【最終話】
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元々サーヴァントの部屋に近い位置にはあったがジャックとナーサリーなどがお茶会をしてる姿を見ては「間違えましたァ」といってドアを閉じたあと部屋番号を見ると、本来の番号の上に雑なガムテープと共に【お茶会部屋】と書かれており講義をしたものの、部屋は変わっただけだといわれた。
「なぁんだよかったぁ……じゃない!寝れない!いま何時だと思ってるんですかぁ!」
「ム……助手か、こんな夜更けに声を荒らげるのはマナーがなってないぞ」
「マナーがないのは博士でしょ!私隣の部屋なんですから遠慮してくださいよ!休めないでしょ!」
何してるかはこの際どうでもいいけど!と言いながら吠える彼女は戻ってきてから何故かテスラの工房の隣に設置されており、夜更けでも関係なく作業する彼の音に起こされていた。
テスラは「防音魔術を忘れていただけだ」と言った後すぐに部屋のスイッチを入れると防音魔術が起動したようで彼女はため息を零して部屋に戻ろうとすると呼び止められる。
「天才が淹れたのだ、飲まないのか?」
その手には二人分のマグカップで彼女は時計を見ると時間は深夜を過ぎており、こんな時間にコーヒーなんてと思いつつ、いつも通りに席についてコーヒーを貰うとテスラの話に耳を傾けた、本当にどうしようもない相手だと思いながら。
「にしても終わらない、報告書ってこんなに難しいの?」
「僕もすごく苦手ですけどエクレールさんのは特殊すぎるから余計ですよね、えーっと転移魔術で特異点に到着、元々所有してたテスラ博士の簡易召喚にて召喚後行動を共に……ホテルで博士と魔力供きゅ「ダメダメ!君は見ちゃダメ!」……ええー、僕も十八歳ですよ、大人ですよ」
「未成年じゃない、黙らっしゃい!」
日中のラウンジの作業用スペースの一角でタブレットを片手に文字を打っていたエクレールは先日の特異点へとレイシフト、通常『エクレール・アヴニール誘拐事件』のことの経緯を全て細かく書くように命じられていたのである。
特異点のレイシフトに拉致されることだけでも大事件だが、あまりにも事件が重なり、彼女はウンザリしつつ時計を見ては立ち上がり話しかけてくれた藤丸立香に検査の時間だと告げて別れて廊下を歩くが、周囲のスタッフやサーヴァントなどの視線は痛々しいもので今すぐ特異点に帰りたいと思った。
ここ数日通い慣れた恐怖の医務室──ではなく、ダ・ヴィンチの工房に行くと、既に数名のサーヴァントやアトラス院のシオンまでおり、彼女は「人が多すぎません?」というものの、彼らはそれは丁寧に彼女に椅子を差し出してお茶菓子を入れた。
彼女の向かいにはダ・ヴィンチ、その後ろにはシオン、ゴルドルフ所長、エルメロイ二世、プトレマイオス、エレナ、刑部姫からラスプーチンまでと、なにやらかんやらと大量に並んでおり、それでは工房ではなく作戦質やシミュレーションルームの方がマシだろうと思っていた頃、ドアが開き聞き慣れた足音が聞こえて彼女の後ろで止まると低い声で「待たせてすまない」というがダ・ヴィンチは「ううん、大丈夫だよ」と笑った。
「さて、ではエクレールちゃん。契約状態の確認や経緯を確認しよう」
「だからそれは先日話した通りです、最初はカルデアとの供給が途絶えて、予備の魔力も足りなくて緊急魔力供給を行ったんです」
「粘膜接触で?その時点でテスラ博士は君の回路を弄っていたんだよね」
粘膜接触──といわれるとエクレールは顔を伏せて隣のテスラを軽く小突くとテスラは「あぁそうだ」と返事をすることに後ろの面々はよくあることだという反応と、それでもという顔で分かれた、もちろん一部例外はいるがこの際、ダ・ヴィンチ以外の反応を記録するととても多すぎるため省かせてもらう。
ダ・ヴィンチが聞きたいのは粘膜接触以上に回路をいじることだった。本来魔術回路はそう簡単に触れるものではなく、それは激痛を伴う場合もある。その中でテスラはほとんど一般人レベルで魔術回路が未通の彼女にブレスレット越しに回路を開帳したうえに自分の魔力を注いで緊急時に供給できるようにブレスレットと彼女自身に設置した。
「そしてその中で粘膜接触、それもキスなどではなく大人の行為だね、お陰様でその時のテスラの魔力の揺らぎて私たちも観測できたという訳だ、相性が良かったと言うよりもこれはほとんどテスラ博士による"作り替え"だ」
