四話
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翌日午後十三時頃、聖ルジツァ教会にて──
「「エクレールさん!」」
「え?誰ですか?」
カルデアとの合流が完了した。
こじんまりとした小さな教会内にはエクレールとテスラ、そしてカルデアからやってきた若き少年マスター・藤丸立香、マシュ、ホームズ、ヨハンナ、エルキドゥの合計七名が揃っていた。
「ここかな?」「ここですね」「ここのようだ」と話し声が聞こえる中でもエクレールは昨日同様にカメラのシャッターを切っては細部まで切り取るように熱心な様子で、テスラはカルデアが来たことを魔力から感じていたことや、彼女を即座に守れるようにと現界した状態で、腕を組みながら静かに眺めていた。
通信が繋がったこともあり。
朝になって寝ぼけ眼で起きた彼女にテスラは淡々とした口調で説明をした。
「今日は私の仲間であり、君の手助けとなる者たちが来てくれる。昼からになるからそれまではここで待機していて欲しい」
「仲間……博士が昨日話してた人達ですか?近くだけでもダメですか?」
「ダメだ、君は昨日狙われたんだぞ」
「あぁいう見た目の子って知能低いから近くにいた私を狙っただけでは?ほらモンスター映画だと誰彼構わないじゃないですか」
モンスター映画と同じ感覚なのかとテスラはすっかりと呆れてしまう。
昨晩あれだけ恐怖体験をしていながらも次の日にはケロりとしてるその態度には多少の尊敬さえ感じてしまうが、テスラは記憶があるエクレールであれば状況を事実だと受け取り「そうですね」と同意してくれるのに。と思いつつ、目の前の完全な一般人である彼女をみて仕方ないと呆れつつも「君を狙ってたのは明白だ、兎に角いうことを聞いてくれ」と普段とは反対の立場になった気分で言うと、エクレールは呑気な返事を返して数分後困ったようにテスラに声をかけるため、エクレールの為にと作業していたテスラは顔を上げては何事かと思った。
「朝ごはんのビュッフェに行くのはダメですか?」
「………ホテル内なら構わん」
本当にどうしたものか。とテスラは内心困っていたのだった。
そして現在、カルデアと合流した彼女はやはり彼らのことも記憶にないらしく、小首を傾げて「えーっと」と呟くため、昨晩話したように完全に記憶がないのだと彼らは理解しては仕方ないとした。
「それでカルデア側でわかったことは?」
「まずここはテスラ博士、あなたが仰った通り。別世界の地球のようだ。だから凡人類史の方にはなかった"セルチア"という場所があるらしい。ミズ・エクレール、あなたは何故ここに来たんだ?」
「私は旅行ですよ?写真を撮るのが好きなんです。なんで来たって…ここは海も綺麗だし。歴史的な建造物も多くて綺麗な街ですから。あぁでも飛行機で来たのにチケットを無くしたみたいなんです」
パスポートもなかったし……とホームズの問いかけに答える彼女にホームズはだろうな。という顔をしながら、彼らが初めにレイシフトして到着した先はメインのこのベオグラードという街から少し離れたドヴロヴニクという場所であり。そこは本来はクロアチアの都市である。
青く美しいクロアチアの海沿いで、赤屋根の建物が並び巨大な石壁に囲まれた美しい場所であり。その地理についてはテスラも昨晩の情報収集からしっかりと理解しており。この国は完全に二つの国が混じったものとなっていた。
「それと博士、迎えのために来たけどどうやらここは一方通行みたいで帰れないらしいんだ」
「少年……それはつまり?」
「何かしらの事件を解決しなければならないのだろう?」
「名探偵がいるから丁度いいわね」
