一話
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ニコラ・テスラと出会い。カルデアのスタッフであり。三流以下の魔術師ともいえない一般人のエクレール・アヴニールは彼の専属マスターへと昇格した。
本来はあってはならないことだ。
カルデアのサーヴァントはカルデアを経由して仮契約をマスターと結ぶことになり、そのマスターもカルデアの定めた者とするように決まっている。
通常の聖杯戦争のために英霊を召喚しているわけでなく、あくまでも人理を守るためにという名目で契約をしているのだから当然だ。
だというのに、あの天才──ニコラ・テスラは自分の未来(アヴニール)だと彼女のことをはわ呼んで、彼女を助手として迎えた挙句、ひょんなトラブルでニューヨーク特異点で自分のIFの姿に出会い、それと対峙した際に必要だからと魔術回路をろくに持たない彼女を以前からの自分の計画に巻き込み。そして完成系として深く繋がり、彼は科学と英霊としての能力を駆使して彼女を"マスター"にした手上げた。
それももう随分前の話のように感じるようになったのも、その事件からすでに一年が経過し。ニコラ・テスラがカルデアに来て二年が経過しようとしていたからだ。
テスラは電力を魔力に変換するというカルデアのシステム上、欠かせないエンジニアの一人となっており、英霊としてもカルデアを支える存在としても必要不可欠であり。
サーヴァント記録係という仕事をこなしているエクレールもまた、彼とは違う形で忙しい日々を過ごしており。彼女の左手にはかつてテスラが贈ったラピスラズリのブレスレットと、手の甲の稲妻のような令呪が光っていた。
「そういえば、博士はこの仕事が終わったら座に帰るんですよね?」
「…ん?あぁ予定通りであれば、君と契約をしているがな。藪から棒になんだね」
「いえ、新しい質問項目に『もし座に帰る前に好きなことができるとしたらなにをしますか?』っていうのを増やしたんですよ」
「毎度の如く思うが、記録係というよりも雑談係のようだな。その質問の意図としては魔力制限はないのか?カルデアの聖杯を借りることは?それから」
テスラの工房内でエクレールは自分専用と言っていいように置かれたデスクチェアに腰掛けて。作業をしているテスラに何気なく声をかけると、彼は振り向くことなく自分の作業をしつつも、決して彼女の言葉を無視することはなかった。
サーヴァントでありながらも、科学者としての研究や開発などの手を止めることは決してなく。反対に毎日のようにフルパワーだといわんばかりに意欲的に活動をしており。彼女はニコラ・テスラという男が"人"でよかったと思う。
元より睡眠時間も長くない彼が生前止まることのない、蒸気機関車のごとく活動していれば、気付かぬうちに倒れていたり。もっと様々な物が世の中に出回っていただろうとも感じるからだ。
生前より活力的なところはあるが、サーヴァントとなってからは尚のことであるテスラをみているとエクレールは一体いつ休むのやらと思いつつ、先程の質問に対して相変わらず可愛げのない返事だと感じた。
「別に簡単にですよ、仮定とかは抜きで……まぁ、あとは聖杯とかはなしで自由を数日間だけ。とかならどうですか?r
心理テストとかは向かないタイプだな。とエクレールが内心苦笑いをしていると、テスラは手を止めて振り返る。どうやら作業は一旦終了したのだろうか。彼はエクレールの前に置いてあるコーヒーを我が物顔で飲むことも今では気にならない彼女は回答を待っていれば、頭を休ませるように考えて。そしてアーチャークラスは現界は二日間……ここの外でも行けるとして……とつぶやく声にどうやら宇宙との交信でも始めたかのように意識がいってしまう彼にダメだったかと思いつつ、ついに会話を諦めてタブレットに目を落とした。
それからすぐにタブレット取り上げられるとエクレールは慌てた。
テスラの電圧でタブレットが何台も壊れて所長たちから怒られたことは懐かしさもない。何度も繰り返されてきたことで、本人には悪気は無いのだが無意識な高電圧が原因の場合が多いのだ。