あの時の通信においては彼女に令呪は見られず強固なパスの繋がりが感じられたため、懸念するだけかと一瞬思ったものの帰還後の彼女とテスラの繋がり、そして隠せぬ左手の令呪、それは藤丸立香やクリプターなものと同じだが全く違う完璧な令呪だが、例外中の例外の品だった。
だからこそカルデアの天才たちは危険視している、こんなことは通常ありえないからだ。本来カルデアの契約というのはカルデアを介して藤丸立香をマスターとするという内容で聖杯戦争での通常召喚とは全く召喚条件や契約内容が異なる。カルデアのシステムを応用した契約となるため通常召喚の聖杯を媒体にしたものでもない。
「エクレールちゃんは素人だからわからなくて当然だし被害者といっていい、問題は君の方だよニコラ・テスラ博士、君どうやってこの契約の"掛け目"に気付いたんだ」
万が一にもマスターを簡単に乗り換えできるというのなら他の英霊たちは好き勝手に出来てしまうのだ、もちろん、神霊や魔女など一部例外はいるとしても、ほとんどが通常のクラスから落としての召喚となり、カルデアとの強い契約内容により自由は奪われているはずで、特に魔力回路も魔術刻印も無に等しい人間にそれをするなど危険極まりないことである。
科学者に論理感を説くのは少しだけ意味をなさないが、それでも彼は悪人ではないためどうなのかというと、彼はキョトンとした顔をしていた、そしてダ・ヴィンチをみて、ほかの英霊たちもみて真面目にいった。
「以前より私は彼女を守るにはどうしたらいいかということを考えていた、そしてカルデアのフェイトシステムを含めて数多のシステムに欠点があると思っていたのだ、そして今一度システムの精査を行わせて頂き、それをまずブレスレットに応用した」
「オジマンディアスのラピスラズリを譲ってもらい、メディアに魔術の心得を伺って…かい」
「魔術に関しては少々困惑したが科学と同じく理論に基づいていると分かれば楽になった、彼女を守るために魔力が必要、そして自分の魔力の検知はできるからそれで確認、そしてついでに彼女の家の話を聞き、健康診断の結果を見て魔術回路をいじれるのでは?となった」
そこが問題なんだよなぁ…と聞こえたがテスラは止まらなかった。
魔術回路を弄る中でテスラは簡易召喚まで出来るのであればほとんどマスターではないのか、よく藤丸立香が単独レイシフトをさせられたりした際にはぐれサーヴァントとパスを繋ぐが、万一彼女に何かあれば守れるのは自分しかいない、だがどう守ればいいのか。
「それで……"星の開拓者"に目をつけた、と?」
「こうなるとは思わなかったが、私の予想以上だ!何せ私は彼女にマスターになってほしいと思いながら開通させたのに、パスはあるが完全な契約にはならなかった、だがそれも杞憂であり、最後には彼女に令呪が宿った!」
ガシッ!と隣のエクレールを抱き締めるテスラはそれはもう満足そうに堂々といった。
「Q.E.D.まさに私の研究結果通りというわけさ」
「……わけさ、じゃないんですよ、何勝手にあなたの都合で記録係をマスターにしてるんですか、今すぐそんなスキル破棄ですよ!人権侵害です!所長こんな天才起訴してやります!」
「待て待てエクレールくん、君が怒る理由はわかるがニコラ・テスラは我がカルデアの重要な技術者の一人だ」
エクレールはテスラをペシペシと叩きながら意見するがゴルドルフはカルデアの魔力供給を電気に変換してくれていること、またその電力の四割がサーヴァントに割かれているためテスラがいなくなるのは大変困るということを訴えたがエクレールは緊急性があるから仕方なく行ったことがこうなるなど思いもよらなかった。と叫ぶがテスラは反省の色はなく、反対にエルメロイ二世は「とはいえ、あまりにも相性などがよすぎないか?」と疑問の声を上げ、それにはほかの者たちも、いくら魔術回路をいじった本人とはいえ結局は相性問題、しかしそれ以上になにか強固なものがあるのか?と意見が出たことにブレスレットのせいでは?とエクレールは左手のブレスレットをみせるが、それとはまた違うというと、ちょうど遅れて入ってきたエジソンが「どうだ〜交流スカポンタンは締められてるか?」とご機嫌に入ってきた途端にテスラは立ち上がりそれはもう自信満々な顔をして一枚の紙を取り出した。
「それは私と彼女が物理的な助手への契約書を持っており、それを媒体(証拠)の一つにしているからだ!なに、契約書の重要性はあの起訴大好きライオンが教えて貰っていたので当然私が英霊だろうが予め用意しておいたさ、サインの際にはそちらの署長にもご同伴頂いている承認印ももらってある」
