十一話
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パーシヴァルのマスターの撤退命令を受けた彼らは悔しながらも森を抜けて、すぐの小さな町にたどり着くとパーシヴァルに案内をされながら見知らぬ教会へと辿り着いた。
時刻は日付を跨いだ二時前。
スミリャンからの長距離移動や戦闘などからすっかりと疲れ切ってしまっていたものの、一同はたどり着いた教会のドアをパーシヴァルが開いた時、警戒心を緩めることはなく、中をみると二人の男がいた。
一人は先日みかけたシェイクスピアのマスターであるグスタフで、その隣にいたのは見慣れない屈強な中年の男で、険しい顔に白髪混じりのブロンドヘアが特徴的な男だったが、パーシヴァルが案内してきたことも含めて噂に聞く、ライニール・アルバ・クレイフォンという男なのだと理解する。
話をしていた二人は開いたドアに注目すると、パーシヴァルの後ろから着いてきたカルデア一同のペトロヴィッチのサーヴァント・ジャンヌを見て、その中にエクレールがいないのを確認するなり「引いてきたのか」と確認するように告げたあと、しっかりとした足取りでやってきては迷いなく藤丸立香に近付いた。
警戒をするマシュとヨハンナだったが、ホームズやエルキドゥは相手に敵意はないとみて特に気にしなかった。
「よくここまでたどり着いたな。俺はライニール・アルバ・クレイフォン、パーシヴァルのマスターだ」
「初めまして、カルデアのマスター藤丸立香です、撤退指示を頂いたので従ったまでです」
お陰でなんとかここまでこれた。とまだ成人も超えていない。少年でありながら戦場に慣れたように受け答えをする藤丸にライニールは立派な少年だと感じつつ、自分がベオグラード警察の刑事であり、今回の聖杯参加者であることを告げたため、藤丸は聖杯を宿したとされるエクレールは現在ブランクに拉致されたままの状態であり、奪還はできなかったことを素直に告げるが、彼は常に使い魔として小型ドローンを出していたため、パーシヴァルがいたことも相まって、現場の状況はある程度把握していた。
「聖杯があの男の手にあるのはとても危険だ。調べたところヤツは魔術師としてもあまり悪人の部類だろう。グスタフからも聞いたが奴は古代魔術や魔道具などに昔から興味深く、アヴニールについては特にだとか」
「定型的な魔術師だ、プライドが高いせいで、アヴニール家に恥を欠かされたこともあって尚のことなのだろうな」
ライニールとグスタフの言葉にカルデアの面々もそれは見ていてよくわかると思いつつも、目の前の男たち二人は聖杯戦争の参加者であるが、なぜここに集まっているのだろうかと思った。
ライニールはまだしも、グスタフ自身が数時間前に顔を合わせた際に観客として見るだけだと言っていたはずだ。ブランクの情報については提供するがあくまでもそれだけのこと。
ホームズは念の為に質問すると、彼らは古い友人関係であり、聖杯戦争においては休戦かつ協定を結んでいるため、双方は決して互いを傷つけるつもりも裏切ることもないと、態々念書を押しているのだという。
「彼は第三者を務めると言うが、俺は違う、俺はエクレール・アヴニールを」
───殺すつもりだ。
男は鋭い瞳で静かに告げると、静かに聞いていたテスラは教会の礼拝堂の長椅子の背もたれに触れていた手に力がこもり。思わず椅子にヒビが入る。
木の割れる音と、小さな火花が散って、パチパチとも音が静かに響いた。
「いまなんと?」
「エクレール・アヴニールを必要とあれば殺すと言った、聞き間違いではない」
貴方は数キロ先の針の音が聞こえるくらいには耳がいいのだろう?といわれるが、ライニールは煽るわけでもバカにしている様子でもなく、真面目に言っており。グスタフはそういう男だと一言で片付けるがテスラもカルデアもライニールが彼女を殺す。という発言を聞いて、分かりました。とは当然言えるわけがなかったものの、その中で特に珍しく理性的なはずのテスラが余裕なく、怒りを抑えない様子であるため、反対に大人しくなれた。
「殺す。だと?」
「世界を救う為だ、俺には別れた妻との間に一人息子がいる。それに俺は一人を殺して百を救えるのなら、そちらを選ぶ」
その言葉にテスラはかつての別世界の自分を思い出した。
世界か、一人か──テスラはあの時もエクレールを選んだ。
目の前の男は"息子のいる"世界を守るためというが、それは今のテスラとおなじ立場になれば、彼もまた命を狙われる息子を守るのだろう。反対の立場になれば双方理解は出来るものだった。
ライニールは少しだけ緊張しているのかポケットからタバコを取り出して火をつけるとヨハンナが教会ですよ。といったが彼はここはもう誰も使っていない。といった。そんな問題ではないと思いつつも火をつけたタバコを一息吸って、肺に汚染された空気を流しては紫煙を吐いて背後のマリアの絵を眺めた。
「人を殺したい訳じゃない……だが、それ以外に救う方法も時間もない。ただそれだけのことだ」
別にあの館の彼女を今すぐ殺したくてパーシヴァルをやったわけじゃない。というライニールの動機や行動原理は彼らにとっても納得のものだった。
仮に聖杯を手に入れても最後の一人になるまでは稼働しない。しかしいま、聖杯を手にしているブランク達は無限のパワーを手に入れたようなもの。それに打ち勝つにはどうすればいいのかという話だった。
何せ魔力同士の押し合いであれば確実に負けてしまうのは目に見えている。それは全員が理解しており、作戦を練るにもどうするものかと思えばライニールがそのことを伝えるために彼らを一度撤退させたという。