しかし、二人の瞳がバチリと火花が散るような。まるで双方のプラグとコネクタが合うように重なると、テスラは一言だけ告げた。
「この工房で君と過ごす」
「今みたいに?」
「あぁ、不変こそが平和の象徴だろう」
私は最後まで人類のための歩みも止めたくはない。というテスラらしい発言に彼女は小さく目尻を緩めてはテスラの手から取り戻したタブレットで彼の項目を開いてメモを入れて置いた。
もちろん、彼の言葉そのままというのは些か彼女にとってはむず痒いため『人類の為に自分が現界できる最後まで歩みを続ける』と書き記したが、手を止めていたテスラは彼女の隣の椅子に腰掛けては彼女をじっくりと見つめた。
「まぁもし数日あるというのなら、我が助手を労る日を作るのもいいだろう」
その言葉は予想していなかったと彼女は目を丸くする。
今の彼にとって"助手"と呼べる相手はエクレールしかおらず。つまり彼の言葉は目の前にいるエクレール・アヴニールを労るということだった。
日頃から彼の研究や無茶に付き合わされ続けていたエクレールにとって、テスラへの苦労は正直なところかわいいものではなかった。一端の魔術師である彼女は無断で自分の魔術回路を弄られ、さらにはカルデアというこの特殊環境においてマスターという選ばれた存在しか慣れない。なってはならないようなところで彼に無理やり仕立てあげられたのだ。
怒ってやりたい気持ちは常にあるがその気持ちはゆっくりと諦めに変わってしまったのは、彼が誠実な男だったからだ。
「じゃあ、私旅行に行きたいです」
「ほぉ?何処に行きたい。というか君はそれなりに少年達に同行してるのだから様々な国へ行ってるだろう」
「あれはレイシフトやシミュレーターでしょ?ちゃんとした旅行ですよ旅行」
呆れたようにいう彼女は仕事をおいて、テスラに体ごと向き直ってはどこがいいかと話をした。アメリカは去年のあの一件があるせいで少し候補から遠のいてしまうが、ありとあらゆる国に行きたいと思えた。
「うーん、やっぱりヨーロッパ系ですかね?あんまり回れてないし。イギリスイタリアスペインにドイツ、あぁフランス……パリなんて素敵ですよね」
「フランスは食事も文化も芸術も完璧だ、私が喜んで勧めよう」
「え?フランス語出来るのは知ってますけど、好きなんですか?」
「フフ……何を隠そう私は初めてパリに行った際に一日で給料全てを使い果たしたのだ!」
お陰で残りの二十九日は大変になるところだった。と過去を懐かしむように言うテスラだが、エクレールは目を丸くした。
確かに彼は若い頃にエジソンの元で働くためにパリに行ったことは知っており。フランス語を含む八ヶ国語にも精通していることは知っていたが、若い頃の彼の所業を聞いては「自慢できませんよ」と言いつつも、呆れたように楽しそうに笑ったのは彼らしいからだと思えた。
日頃から研究や開発に忙しない彼が芸術や哲学などを含む分野も深く愛しており。時折本の虫のように図書館で無邪気に本に読み耽る時があることを知る彼女はそれを好ましくも感じた。
ニコラ・テスラという男との会話は難しい会話があれど、時折シェイクスピアのような美しい詩のような言葉を放つ時もあり。彼女はテスラの様々な面を持つ姿を素直に好意的に思えて、飽きることなく会話を楽しんだ。
「そういえば私、カルデアに来る前は旅行に行って写真を撮るのが好きだったんですよ」
「ほぉ中々いい趣味じゃないか、今までは何処へ?」
「なんか行きたいなぁってところですよ、ロシアとか北欧とか、あと中東もちょっと行きましたし、個人的にはアルゼンチンとかもよかったですね」
ブエノスアイレスでサッカーを見たりタンゴバーで過ごしたりしたんです。と話しながら彼女は思い出したように個人用のスマホを取りだして、少しの間調べると、テスラに向けて写真のアルバムを見せた。
性格が出たように各国によってアルバムのフォルダが分けられているが、相当数あり。彼女が好きだったというのは嘘偽りや軽い言葉では無いのだと思いながら感心した。
「誰かといったのか?」
「ほとんど一人ですよ、友達とは精々行けても近場くらい」