その言葉に冷や汗がゴルドルフに流れ覚えていないといいたげで、エクレールは「え?あの長い契約書?」と怪訝な顔をするが、ダ・ヴィンチやエルメロイ二世やシオンにプトレマイオスなどのみんなが揃って契約書を貰ったがそれは数枚に渡る上にとんでもなく文字が細かく全てで五ページに渡る博士と助手の秘密保持契約から今後の関係についてまで記述されていた。
「エクレールちゃんこれよく読んでる?」
「途中で寝たのでやめました、利用規約くらい長いんですもん」
「分からなくは無いけど君は今度から利用規約も最初から最後まで読むといい」
ここに書いてあるのはマスター契約の話まで全て書いてある!とダ・ヴィンチは声をあげることにエクレールはだから?といえ顔をした。現代の人間は、そして魔術や契約に長けてない人間とはこんなにも危険性が分からないのかと全員がヒソヒソと話をするがエジソンは中身を読ましてもらっては「ぬぁんだこれは!」と声を上げた。
曰くテスラのマスターになる可能性があれば無条件に同意する、曰くその際に結んだ契約は絶対でありほかの契約も認めない、曰くテスラが彼女を魔術師として改造することに同意する。などなど全部で数百項目が優にある契約書でエジソンが勢いよく破り捨てようとしても紙は皺ひとつ着くことはない。
「安心したまえ、こちらは紫式部くんやシェイクスピアなど、紙媒体の保管に慣れた者たちにしっかりと加工していただいてる。火でも水でも電気でも破れぬのだーーーッッ!」
狭いダ・ヴィンチの工房で響く高笑いに彼女はウンザリした、つまりテスラはハナからそうして考えていたということなのだ、彼女はも呆れ返って何も言い返すつもりはなかった。
「もうどうしようもないことは分かりました、とはいえ、この身なので博士がいるのも有難いことですよ……ってことにしています、他に問題は?」
「いやまぁエクレールちゃんがいいならいいけど、うち(カルデア)との契約書はちょっと見直しだね、君自体イレギュラーで下手したら封印指定にされるかもだし」
「私以外にも封印指定クラスなんて沢山いるでしょうに」
はぁ…と隣で騒がしくするテスラが強く肩を抱いてくることに呆れる彼女の左手をみて「そういえばブレスレットに戻ったんだね」とダ・ヴィンチがいうと、帰る前にあちらのテスラが謝った上で返してくれたのだという。そして指輪は博士に返したというのでニヤニヤと全員が頬を緩めて見つめるため彼女は何事かと思うが、そういえば関係性は何になるのかと問いかけた。
──マスターとサーヴァント
──博士と助手
「それとも、そういう事があったんだし恋人?それとも伴侶?」
ダ・ヴィンチが揶揄うように聞くとテスラが固まった。そして明らかに落ち着きないような顔をして、聞かれた彼女がなんと答えるのか期待したような顔をした。あの日、死んだニューヨークの彼の最後の部屋であった三三二七号室で繋がった時、そこにはただの義務や生きるため以上の深い愛情があり、それ以外でも常日頃からテスラはこれ以上にないほど分かりやすくしていたはずだ───であれば、彼女から出てくる答えに期待しないわけがない。周りもついにクラッカーを鳴らす時が来たと思い、ラスプーチンこと言峰神父がすぐ出せるようにと前に押しやると時、エクレールは誰よりも冷めた顔をした。
「カルデアのサーヴァントと記録係です、まぁ良くても博士と助手では?」
「何故だ!!貴様ッ、ここまで来てそれはないだろ」
「ありますよ、あぁマスターとサーヴァントにはなったから、一番良くてそちらでは」
「私がどれほど行動を示していると思ってる、レイシフトしてまで命を助けたのは二度目だ、今回に関しては助けたどころじゃあない!君は観測者という立場でありながら分からないのか?」
声を荒らげるテスラに全員が息を飲んだ、ここまで来ても違うという彼女も相当な女で、何がそんなに受け入れられないのだろうかと左手にブレスレットと令呪を宿し、そして日頃からテスラの強迫観念にも対応してるような人間がと心底思うが彼女はため息を零して話は以上なら報告書の書き上げがあるから肩に置かれた彼の手をそのままにしてはダ・ヴィンチに挨拶をするが、テスラは「何故だ!」というため、彼女は当たり前のように返事した。
「明確に言葉にしない人のことは信じないって言いましたよね」
「言った」
「どこで」
「ベッドの中で」
「一番信じられないところですね」
