十三話
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眩い──では足りないほどに明るい光で、太陽を目に入れるかのごとく存在だった。
光は人にあらゆるものを届ける。
温もりも、安心も、心地良さも、快適さも。
けれど人類で初めてその光と人々に届けたの人物はどうだったのだろうか。高い天井を埋め尽くす本棚、図書館の一室にて彼女はそんなことを思った。
その時代には数多の天才がいた。
時代は大きく移り変わり、進化する時代であり、かの国さえようやく一つとなり、巨大な今の世界の先導国となったほど。
ありとあらゆるものが変わり、進化した時代であり。
今でこそ当たり前のものが異端で、今でこそ注射一本で済む病気に怯えていた。
その天才はあまりにも悲惨だった。
この世界にどれだけ貢献したから考えられないほどのことを成してもなお、人々に時に搾取されるように騙されたり、意味がないと見捨てられたりし、最後には孤独な死をホテルの一室で迎えたのだ。
『よし!君は今日から私の助手だ、明日からここに来なさい。光栄に思いたまえ私自らが君を雇うんだ。給料は払えないがカルデアのスタッフだからいいだろう、私もここでは無給だし、あのすっとんきょう凡骨守銭奴ライオンならうるさいだろうが私はそういうとこは柔軟なタイプだ』
想像するよりもずっと違う男だと感じたのは彼が"英霊"になったからかもしれなかった。
全くもって迷惑な人だと感じて、廊下を歩いているだけであの特徴的な笑い声で誰がいるのか分かってしまうほど。
彼女は彼に心底うんざりしたものだ。
何せ彼は人を助手に任命したかと思えば、自分しか外せないようなブレスレットを渡してきたり。かと思えば厳守されたルールの元で過ごしていた場所で大きなルール違反の末に人をマスターにしたのだから怒りを通り越してしまうほど、
本気で拒絶出来ればよかった。
けれど初めて助手と言われた時、あんな天才に言われたら嬉しくないわけがないと思った。彼のせいで命の危険があったというのに一番最初に駆けつけてきてはその大きな背中で守ってくれた。自分がその世界を救うための道具になれと言われた時、彼は本気で怒ってくれた。
死の香りが染み付くようなニューヨーカーホテルの三三二七号室のベッドの上で互いの為にと初めて肌を重ねた時、彼は何処までも優しかった。愛おしい人に触れて、互いの瞳を覗いて、繋がり合うとサーヴァントと人という繋がりゆえなのか記憶が双方を流れた時、どうしようもないほどに相手を愛おしいと感じたのだ。
広い背中に腕を回して、唇を重ねたとき、彼は小さく微笑んだが、それはあまりにも優しく暖かく、まるで初めて光を得た人類の気持ちを知った気がした。
何度も呆れて、何度も怒って、何度もトラブルに巻き込まれて、何度も声を荒らげて、それでも隣にいるのが悪くないと思ってしまったのだ。
なのにどうして、相手の顔を思い出せないのか、何故相手の名前が分からないのか、分からなくてもどかしかった。
夢の中にいるのはわかっている。映画のフィルム映像を眺めるようにその記憶を思い出しても、彼の顔も名前も分からないが、画面が切り替わると温もりと愛おしさに駆られてしまう。
「……はか、せ」
小さく呟いた声に男は手を止めた。
ブランク・ハリー・ホワイトは数時間前に破壊された機械の復旧作業を続けており。彼女を縛っていた椅子も一部破損してしまった為、仕方なく彼女を部屋の奥にあるベッドに寝かせていた。
機械の復旧が終えると、意識を失う彼女は無理やり縛る必要もないとしてブランクは広いベッドに横になる彼女の傍に行き、ベッドの縁に腰掛けた。
見下ろした女は彼の婚約者だった女とは似ても似つかない。
ブランクの恋人はもっと綺麗だったと彼はいうが、周囲は普通の女だといった。
彼女は時計塔の考古学部門にやってきた。アヴニールという名前だけは歴史があり有名だと言うが、その頃のブランクはまだ魔術師としてもあまりにも若くて非凡な青年だった。その女は授業では寝て、当たり前にできることは何一つできず、何故こんな場所にきた?と聞いた時「大学が落ちちゃって、知り合いの推薦でここに来たの」と笑って答えた。
ここはそんな単純な、一般人の場所じゃないんだとブランクは時計塔の中で劣等感に苛まれて生きてる中で感じたが、彼は努力を惜しまずにメキメキと技術を伸ばした。古代魔術や歴史については知識がある上に彼と相性が良かったのもあるだろう。
アヴニールは相変わらず魔術師としてはどうしようもない女であり、周囲にバカにされてばかりだが、ブランクは長く彼女と共に過ごしていたゆえに気にならなくなっていた。
男と女は共に過ごしていくうちに親密になり、それがどんなに自分に及ばない女だとしても少しくらい構わないと彼は思ったのだ。