ヨハンナさん……と深刻そうに告げた筈の藤丸が呆れたように言うと、女教皇ヨハンナはシュンとした顔をしてはすぐに言葉を閉ざした。来ているメンバーについてはレイシフト適性があったメンバーであり。ホームズとヨハンナ、その他数名のルーラークラスのみがあったものの一番適性の高い二人を呼び。さらに到着後の簡易召喚で一人だけ呼べるとなり。エルキドゥに力を貸してもらう運びになったのだという。
「それと一つ、気になることがありました。私たちが最初にいたドヴロヴニクからアドリア海をみたところ、何か黒いものが海を被ってるようにみえたんです」
「見間違いでなければ聖杯の泥に似ているように感じられたね」
「神の兵器エルキドゥが言うのなら間違いはないのだろう」
異常な地形、場所、そして聖杯の泥。
話をすればするだけ気がかりな点ばかりが残ってしまいテスラはホームズ同様に考える。どうやら今回のワトソン役は自分かとテスラは思いつつもどう動くものかと考えていた頃。小さな挙手がされる。
それは今回の事件の中心人物、記憶のない観測者エクレール・アヴニールだった。
全員の視線が彼女に向くと、ぐぅ……と小さな音が鳴り。ますます彼女は恥ずかしそうに顔を赤らめて告げた。
「お腹空きませんか?お昼まだだからお腹空いちゃって」
「そうですね、ちょうど僕らもお腹すいてるんで行きましょうか」
「情報収集がてら、丁度いいだろう」
「エクレール……全く君は本当に危機感を。いやもう少し……まぁいいか、仕方ないセルビアもクロアチアも美味しい料理が沢山ある。私が案内してやろう」
エクレールの一声に一旦は情報収集がてら食事に行こうと話をした。
テスラはエクレールとのパスが完全に切れてしまっている今はカルデアとの仮契約をし。魔力に困らない状態とはなったが、自分の隣を歩く彼女についてはやはり不安を取り除けないままだった。
ベオグラード要塞の聖ルジツァ教会からドナウ川沿いを歩いてメイン通りに戻ってきた一同は、クネズミハイロ通りという共和国広場へと到着した。
人々は多く、みな穏やかであり、だからこそカルデア一同が異常であるように浮いてしまうが、それこそが大きな違和感であると彼らは知るが、エクレールはいつの間にか用意していた観光向けの薄いガイド本を開いては既に頭の中は観光料理に向いているようで、同じく食が好きな日本人である藤丸立香もマシュを呼んでそのガイドブックを片手に楽しそうにしていた。
サーヴァントにとって彼らは憩いの存在だ。
今を生きているからこそ輝いており。そのために力を貸したいと思ってしまう。特に藤丸立香もエクレール・アヴニールも善人であり。人のために泣いて怒ることが出来る優しい心の持ち主だった。
記憶がないといえどエクレールの藤丸への態度はいつもと変わらず、二人は年の差はあれば、それは年の差のある姉弟のような、良き友人であり仲間だった。
ちょうど若い三人があれやそれやと楽しそうに話をしていたものの、好奇心で覗いたテスラはここがセルチア、つまりはクロアチアとセルビアという二国が混ざり。特に彼に縁深い場所であるということを思うとエクレールの手にあったガイド本を手に取ってしまい。一体何事かと驚く彼女にテスラはどこか自信があるようにいつものような彼特有の笑みを見せた。
「三人ともガッツリ系が好きだろう?さぁ我が祖国セルビアが誇る料理プリェスカヴィツァを堪能するがいい!」
「「おおーー!!」」
「プリェスカヴィツァといいますと、バルカン半島……いえ、主にセルビアの伝統的なお肉料理ですよね?」
「そうだとも、日頃からジャンクフードを好む少年や、その国の料理を好むエクレールにとって丁度いいだろう」
七人がやってきたのは少し路地裏に入った観光客より地元民寄りのレストランのようなお店で、それぞれの前にはプリェスカヴィツァと呼ばれる肉料理のハンバーガースタイルになったものが提供されていた。