一人の方がこういう所は行きやすいでしょ?と丁度テスラが開いていたフォルダの中にある寂れた岬の写真があった。誰もいない静かだが心地よいほどの晴天で、その岬には灯台が一つだけ映っていた。
彼女の写真はどれも風景や街の人の写真が多く。それは彼女がアヴニールという"観測者"としての本能のようなものにも感じられたが、嬉しそうな笑顔を浮かべて旅行の話をするのを聞けば、彼女自身だからかとテスラは納得した。
「君は一人は危険だ、なんといっても前科二犯もあるからな」
「一回目は博士のせいでしょ」
テスラの言葉にわざと頬を膨らませて左手を軽く振って見せると、彼女の細い手首にはラピスラズリのついたブレスレットが揺れる。テスラが彼女のために用意したそれは魔術師にとって喉から手が出るほど欲しくなる代物といっても過言では無い。
何せ簡易召喚から魔術回路や魔力の変化に確認、さらに通常の仕様としてもGPSにバイタル確認に近頃は通信機能も付け加えており。カルデアの技術部からは細いブレスレットのどこにそんな機能を、中身を見せて欲しい。といわれる次第で、テスラは助手専用のものであるため企業秘密だと珍しく教えることはしなかった。
二回目に関してはエクレールのせい…というよりも、アヴニールという特殊な家系の人間であるゆえであり。エクレールはあの事件の時の報告書の山を思い出しては今でも頭が痛くなり。その原因も一部はテスラにあるとして少しばかり睨んでみるがテスラは小さく微笑むのみで、彼女もはぁ…と小さなため息を吐いて笑うと提案した。
「ニューヨークはしばらくは懲り懲りですけど、もし次旅行に行けるなら私セルビアかクロアチアに行きたいんですよね」
「両国とも素晴らしい国だ。セルビアは古代ローマやオスマン帝国の歴史があるから街並みがどこが懐かしくもあり美しいし、クロアチアは自然豊かで海が綺麗だ……」
──それになにより博士の縁が深い場所でしょ?
珍しく話を被せてきた彼女の言葉にテスラが目を丸くするといたずらしたような顔をして笑った。そして少しだけ照れくさそうに視線を逸らしてはテスラの足元に視線を移す。
「博士のことをもっと知りたいんです。博士が座に帰って私のことを忘れても、私にとってこの人生で、博士はきっと何よりも忘れられない人だから。博士の行った場所……過ごした場所……本を読むみたいに、記録を辿って、私はそれを"観測"したい」
それはあまりにも強い愛の言葉だと感じた。
テスラは彼女が自分の膝の上に置いた手に自分の大きな手を重ねると、エクレールは少しだけ肩を揺らし。テスラは「エクレール」と名前を呼んで振り向かせた。
「私は君と出会い、君と隣にいることを幸福だと思っている。そしてこの出会いは奇跡だと。だから私はわかるのだ、座に帰ったとしても君を忘れることは無いと」
──忘れられるわけがないと。
そういってテスラのもう片方の手が彼女の髪を耳にかけるように撫でた。
相変わらず整った顔立ちで、美しい笑みを浮かべる男だと思いながら彼女は胸の内から熱くなるのを感じた。
「じゃあ最後の日は二人で旅行に行きましょ。それで二人で沢山写真を撮って満喫して、それでまたねって、それが私の願いです」
「あぁエクレール、私は強欲だからな……出来れば君とは離れたくないものだ」
「珍しく甘えてくる……もう、そしたら一生人理が修復されないじゃあないですか」
テスラは珍しく素直に彼女の左肩に顔を埋めて呟くため。平和な世の中にしなきゃと言う彼女をテスラは両手で握りながらわかってると答えた。
「平和になったその世界でも君と生きていたいのだよ」
同じ時代に生まれていればよかったかもしれない。なんて有り得ない話をしてはエクレールは内心、きっと同じ時代なら互いに見向きもしなかっただろうと思いつつテスラの広い背中に腕を回した。
サーヴァントとマスター、サーヴァントとスタッフ、博士と助手、天才と凡才、正反対の立場であれども二人の絆は特別なものであった。二人は今度シミュレーターで海にでも行かせてもらおうと話をした。どこか二人を遠くに連れていってくれるような、そんな海を感じたいと思ったから。
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