そして、恋人となる中で彼女は「私の家ってすごく長い歴史あるらしいんだけど、よく分からないんだよねぇ」とアイスコーヒーを飲みながら呟いた。
ブランクは彼女の家のことを調べればそれがただ"長い"だけの家ではないと気付き、そして何年も共にいるうちに彼女は時計塔もやめて普通の生活をしていたが、彼の興味は消えることはなく調べることを続けた。
「君は本当にすごい家の人間だ!君は"観測者"なんだろ?!」
「うん、そうだけど……別に何も無いよ」
「そんなわけない!アヴニールは本当に素晴らしい、あの大魔道士オブセルや弟子であり二代目が魔法使い……あぁアヴニール…なんて素晴らしいんだ」
いつしか彼は恋人ではなく"アヴニール"に心惹かれていた。
恋人は"観測者"であり、そんな存在がただの一般人として社会の中に紛れることを彼は信じられないと言い続けた。
交際を初めて十年近く経過する頃、ブランクは自分が"観測者"になる可能性をみつけた。それはアヴニールという存在は血を重視した者ではなく。その"名"を継ぐ者たちだったから。
だからこそ彼はアヴニール家に入り、自分もいつしか"観測者"になれるように努めようとした。彼女の両親に挨拶に行けば両親は優しく出迎えてブランクを抱擁して頬にキスをしてくれたことに、やはり彼らはお人好しで魔術師には向かない"観測者"なのだと認識した。
だからこそ自分が勤めれば完璧な"観測者"として職務をこなして見せると信じきっていた。プロポーズを喜んで受け入れた彼女を心から愛していたし、アヴニールという温もりある家庭を理解していたし、彼は自分がそれを"出来る"と信じていたものの、結婚式の前日に恋人から泣きながら言われたのだ。
「ごめんなさいブランク。私はあなたと生きられない。あなたは私じゃなくて私の"中身"が欲しいだけだもの」
「そんなわけないだろう、何故そんなことを言うんだ」
「気付いてないのね……貴方はいつからか私を見ていない。あなたは私の名前を呼ばなくなった。いつからか君や"アヴニール"や"観測者"としか呼ばなくなったのよ」
そんなわけがない。
そんなわけがあるはずない。
私は君を愛してる、君を愛しているからこそ。
大切な"アヴニール"を継ぎたいと思うだ。
こんなにも妻想いの夫がいるはずがないと彼は心から思ったのだ。
そして、一つの考えが浮かんだ。
この女は不貞を働いている。
外の社会で一般人として生きているのだから当然だ。
くだらない男と共になろうとしている。
だから、そんなことをいうのだ。
そう思い、気付いた時には足元で泣き腫らした婚約者が打たれた頬に手を添えてブランクを怯えた目でみつめた。
「私の名前を呼んで」
彼女がそういった時、ブランクは何も言えなかった。
そして彼女は明日に向けてのウエディングドレスの試着をした姿のままで逃げ出し、次の日の結婚式に新郎の控え室に来たのは彼女の父親だった。
ブランクは新婦の用意はどうですか?とにこやかに答えると来ないと言われた。結婚式もしないと言ったことにブランクは意味が理解できないと思った。
『君のような男は珍しくないのだよホワイトくん』
娘は若いしこの家のことをあまり知らなかったから分からなかったようだがね。と言われて、分厚い封筒を渡されたブランクは封筒の中身を見ると紙幣がビッシリと入っていた。結婚式の費用なのだろう。
まるでそれはアヴニール家からの手切れ金のようだと思えて、ブランクは思わず封筒を地面に叩きつけて叫んだ。
あんなにも愛したのに、
あんなにも大切にしたのに、
あんなにも想ってやったのに。
そして彼は数年間、どうすれば自分も観測者のように"到達"出来るのかと考えた。あれが自分の目指す場所だと思えた。
そしてアヴニールへの憎しみを募らせたものの、聖杯戦争が知らぬ間に発生した時にマスターに選ばれなかったことに絶望をしたが、その絶望が自分の長いのように黒い泥に変わり、世界を巻き込み、飲み込んだのだ。
そして世界からアヴニールも全員死んだと彼は気付いては、どう到達するべきかと思っていた。パーツを取り除くだけでは意味がない。記録を全て引き継いでやらねば"観測者"になれないのだから。
そして、世界が終わりに近づく時になって宿った令呪で勝利を収めて、聖なる白き聖杯を手にしてやろうと思ったが、そんなことは不要となった。
「あぁこの光、"観測者"の光だ……あぁ主よ、私をお救い下さるのですね。もちろん答えてみせます、今度こそ私が"アヴニール(未来)"となってみせましょう」
そういって眠るエクレール・アヴニールの髪に手を添えて額に口付けをしながらもう一度胸元や手首や首にコードをつけた。
まるで自分こそがこの世界の"観測者"だと言わんばかりの笑みを浮かべて。
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