目の前の巨大ハンバーガーに目を輝かせるのは二人のみならず、珍しく観光気分になってしまうサーヴァントの面々も同様であった。本来は食事を必要としない彼らはマスターたちだけで……と断ろうとしたもののエクレールが「折角なんですからみんなで食べましょう、代金なら私が払いますし」と提案されてしまうと断る理由もなくなって、珍しいことに全員がカルデア以外の場所で円形のテーブルを囲んでいた。
「それじゃあ、早速いただきます!」
藤丸の声に合わせて全員が手をつけると、大きく口を開けて目の前の馳走にかぶりついた。
セルビアやバルカン半島周辺の伝統的な気泡の多いふんわり柔らかいレピニャパンに、平たく大きく炭焼きされたプリェスカヴィツァはジューシーで肉汁が奥からじゅわりと溢れ、香りの良い肉と油とブラックペッパーの味はもちろん、共に挟まれたレタスやパプリカや玉ねぎにアイバルソースとチーズが混じり合い。まさに全員にとってはとびきりの味であった。
思わず目尻が下がる程に緩んでしまうものの、エクレールやマシュやヨハンナなど女性陣の手からははみ出るほどに巨大なそれに四苦八苦しながらも頬張っており。
エクレールの隣に座って共に食事をしていたテスラは彼女を見ると思わず目尻を和らげて、自身の手元に置いてあるナプキンで口元についたソースの汚れを拭った。
「あっ、すみません博士」
「構わんよ、それよりも口には合うか?」
「はいとっても美味しいです、ちょっと大きいですけど……そういえば博士は祖国って言ってましたけどセルチア出身なんですか?」
「あぁいや、私はクロアチア出身だ。だが両親はセルビア人で私もそのセルビアの血を誇りに思っている
「クロアチア……セルビアって両方セルチアの前の国ですよね?随分昔の名前だったような?それも百年以上も前ですよ。博士ったらいくつなんです?」
驚いたような彼女に一方的に質問をしていたが魔術も知らなければ英霊のことなど知るはずもないかと全員が改めて驚いてしまい。そしてニコラ・テスラのことを本当に覚えていないのだと一同は感じながらもテスラは気にせずに「まぁ正確にいえばそれくらい前だな」と返事をしては改めてカルデアや英霊などの話をしてやると、彼女はまるでおとぎ話を聞いているようであった。
「つまり今ここにいるメンバーは、藤丸くんは私と同じ人で……マシュちゃんは円卓の人、エルキドゥさんはメソポタミアの人、ヨハンナさんはあの女教皇様で、ホームズさんは名探偵……で、博士は本当に博士、だと?」
「まぁ……そうだねってこんなの言っても意味わからないですよね」
苦笑いをする藤丸に対してエクレールはポテトを食べながら「ううん」と嬉しそうに笑みを浮かべながら否定した。彼女の瞳はしっかりと目の前の彼らを見ており。決してそこには嘘偽りや嫌疑の目を向けるようなものではなく、純粋に目の前の相手を見据える眼差しだった。
「だって目の前にいる人達は本物だもの。例えその話が嘘か本当か分からないとしても、今目の前の本物を私は信じるよ」
そういう話は好きだし事実かどうかを確かめるためにアーサー王伝説の舞台まで行ったくらいだしと笑う彼女に全員が彼女が変わらない本物のエクレールなのだと感じた。
彼女は観測者であり記録係として様々な人と話をして、そしてそれを記録してきたがいつだってどの話も真っ直ぐと受け止めた。自分が経験したことがなくても、嘘だとしても自分が見たものだけは嘘では無いからといって。
「それに博士と出会ったのはあの博物館の前だし、きっと私たちそういう縁があるんでしょうね」
運命みたい──という言葉を使った彼女にテスラは微かに笑みを浮かべては記憶のない彼女をみつめては「あぁそうだ」と返事をして食事を続けた。
