人間の臓器に何があるんだとおもったが周囲の魔術師は「魔術回路も取ったらどうだ」「健康的な臓器だから使えそうだ」と言い始めた時、彼女の頬から涙がこぼれた。
「私は怪物でいられなかった。神はなんたる仕打ちを私にするんだろうかと思った。私の魂は冥府に囚われると分かっていた、それでも彼女を救いたいと思い、私は彼らの意に背いて殺したんだ、この手でメスで心臓をえぐぅて、脳みそを使われないように床にぶちまけてやった」
誰も触れるなと叫んでは取り押さえられた、直ぐに魔術師たちが対応しても彼女はもう死んでいた。
「よかったと思った。だが世界は崩壊を始めた。私は自分の責任であることを理解したから"観測者"を探した。アヴニール家は拾い子や養子も多く複雑な血筋だが、その中で一番弟子で魔法使いと呼ばれた"観測者"の血を引く君を知った、それも"私"の隣にいると。チャンスさえあれば連れてきやすいとなった」
「それで私を……」
「そうだ、本当に愚かだろう?罵っていい、なんなら殺してもいい、どうせこの世界は終わるんだから」
彼は笑っていうが泣いてしまいそうだった、泣きすぎて泣けないのだとエクレールは気付いた、そして少しだけ眉間にシワを寄せると背伸びをして彼のオールバックにしてある広い額にデコピンをした。
「罵れ?殺せ?なんで私にそんなことさせるんですか!このバカ!アホ!あなたは正しいことをしたのにどうして怒らなきゃなんですか!」
「正しい……そんなわけ」
「彼女を守ったんでしょ?愛する人を!じゃあ間違いなわけない!愛する人を手にかけて、それでもなお、人類の罪を償うために、自分で業火に焼かれようとしてるんでしょ?」
そんなの怒れるわけがないとエクレールは泣いて彼の胸に顔を埋めると後ろにいたテスラがガタッと出ていきそうになるがエジソンとエレナが止めた。
「もう頑張らなくていいんですよ、"私"が観測した、"観測者"がこの世界を観測したんだから、この世界は続きますよ」
「……そ、そんなわけ」
「いいえ、あなたの言葉と一緒にこの特異点の空いた穴の記録が繋がったのが分かるんです、全部は見たら焼けちゃうからできないけど、その人はあなたを見てた」
白い鳩を追いかけ回していつも怒ってたんでしょ?とエクレールがいうをこの特異点のテスラは目を丸くしてそして静かに瞳を潤ませて「そうだ、やめろというのに彼女は」とついに涙を零していった。
エクレール子供のように泣いてしまう彼を抱きしめて頷いた、愛ゆえなのだ、一人の女性に向けても、この世界に向けても、彼はずっと博愛主義者で不器用なのだ。
「大丈夫、あなたの想いは伝わってます、あなたが彼女の愛を憶えてればそれでいいんです、観測者なんてただの"人"なんですから」
お墓を用意して好きな花を用意してあげて、そしてたくさん思えばいい、本を書いたり語ってみたらいい。
「そうすれば天才ニコラ・テスラの生涯愛した"人間"の伴侶っていえるでしょ?」
百年後もあなたは愛されてるですからと背後のテスラを見て笑うと英霊ニコラ・テスラはバツの悪い顔をしたとき、空は満天の青空に変わり、ウォーデン・クリフタワーから海岸沿いが見えた。それはとても眩い海であり、空から差し込んだ光が海を照らすのだった。
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