「奴らの魔力は相性のためか夜が特に強くなる。だから襲撃するなら朝がいい……」
というと、ライニールはさらに言葉を続ける。
それは彼が刑事であり、元軍人である故に冷静に状況判断と分析をしてのことだ。
彼女のことが心配で今すぐ行きたいのはわかるがドローン映像で観測する限り、先程のテスラの宝具や攻撃から相手の館のメイン機能が一時停止されており、復旧にはまだ時間がかかるためしばらくエクレールは何もされなくなること。
ブランクの目的は聖杯ではないため、彼女を殺して引きずり出すことはほとんど確実にない。またアヴニールについても熟知しているため、無理矢理を働くことも少ない。
「となれば、夜明けか……?だが聖杯持ちだ」
「聖杯は機械から吸い上げて魔力にしている。つまりは機械が停止している以上はあそこにあった分しか利用できない。ブランクの魔力量がどれくらいかは分からんが奴は"特別"な男では無い」
「教授は厳しい言葉を掛けるね。今の言葉を彼が聞いたらヒステリックになるだろう」
テスラの悩みに答えたのは静かに聞いていたグスタフだが、彼はその問題もないことを指摘しつつも小さな毒があるように感じられ、皮肉屋なのかもしれないと感じるが。ホームズがいうとグスタフは「フラれた女に執着するなんて女々しいだろ」と厳しい声をかけるため、どうやらグスタフは相当あの手の男が嫌いなのだと理解できた。
案外はっきりした性質の男ゆえに中立の傍観者を極めようとしているのかもしれないと感じながら、それでも問題はいくつもあるだろうと話を続けたが、森から出て少ししたこの町は既に人が住んでいないのだという。
なにせ北の森には化け物が、さらに聖杯の泥も現れる可能性があるため、ベオグラードや他の安全な場所に向かうのが当然のことなのだ。
しかしそれが逆に助かるものだとライニールとグスタフは言っていると教会のドアが激しい音を立てて開いた。深い夜の中、教会の明かりを受けた男は黒いローブを深く被り、不気味に笑った。
「フッフッフッ、ハッハッハッ」
「ウィル、そういうのはいいからどうだったんだ」
「マスターは演出を楽しんでくれませんなぁ……まぁいい、結末だけが知りたいのでしたな。この町の発電機は問題なく利用可能でしたよ」
その言葉に藤丸とテスラが顔を見合せた。
なにせテスラの得意部門であり、彼の無限のエネルギーのひとつとも言えるものだからだ。
その表情を見てグスタフはこの町は元々電力発電に特化した電気の町であり、町の中やその近辺を含めても発電所が数箇所あり、さらにそれをこの一箇所に集められるようになっているのだという。
さらにヨハンナやジャンヌという純正の聖職者や聖女たちに関しても、セルチアは信仰深い場所であり、この町も例外になく信仰の力が強い為、二人へ普段送られている魔力量よりもさらに多くを得られるはずだといった。
「向こうは聖杯かもしれんが、こちらには科学と人々の願いがある。我々だけでは戦い抜けないのは事実だ、力を合わせて切り抜けないか?」
ライニールのその提案に藤丸は自分の仲間たちを見て小さく頷いては彼の力強い手を取り強く握り返した。
決行は数時間後の朝焼けと共に。
それまでにテスラは発電所を巡り、それぞれがあの教会に流れるようにと設置した。
教会には巨大なテスラコイルを設置し、テスラ自身の魔力へはもちろん、他のサーヴァントにも流せるようにと小型デバイスを即席で作り上げて渡した。
セルチアの土地はテスラにはよく馴染むのか電力についても特段問題はなく、自然に馴染んで溶け込んだ。それでも彼らにも容量があるため、限界はあるが予備の魔力がカルデアとは別にあるというのはとても大きく、全員が宝具の解放をできる程度には問題ないだろうと感じられた。
人間である彼らも仮眠として作業が進む教会ではなく、近くの人のいない宿で休んでもらい、テスラは一人で作業をしていると背後から気配を感じた。
「何か用かねオルレアンの聖女」
「いえ、特にはないのですが、貴方はあの方を特別想われているのだと思って」
「それが何か?」
テスラは手を止めずに決戦に向けての準備をしていたがジャンヌはその後ろでどうしたらいいのか分からない顔をしており。テスラはこの聖女は時折中身が普通の女性なのだとカルデアの姿を思い出しては手を止めて振り返った。
「彼女は私のマスターだった。助手であり、スタッフであり仲間。そして私は彼女に対して女性として想っているのも事実だ」
生前の自分が見ると驚くほどに……と自嘲するように言ったテスラはジャンヌの眉が下がることに息を小さく吐いた。
「今回の件はあなたのせいでは無い。聖杯が彼女を選んだのだ。アヴニールという特別な存在だから仕方ないだろう、別に不思議なことはない」
「それでも巻き込んでしまっています」
「あぁそうだ、彼女の命が脅かされている。だから私たちは助けるし貴方に尽力してもらう」
人は歩むものだ、何度打ちのめされても立ち向かうのが人だ。
「現在は彼らのものだが未来(アヴニール)は我々のものだ」
よく覚えてるといい。と聖女に説法したテスラは作業があるからとジャンヌを帰し、一人残された教会で自分の手を見つめた。そこにはもう彼女との魔力の繋がりは感じない。それでも彼女に触れた時の温もりも感触は忘れはしない。
───未来は彼が手にする光なのだから。
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