たとえ記憶がなくとも彼女はずっと変わらない。ただ隣にいてくれるのだと彼女の左手から離れないように設置したブレスレットをみつめて彼は食後のコーヒーを味わったのだった。
「うぅ……七人のお会計ってまぁまぁするね」
「ご馳走様でした……」
「あっ、あのエクレールさん今回の食事代は経費で落ちますから、帰ったら領収書を経理の方にお出しくださいね」
スッカラカンだと嘆いたふりをしつつもエクレールは優しいマシュと藤丸に冗談だと笑って返事をして、この後は情報収集と現地調査をしようということとなり、大人数ではあるもののエクレールがいることもあり離れるのも危険であるため集団の行動となった。
店を出て、裏路地から表通りに向けて歩き出したカルデア一行は晴天のセルチア海の匂いを乗せた心地よい風を感じながら歩き出していた時、黒い泥のようなものが地面から溢れては形作られていく。
周囲を歩いていた人々はそれを見た途端に悲鳴をあげて逃げ出し、近くの教会の鐘の音が大きく鳴り響いた。それはまるで空襲警報かのごとく危険を知らせる鐘の音である。
テスラとマシュがエクレールの前に立ち、ヨハンナとエルキドゥが背後を守り、左右をホームズと藤丸が挟むのは戦闘に慣れた姿であった。
泥から形作られた人型の化け物は一行を目掛けて攻撃をしかけてくることにマシュが即座に盾で押し返し、テスラが雷撃を食らわせた。エルキドゥの鎖が飛び交い泥のようなそれが簡単に貫かれるが聞いている様子はなく。反対に地面からはさらに泥が溢れて敵は増えていく一方であった。
「全く聞いている様子がないな、まるで泥のようにも感じる」
「撤退しようにもどうしようも無いし、建物を登って上に……ってダメか」
「少年、宝具の解放をしてくれ、私の雷霆であれば纏めて機能停止出来るだろう」
「足止めだけでもできたらいいし、博士たのみ───「その必要はありません」
黒い泥の敵が現れたことにより空が暗くなっていき。
ホームズの言葉にキリがないと判断した藤丸はテスラの宝具解放を認めようとするが、その言葉は聞こえてきた一つの声によって遮られる。
凛とした人々を率いる声。希望の旗を手にし、白い聖衣に黄金色の髪をした聖女。それは紛れもなく───ジャンヌ・ダルクであった。
「主よ、どうか我々をお救いくださいませ」
その祈りと言葉と共に強い光が敵を照らし、ジャンヌの旗が覆うように相手をなぎ倒すと、泥は先程までの攻撃とは違い崩れて何も無かったように消失していく。
「そちらの聖女様もお力添えを頂けますか?」
「私ですか?はい、もちろんですオルレアンの聖女ジャンヌ!」
突如声をかけられたヨハンナは自身の杖に魔力を注ぎ振りかざせば同じく泥は消えていくものの、敵は際限なく増えていくため、彼らを守るように現れたジャンヌは先頭に立つと「私が先陣を切りますので皆様は着いてきてください!」と声をかけるため、彼女が敵か味方かも分からないもののテスラは自分の背後にいたエクレールをみると、昨晩のように不安そうに彼を見るためテスラは「大丈夫だ、必ず私が守ってみせる」と言っては彼女を慣れたように抱き上げては藤丸の判断によりジャンヌについて行くことにし。
彼らは敵をなぎ倒しながら進んでいくと一つの教会が見え、敵は教会に近付くと減っていき、ジャンヌが招くその教会へと一同が入ると、祭壇には一人の女性が立っていた。
「ようこそ旅の皆様、私はシスター・ペトロヴィッチ、皆様を歓迎いたします」
そういった女性はまるで聖女のように美しかった。
シスター・ペトロヴィッチと名乗った彼女はエクレールをみると愛想良く微笑むため、彼らは少しだけその教会で羽を休めることにするのだった。
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