それには全員が頷いたが彼女はこれ以上ここで人も多いと迷惑になるからと挨拶をして去ってしまい、テスラが一人残されるが、エジソンとエレナは当然だという顔をした。ここで追えないのがきっとテスラのどうしようも無いところでもあり、これほどまでに計画性と確固たる証拠を得てもなお、女心のひとつは分からないのだとみんなは天才を哀れんだ。
その日の夜、エクレールは隣の部屋のテスラの工房をノックした。自国は深夜を周りカルデア内はとても静かで寝巻き姿の彼女は上着を羽織ればよかったかと思いつつ返事も聞かぬままに入室しては、大きな背中を丸めてまたいつもの様に静かに発明する彼を横目にコーヒーを二人分淹れて、テスラの近くに置くと彼は当たり前のように飲んだ。
「ブレスレットのメンテナンスに来たんですけど」
「ん?なにか不具合でも?」
「はい、ちょっと見て欲しくて」
テスラの電流でしか外せない仕組みになっている左腕のブレスレットを外してもらうとテスラは真剣な顔でブレスレットを眺めては異常はないように感じると思いながらもメンテナンスを始めるが、彼女が少しだけ寒そうに身を縮めるとテスラは自分のコートを彼女に手渡した。
オゾンと清潔感のあるシャンプーにコーヒーと電気の少し焦げた香り、それが彼を作るもので彼女はそれに包まれながらも作業に入るテスラが集中すると声が聞こえにくくなることを理解していながら問いかけた。
「ブレスレットがないんですけど」
「メンテナンスをしてるだろう、それもいま一分三十六秒前に君が頼んできた」
「はい、そうです、メンテナンスしててください、でも私左手が物足りないんですよ」
──いつも慣れてるものが無いから。
夜の部屋の中で少しだけ彼女の声が掠れると、テスラは少しだけあの日の二人だけのベッドを思い出して、彼女を見つめると少しだけ顔を赤くしていた。左手の薬指には何も無かった。
あの時に渡した指輪は余ったパーツでずっと昔に作成したもので、彼は使う理由もないからとずっと持っていた代物だ。サイズは大体でと思っていたが偶然にも左手の薬指にピッタリだった──嘘だ、本当はテスラはサイズを知ってる。完璧を求める男だから当然だ。
「もし今何かあった時、ブレスレットがないと困るんです、代わりのものは無いんですか?なんかいい感じのもの」
「そ、それはだな…あぁ全く、君も素直じゃないじゃないか」
「博士がそうだからでしょ」
テスラはポケットに入れている自分の小指よりも小さなサイズのラピスラズリの指輪を取り出して、彼女に振り返ると渡し渋るようにして、かのじ差し出されるように開かれた彼女の左手を見たあと、手袋を外して彼女の左手を手に取ると、丁寧にあの時のようにつけてやった。
彼女の細い指先を彩る銀色に瑠璃色の石がついた指輪は能力としてはブレスレットには劣っていたが、指を飾るにはちょうどよく、彼女の手の甲の稲妻のような令呪にも馴染んでいた。
令呪は安定感のあるマスターだと円形に近くなると言うが、彼女は全く安定感がないためかその形をしており、彼女らしいとテスラは思いながら手の甲を優しく右手で撫でると彼女は何も言わなかった。
「ねぇ博士、私は博士のなんですか?」
以前の恋人に彼女は明確な言葉を貰えなかった、だからそれを望むのは当たり前なのに、いつまで経ってもプライドが許せずにテスラは「君は…」と考えた、たくさんの肩書きがある。
───カルデアの記録係、スタッフ、観測者、助手、マスター、恋人、伴侶。
足りないほどに肩書きがある彼女の背中に腕を回して優しくその胸に抱き寄せてテスラは心からの言葉を伝えた。
「君は私のアヴニール(未来)だ、光り輝く美しい私だけの未来だ、それ以上完璧な言葉は思いつけない」
それでも不安なら君が望む言葉(光)を与えるというテスラに彼女は広い背中に腕を回して優しく抱きしめながら微笑んだ。
「いいえ、それでいいです、博士の言葉が欲しいから」
そう言って彼女はテスラの背中に指で文字を書いた。
──128√e980
それはテスラが書いて見せることのできなかったはずの数式で、彼はそれを読み解くと思わず目を丸くして彼女を抱きしめる腕に力を込めてしまう。
そしてどうしようもなく溢れる感情が抑えきれずに近くテスラコイルが火花を散らした。そしてテスラはその細い背中に同じ数式を書いてはその上半分を指でなぞって消した彼女の耳元で呟いた。
「愛してる」
たった一言だけでも、ラピスラズリは光って答える、彼女の言葉と一緒に。
「私も愛してますよニコラ」
コーヒーの湯気は静かに揺れた、二人の心と同じように。
-END-
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